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エバーグリーンからのお知らせ

2021.10.06

令和3年度第1回講義:EG講座U30「『SDGs/ESG』の本当のところ」

講義概要(10月6日)

 

○講師:

梶川 圭太 氏(平成27年 商学科卒/三菱地所株式会社)

石川 瑞生 氏(平成29年 企業法学科卒/経済産業省)

江野 秀一 氏(平成30年 商学科卒/株式会社電通)

 

○題目:「『SDGs/ESG』の本当のところ」

 

○内容:

「エバーグリーン講座U-30」は、「10年後の自分自身の姿」を具体的にイメージしやすい20歳代の若手卒業生たちが登壇して、鮮度の高い時事的なテーマについてディスカッションをする。受講生に複眼的な視点を与えるとともに、多様なキャリアの選択肢を示すことを目的としている。

2021年度は、「SDGs/ESGの拡がりが企業活動や社会システムにいかなる影響を与えているのか、またそれらがもたらす仕事の内容や働き方の変化」を取り上げ、卒業生3人が東京からZoomで登場する。

 

 

 

「SDGs」と「ESG」から見る、
次代の価値観とビジネスのあり方

 

 

梶川 圭太 氏(平成27年商学科卒/三菱地所株式会社)

 

 

 

 

 

ゼミで鍛えられた、社会人の、そしてビジネスの基礎

 

 

私が小樽商科大学に入学したのは、2011年4月でした。2年生の途中までは、居酒屋や焼き肉屋など飲食店でバイトをして、稼いだお金は飲み会や旅行でパッと使うという生活。ときどきバスケットボールのサークル(CLUTCH)で汗を流したり。まったく実に享楽的な毎日でした。

一方で、徐々に将来への不安も湧いてきました。ゼミでしっかり勉強しようと思い、大津ゼミで地域活性化や都市計画などについて真剣に学び始めます。観光を基幹産業にする小樽の資源を活かした、まちづくりのさまざまな可能性を研究したり、「ビジネス・プランニング・コンテスト」に応募したり。2年生の終わり頃から様々な活動に注力するようになり、このような活動の甲斐もあり、三菱地所(株)に入社することができました。

 

三菱地所は、オフィスビルやマンション、ホテル、ショッピングセンターなど、国内外でさまざまなタイプの不動産開発に取り組む、いわゆる不動産総合デベロッパーです。皇居に隣接する世界有数のビジネスエリアである東京の「丸の内」で展開する事業は特に知られるところで、「丸の内の大家」などとも呼ばれます。丸の内には上場企業の本社が約80社もあって、毎日約28万人が働いています。

また、単に不動産を開発するだけに留まらず、例えば丸の内エリア内における先端技術の実証実験の開催や、就労者・来街者の方々に満足いただけるような各種イベントの開催など、様々な企業と協働で、これからのあるべき都市環境を見すえた活動を積極的に行っていることも是非ご認識いただきたいと思います。

さらには、現在、大手町・丸の内・八重洲・日本橋の結節点となる東京駅前の常盤橋に「Torch Tower」という日本一の高さ(約390m)となる予定の再開発プロジェクトも手掛けています(2027年度竣工予定)。

北海道の実績としては、札幌大通のホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」や円山のショッピングセンター「マルヤマクラス」、札幌駅北口の「札幌北ビル」などがあります。そして昨年(2020年)に民営化された北海道の主要7空港を運営する、北海道エアポート(株)の中心企業の一社でもあります。過去には、「森林公園パークタウン(札幌市厚別区)」や「おたる望洋パークタウン」などのニュータウンの開発実績もあります。

 

私が入社したのは、2015年。住宅を扱う三菱地所レジデンスというグループ会社でキャリアがはじまり、そこで営業窓口や新規プロジェクトの獲得、再開発プロジェクトなどの仕事を担当しました。そして2019年度から三菱地所に戻り、「サステナビリティ推進部」という部署で働いています。サステナビリティに関する全社的方針の戦略立案や、社内の取り組み推進、社外への情報発信や投資家対応といった業務を担当しています。その傍ら、2019年の夏には、1か月間ほど、フィリピンに語学留学もしました。

 

 

 

まちづくりと親和性が高いSDGs

 

 

