CLOSE

研究者インタビュー 猪口純路教授

世の中で起きていること、あるモノが売れていること、その背後の論理はこういうことなのか、社会で起こっている現象を説明しているのがいちばん腑に落ちたのがマーケティングでした。

猪口純路教授

猪口純路 教授
INOGUCHI junji
アントレプレナーシップ専攻


マーケティング戦略、特に「市場志向」を研究テーマとしています。

大阪出身ですが、小樽商大が母校です。ここでマーケティングの面白さに出会いました。マーケティングの授業が身近でした。

神戸大学大学院の博士課程では清涼飲料水の製品開発を対象に研究しました。ジュースやお茶を買うときに、この飲み物にはこういう技術的裏打ちがあるから買う、という人はまずいないでしょう。技術による差別化ではなく、多くは意味やコンセプトによる差別化で商品を売ろうとします。意味やコンセプトのように多義的なものをベースに商品を開発しようとする場合、どういう社内コミュニケーションが重要なのか。それも、会社によって考え方やスタイルが違います。A社の場合は、情報交換のフォーマットに配慮しながら社員から広くアンケートのように情報を集める、B社の場合は、初期から少数ながら多様なバックグランドを持ったメンバーからなるチームで社内外でのフィールド・ワークや議論をしながら共通理解を進める、というように。

 

実際の製品開発の話を聞ける場所を求めて、国産デニム発祥の岡山県倉敷市、児島地区に通いました。

 

前任校は広島市立大学でした。実際の製品開発の話を聞ける場所はないか、と探したところ、岡山県倉敷市の児島地区はアパレル産業の集積地としては日本一であることがわかり、そこに通うようになりました。  児島は国産デニムの発祥の地です。実は「真田紐」や「備後かすり」の技術があったからこそ国産デニムが生まれたのですが、今はデニム関連メーカーがたくさんあります。ジーンズのリベット(ボタン)を作る会社、ダメージ加工の会社、染色業者、洗濯業者、縫製業者、等分業が進み、技術が集積しています。

国産ジーンズを作る会社もたくさんできましたが、市場に向けて価値を作れるようなプレーヤーがいないと、産地の技術も活かせません。市場を見ないで技術だけを追い求めてもだめなのです。技術の集積の中で、誰に何を頼めばよいのかを知り、こういう人に向けて、こういう値段で売りたいという考え持ってビジネスを進めている企業が成功します。

反対に言えば、ターゲットを知らずにモノを作っている人がいっぱいいるということです。評価してくれる人に向けて売れていない、のはもったいないです。

 

今持っている価値は何で、誰に伝えたいのか。それを見極めることこそ「ブランディング」。

このように市場理解のために努力をし、そこから生み出された知識を組織的に共有し、利用しようとすることを「市場志向」と言います。この10年くらいは、様々な産業や組織における市場志向の在り方や効果、促進要因や阻害要因などを研究しています。

「ブランディングしたい」という話をよく聞きます。ここでも市場の理解すること、とりわけどのような顧客層とブランド価値を共有し高めていくのかを見極めることが大切です。闇雲に新たなブランディングに取り組むよりも、既にある技術、歴史、意味など、製品・サービスに内在する価値を考え、それをきちんと評価して求める人に、アプローチしていくといった考え方が大切でしょう。

ある刃物産業の集積地では、ホームセンターのような量販店から、高級クラフト専門店、国際展示会、海外へと、訴求対象を変えることで成功しました。今持っている価値は何で、誰に伝えたいのか。それを見極めることが重要で、それができるところが残っていくとも言えます。北海道の食品や観光なども同様だと思います。

 

マーケティングによって、概念自体を創造していくことができるのです。

マーケティングという学問の固有性は「創造的適応」にあると思います。つまり、プレーヤー自身が環境に働きかけて、環境を変えるようなことが起こります。例えば「かっこいい」や「かわいい」ということの概念が、企業のマーケティングによって変わってしまうようなことがあります。環境条件に対する適応だけを説明するのではなく、環境自体を創造して、適応していく。これがもっともマーケティングらしいところです。

環境に対する働きかけ、その変化する環境の中での適応、それらの相互作用を捉えるような研究をするのは難しいところも多いですが、市場志向をキー・コンセプトにしながら研究を続けていきたいと思っています。

 

北海道の地域での研究として、医療や観光の分野に取り組み始めました。

地域にある企業等で、その成長を拒んでいる要因は何なのか、そういう課題を解決していきたいです。日本の多くの地域企業に共通する課題を解決できるような研究を、医療や観光の課題先進地である北海道で取り組むことで社会的な貢献を目指したいです。それに医療や観光を対象としながらも、先進的な課題に取り組むことで、特定産業に固有の研究ではなく、より射程の広いマーケティング理論にインパクトを与えるような学術的な貢献もしたいです。あとは、私のメインの学生は経営者や管理者、あるいはそれを目指す人々が大半ですので、困っている企業の経営者が膝を打つような研究がしたいです。

 

学生と一緒に、ゲストハウス経営に挑戦。

ゲストハウス

学部学生との活動として、今年からゼミでゲストハウスの経営を始めました。座学だけではなく、日ごろの学習や研究の知見を活用しながら、外国人観光客をターゲットとし、ゲストハウスのマーケティングについて、実践的な試みをしていく予定です。

 

マーケティングという学問の面白さを教えてくれた商大生時代。

個人的なことを少しお話ししましょう。大阪出身の私が小樽商大を選んだのは、テニスでインカレに出ていること、交換留学できること、国立大学であること、公認会計士になれそうなところ、という条件にかなう場所を探した結果、当時の日本ではここしかなかったからでした。会計学に対する興味は維持できませんでしたが、テニスと留学の夢は実現しました。当時所属し、マーケティングの面白さを教えてくれたのが高宮城先生のゼミでした。まさか自分が大学に戻り、今一緒に学生を教える立場、しかも時には二人で一つの授業を担当することになるとは不思議なものです。妻も商大の出身。結婚を機に本籍地を商大の住所、小樽市緑3丁目にしたんです。これ、本当です。

猪口 純路(イノグチ ジュンジ)

小樽商科大学卒、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程。修士(商学・神戸大学) 広島市立大学国際学部准教授を経て、2012年より小樽商科大学准教授、2015年より小樽商科大学、大学院・商学研究科アントレプレナーシップ専攻、教授。

研究者総覧

Column 商大探舎 Vol.22

勤労動員 その2

1938(昭和13)年以降に実施されていた集団勤労動員は、戦局の深刻化とともに、新たな段階に達する。1943年、政府の決定した「学徒戦時動員態勢確立要綱」にもとづき、小樽高商は北大、帯広高等獣医などとともに学校報国隊北海道地方部を編成した。小樽高商では全校生を3班に分け、八雲、千歳、女満別の飛行場建設に動員した。

勤労動員(岩原秀夫「勤労と兵役の中の緑丘生活」『小樽商大緑丘会報』 2,196.6.30)

資料
請求