さて、今日の講義のテーマである「SDGs」と「ESG」ですが、1年生の皆さんは、SDGsという言葉は耳にしたことがあるかもしれませんが、「ESG」はあまり馴染みがない言葉かもしれません。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で、気候変動や人権問題などの社会問題について、企業が取り組むべきテーマのことを指しています。

SDGsが、持続可能な社会の実現に向けた重要なテーマを整理したもの(17の大きな目標と具体的な169のターゲット)であり、国際社会からの要請と位置付けるとすると、ESGは、主に機関投資家や金融機関などの資本市場側からの要請とも言われており、企業側にとってはより実務的な切り口と捉えることもできます。

具体的な「ESG」の内容としては、「Environment」には、脱酸素や資源の適正利用、生物多様性に向けた取り組み、「Social」には、従業員や取引先企業の人権が守られているか、あるいは社員の多様性が十分に尊重・確保できているか、労働環境はどうか、といったポイントがあります。「Governance」では、透明性の高い意思決定を実現するための機関設計や報酬制度設計といった項目が挙げられます。

 

SDGsはテーマが非常に多岐にわたるので、ビジネスモデルや事業形態などによって、その企業がどの分野に関連性が高くなるかは、大きく異なるでしょう。いずれにしても、会社が全社的な方針や戦略を掲げる中で、現場の社員ひとりひとりがしっかりと自律的な意識をもって行動することが重要だと思います。

個人的には、まちづくりはSDGsととても親和性が高いと考えています。

例えば「脱炭素」や「再生可能エネルギー」、「循環経済(サーキュラーエコノミー)」、「多様性と包摂(Diversity & Inclusion)」、「生物多様性」といったSDGsと関連する重要なテーマは、これからのまちづくりにおいて欠かせないテーマです。こういったテーマに具体的に応える取り組みの一例として、「保有・運営する施設における再エネ電力の導入」、「脱炭素にも資する先端モビリティの活用」、「障がい者やLGBTQに配慮した設計」、「多様な生きものが共生する緑豊かな環境づくり」、などが挙げられます。

 

 

 

石川瑞生 氏(平成29年企業法学科卒/経済産業省)

 

 

 

 

 

企業の人材政策をめぐる、経済産業省本省での仕事

 

 

私が卒業したのは2017年です。

在学中は、林松国先生のゼミで、中小企業の経営について研究しました。サークルは、次に登場する江野さんの先輩になりますが、YOSAKOIソーランサークル(翔楽舞)。

2017年の春、経済産業省北海道経済産業局に入省しました。配属先は、総務企画部総務課。まず、局内全体の調整や取りまとめ、会議の運営といった仕事をしました。

一年後に、地域経済部産業技術課産学官連携推進室という部署に異動になり、道内企業の技術開発の支援、企業と大学の連携支援、起業の環境づくりなどの仕事をしました。そしてコロナ禍の中で昨年(2020年)5月、東京の経済産業省本省に出向となり、いまに至ります。産業人材課で、多様な働き方に向けた環境の整備や、企業が人材の価値を最大限に引き出すことをめざす、「人的資本経営」を進める仕事をしています。

 

ESGをめぐる話をします。

「ESGとは」、という説明は梶川さんのお話しにあった通りですが、なぜこういうことが課題になってきたかといえば、企業経営をとりまく環境の大きな変化があります。キーワードでいえば、「グローバル化」、「デジタル化」、「少子高齢化・人生百年時代」といったワードが上げられるでしょう。

企業はこうした潮流に対応しなければなりませんが、そこでははたして、単に事業や経営の戦略を変えていくだけで良いのか、という問題意識が起ち上がります。根はもっと深いのです。

つまりグローバル化でいえば、海外市場を見すえてグローバルな組織のガバナンス自体を再構築していかなければなりません。デジタル化では、技術の進歩によって業務内容や求められるスキルが変わりました。これまでの日本企業のセオリーや文化が陳腐化して、「勝ち筋」を再検証しなければならなくなっています。少子高齢化では、働き手が多様化して、個人のキャリア意識が高まっているという状況があります。

 

海外のある調査(Deloitte社「Board Practices Quarterly-2021boardroom agenda」)からは、取締役会が、2021年の優先課題として「人」を重視して、「取締役会や従業員のDEI(Diversity・多様性、Equity・公平性、Inclusion・包括性)を重視することや、「人的資本マネジメント」を優先する、という傾向が見てとれます。また、投資家も企業の人材関連情報に着目しているというデータがあります(独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の人的資産情報の『見える化』に関する研究」2018年)。

一方で、「日本企業の人材マネジメントに関する課題認識」という調査(パーソル総合研究所「タレント・マネジメントに関する実態調査」HITO REPORT 2019年)では、「人事戦略が経営戦略に紐づいていない」、という問題意識も浮かび上がっています。ESGのとくにS(Social)とG(Governance)においては、企業の人材策が鍵を握っているのです。

 

 

 

社会と企業に起こっている新しい潮流

 

 

私が所属する産業人材課が現在取り組んでいることをお話ししますが、同時に、日本の企業の人事政策にいま新しい潮流が起きていることを知ってほしいと思います。

昨年度、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」という催しが、経産省で6回にわたって開催されました。企業の競争力の源泉は、つまるところ人材です。そこで、持続的な企業価値の向上と「人的資本(Human Capital)」について議論することが目的でした。そこでは、経営戦略と適合する人材戦略を立案、実行していくために、経営陣、取締役会、投資家がそれぞれ果たすべき役割、投資家との対話の在り方、関係者の行動変容を促す方策などが検討されました。

 

かつて人材マネジメントの目的は、人的資源をいかに効率良く管理していくかにありました。ですから人事政策は必ずしも経営戦略と連動せず、人材はいわばコストだったのです。しかし現在は、人材は企業が投資する対象です。各企業は人的資本によって、新たな価値を目に見えるかたちで創造することをめざしています。

わかりやすくするために、大きな流れをシンプルにまとめてみます。

社員と会社の関係でいえば、会社は社員を囲い込み、社員は会社に依存する傾向がありました。もちろんそこに、日本的な安定した職場環境が育まれてきたわけですが、しかしそれではイノベーションは生まれにくいでしょう。簡単なことではありませんが、これからは、自律した社員と企業は互いに選び合い、共に成長していくことが目標です。そこから、世界に通じるイノベーションが生まれるはずです。企業が社員を囲い込むということは、年功序列の終身雇用を意味します。しかし選び選ばれることを前提にすれば、仕事の現場は、専門性を土台にした多様でオープンなコミュニティになるでしょう。オープンなコミュニティには、メンバーの出入りがあり、豊かな多様性が生まれます。

さらに、人材戦略の変革に向けては、従業員(労働市場)、経営陣、投資家(資本市場)という3つのステークホルダーのあいだの深いコミュニケーションが欠かせません。そこから、企業価値が持続的に向上していく基盤が作られます。

 

東京証券取引所は2021年6月、「コーポレートガバナンス・コード」を改訂して公表しました。上場企業が守るべき企業統治の行動規範のことです。詳しい説明は省きますがそこでは人的資本に関しても、中核人材における多様性の確保や、人材戦略の重要性、経営戦略との整合性を意識した人的資本投資情報の開示などが盛り込まれています。

 

さて、産業人材課がこうしたことに取り組む中で、私自身の仕事は何かというと、研究会の実施に当たっては、「委員は誰に依頼するか?」、「日程をどうするか?」、「議題や資料をどうするか?」、「当日の進め方はどうするか?」といった事柄を決めて実行することです。セミナーの実施では、「テーマの設定と登壇者の選定とスケジュール調整」、「登壇者への依頼状の作成」、「当日のご案内」などになります。

 

私は昨年(2010年)5月に、北海道から東京の本省に出向しました。それが良かったな、と思うことをあげてみます。

生まれてから就職までずっと北海道暮らしで、道外の友人や知り合いも少ない私でしたが、道外の人と関わりを持っていっしょに仕事をすることで、北海道がどのように見られているかが体感的にわかってきました。

そして、まだ漠然とではありますが、自分がこれからやりたいことが見えてきました。国レベルで政策を考える現場はやりがいに満ちていますが、その過程で得た知見やネットワークを、北海道に戻ったときに活かしたい。北海道のために何かしたい。そう考えるようになりました。

 

 

 

江野 秀一 氏(平成30年商学科卒/株式会社電通)

 

 

 

 

 

自己分析すれば、熱しやすくセンチメンタルな人間

 

 

皆さんこんにちは。

私は自己紹介を、「先天」「後天」「未来」という3つに分けてしてみます。

まず生まれる前の「先天」として、当然両親がいます。父はわりと左脳的というか、ものごとを理詰めで考え、いまも毎日読書を欠かしません。母は逆に感性型、右脳型の人間で、いまの言葉でいえば人への共感力が高いと思います。私自身は、両親それぞれの良いところをバランス良く受け継いでいれば良いのですが、それは自分ではよくわかりません。

 

私は実は家族(クールな妹を入れて4人)が大好きで、「おやすみ」「いってきます」「いってらっしゃい」、と挨拶をかわすたびに、もしかしたらこれが最後になってしまうかもしれない、などと考えてしまうセンチメンタルな人間です。もしそうなっても、最後の記憶が少しでも良いものであるように、そのつど家族全員としっかり握手をします。広告業界は体力気力勝負のゴリゴリの世界だ、と思っている人もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。僕のような人間も少なくないと言えるでしょう。

 

「後天」として、自分の生い立ちをごくごくかいつまんで。

札幌の手稲区で生まれ育ち、高校は札幌西高校。2014年に商大に入り、2018年に(株)電通に入社しました。

小学校のときから人が喜んでくれるのが好きで、家庭科クラブに入っていろいろなものを作ることを楽しんでいました。勝手に友だちのバースデーカードを手作りして渡したりしていたのです。

また物心つくころからサッカー少年で、中学校はサッカーに夢中。ボールがあるとすぐ走り出すので、監督から「犬」と呼ばれていました(笑)。

足が速いので、高校は陸上部。100m、200m400mを走りました。学校の運動会では当然大活躍。当時好きだった女の子に、そんなに走るのが好きならずっと走ってればいいのに、などと言われてしまいました。

 

商大ではYOSAKOIソーランサークル(翔楽舞)。人気のポジションである「旗振り」をして、これに夢中になりました。で、当時好きだった女の子にまた、そんなに旗が好きなら「ずっと旗振ってれば良いのに」と言われてしまいました。

大学時代マレーシアに1か月留学しました。行ってみると驚いたことに、私はとてもモテました(笑)。ある女の子に、「秀一はずっとマレーシアにいればいいのに」、と言われました。「ずっと○○○してればいいのに」の中で、マレーシアでのそれは日本でのとは全く意味がちがっていました!

 

Zoomで皆さんのリアクションも見えずにこんなことを言っていると心が折れそうになりますが(笑)、そんな私のことはこれくらいにして。

電通に入って、いまはストラテジックプランニングの仕事をしています。かんたんに言うと、広告を作る手前の、戦略づくりです。

これまでに、シャンプー&トリートメントのブランドの立ち上げや、オンラインマーケットプレイス上のコミュニティの運営、冷蔵庫のブランド戦略、通信キャリアのブランド戦略などの仕事に従事してきました。商品開発のコンセプト作りから参画する仕事もあります。

また業務以外でも、昨年秋は、「宣伝会議」さんが主催する販促プランを競うコンペにファッションブランドのプランを立てて参加して、ゴールドを受賞することができました。

 

最後、3つ目の「未来」。

自分はこれからどういう仕事をしたいのか。組織の職名でいえば、クリエイティブディレクターをめざしています。広告制作の現場のすべてを統括する責任者です。そこをめざして、日々研鑽中というのが、入社4年目の現在の私です。

 

 

 

SDGsの取り組みを、社会に効果的に訴求するために

 

 

電通という企業は、広告宣伝の領域以外にもとても幅広い分野で事業をしています。私が短時間で説明しきれるものではとてもないので、みなさんぜひ、興味があったらHPを見ていただきたいと思います。

皆さんのイメージする広告代理店の仕事の領域の外にある仕事として、例えば北海道では北海道日本ハムファイターズさんが北広島市で建設している「北海道ボールパーク」があります。そのコンセプトづくりから当社が参画しています。

またいま話題を呼んでいるのが、マグロの尾の断面から品質を判定するAI、「TUNA SCOPE」というシステムで、これを開発して運用するプロジェクトなども行っています。

 

さて広告とSDGsという大きな枠を考えてみると、いまやSDGsはさまざまな企業が展開するたくさんの事業の、根幹に据えるべきものになっています。そして私の仕事でいえば、企業のそうした取り組みを、いかに効果的に社会に訴求していくかが問われています。

皆さんは「○○○ウォッシュ」という言葉を聞いたことがあると思います。ある企業が、うちはSDGsをテーマにしてこんな取り組みをしています、とマーケットに強くアピールしながら、その実体はとてもお寒いものだった場合、SDGsというきれいなイメージをまとって、実は至らない部分をごまかしていることになります。これが「SDGsウォッシング」です。

 

企業とSDGsでは、あくまで企業の本業に深く根ざしていることが重要です。本業とぜんぜん関係のない分野で、当社はSDGsに取り組んでいます! と訴えても、それは薄っぺらなイメージづくりでしかないでしょう。本業に根ざしたSDGsの取り組みを無理なく持続的に行い、それによって適正な利益を上げ続ける。そのことをもって社会とどのようなコミュニケーションを図っていくか。私の仕事はその領域に成り立っています。

 

 

 

 

仕事の現場での「SDGs」と「ESG」は?〈Q&Aによるディスカッション〉

 

 

〈担当教員より〉

Q 梶川さんから、三菱地所のSDGsESGに関わる先進的な考え方や取り組みなどを教えていただきましたが、不動産や建築の分野で、これはだいたいの大手企業が共有している意識や取り組みといえますか? また、そうした中で、国の役割はどんなところにあるとお考えですか?

 

 

〈梶川圭太〉

A 私たちは業界に先駆けていろいろな取り組みを行ってきましたが、業界全体としてもとくにこの1年くらいは、SDGsの考え方が経営戦略の中枢に入ってきています。その意味で先頭グループにいる私たちも油断できないのですが、もはや経営にSDGsを取り入れなければ企業は生き残れない時代になっていると思います。皆さんはやはり消費者の目線でSDGsを捉えると思いますが、私たちは企業の経営の針路を左右するものとしてこれを見ています。

2020年10月に日本政府が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」は、国内でのSDGsの流れを加速させた一つの大きなきっかけと言えるかと思います。一方で、ヨーロッパ諸国を中心に、海外ではさらに高いレベルで国・自治体等が舵取りをしています。具体的には、高いハードルを設けて、環境基準や性能がそこに達していない建物の新築や改修、賃貸ができないような規制を導入している国や地域もあります。今後、日本の政策においても、諸外国の進んだ取り組みを参考に、更に要求水準や規制が強まっていく可能性はあると思います。

 

 

〈担当教員より〉

Q 同様の質問ですが、江野さんはどうお考えですか。いまSDGsやESGは、企業や商品のブランディングに欠かせないものになっているか、あるいは事業活動のベースに深く関わるものになっていると言えますか?

 

 

〈江野秀一〉

A はい、そう思います。もちろん企業間や部署による温度差はありますけれど。その上で、大量生産と大量消費、大量廃棄が前提で、消費者にいかに効率良くアプローチできるかが問題だった20世紀型のマス広告の世界と、細分化された個人の嗜好に直接働きかける、現在のSNSの手法には大きな違いがあります。

また企業活動の目的はあくまで利潤の追求ですから、適正な利益をあげながらSDGsをどのように実践していくかが課題ですね。その意味で私はプレゼンテーションの最後で、あくまで本業にしっかり根ざしたSDGsでなければ持続できない、と説明しました。

 

 

 

〈担当教員より〉

Q 江野さんだったら、梶川さんにどんなアドバイスができそうですか? また、大量生産・大量消費が前提のマス広告の時代から現在の循環経済を志向するような社会になって、広告宣伝の世界では、その大きな転換をどのように受けとめていますか?

 

 

〈江野〉

A いきなりこの場で三菱地所さんにアドバイスするには無理がありますが(笑)、一般論でいうと、すばらしい取り組みを行っている企業が、そのことを広く認知されたいと考えるとき、私たちの仕事があります。取り組みをストレートに社会に伝えても効果は限られているので、私たちはそこにレバレッジ(てこ)を効かせるノウハウをさまざまにもっているわけです。

経済の枠組みが、効率を求めた大量の生産と消費からサーキュラー・エコノミーの時代になってきた、という大きな変化ですが、ひとつ重要なのは、企業が主にどの層を見すえて進んでいくか、ということではないかと思います。つまり、一般に企業益の主体は、ロイヤリティの高い上位顧客によってもたらされるからです。ですから、SDGsに意識の高い層に向けて効率の良いアプローチをしていこうと考えると、私たちはそこに狙いを絞ってクライアントの要求に応えます。

 

 

 

〈担当教員より〉

Q 石川さんにお聞きします。一般の認識では、経済産業省はほかの官庁にくらべて民間企業に近い文化があると思うのですが、石川さんご自身は、入る前と後でそうした認識に違いはありましたか?

 

 

〈石川〉

A 私もそんなイメージをもっていました。まず就活で説明会に行ったとき、若い先輩たちが活き活きしていました。そして実際に中で仕事をしてみても、とくに私が所属している部署は平均年齢がとても若くて、新しいことにどんどん挑戦していこうというマインドがあります。また、民間企業から出向している人など、出自も多様性が豊かで、それも活力の源になっていると思います。

 

 

 

〈担当教員より〉

Q プレゼンテーションでは少し時間が足りなかったと思うのですが、今年(2021年)の6月に改訂された「コーポレート・ガバナンスコード(企業統治指針)」について、もう少し説明していただけますか?

 

 

〈石川〉

A ありがとうございます。「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」とは、上場企業の経営者が取り組むべき指針で、東京証券取引所や金融庁が中心になってまとめられました。企業が株主をはじめ、顧客や従業員、取引先などさまざまなステークホルダーとの望ましい関係性を保ち、事業活動をチェックする取締役会の機能などについて定めたコード(規程)です。これに従っていない企業には、それはなぜなのかを説明する責任が伴います。私の仕事に関わるのは特に人材の領域です。この指針では、企業・雇用主に対して、雇用の目標や方針をきちんと出してくださいとうながし、例えば社外取締役の比率や、人材の多様性(女性・外国人・中途採用者など)を担保することが示されています。今年の改訂では特に、企業の中核人材における多様性の確保がうたわれています。

 

 

〈梶川〉

A 上場企業は、財務諸表などに加えて、このコーポレートガバナンス・コードに即した情報開示を行っています。学生の皆さんには、この情報開示は専門的で難しいかと思いますので、ESG全般の主要な取り組みも掲載されている「統合報告書」をご覧頂くことをおすすめします。財務諸表や経営計画などと合わせて、統合報告書などで、サステナビリティやESGの取り組みをチェックすると、企業が目指すべき方向性がよりクリアに見えてくると思います。

 

 

 

〈担当教員より〉

Q 霞ヶ関官僚の仕事はとてもハードで深夜残業は当たり前、というイメージもありますが、石川さんの仕事環境はいかがですか?

 

 

〈石川〉

A 私の現在の部署にはそういう過酷な状況はありません。そうした環境も背中を押していると思いますが、諸先輩の勉強ぶりには驚かされます。やはりつねに猛烈に新しい知識や情報をインプットしなければならない職場なので、働きながら大学院で学び直しをしたり、資料や関連書籍を読み込むスピードと量がすごいな、と感じます。

それと、組織におけるいわゆるDI(ダイバーシティ&インクルージョン・多様性と包摂性)が議論されるようになりましたが、私はこれを単純な数字や属性でとらえるべきではないと思います。女性の比率や障がい者の比率が○%、という属性だけではなく、もっと目に見えない要素、つまり生まれ育った文化や知識や経験の多様性が、組織を活気づけ、創造力を高めるのではないでしょうか。

 

 

 

学生生活へのアドバイス

 

 

〈学生より〉

Q 大学時代の経験で、いまとくに役立っていることは何でしょうか? そして、学生時代にもっとしておくべきだったと感じていることはありますか?

 

 

〈梶川〉

A 学生時代に学んだり経験したことで、広く言えばいま役立っていないことはないと思います。私の場合はとくにゼミですね。正解のない問いをめぐって、自分で調べ、考え、すぐ行動する、といった基本を繰り返し鍛えられたと思います。

 

 

〈江野〉

A 私もゼミですね。英語を鍛えた語学留学も貴重な経験でした。後悔していることと言えるのは、好きなこと、興味を持ったことをさらにもっと追求すれば良かったかな、と思います。皆さんの場合、好きなことを真剣に突き詰めていけば、その先に自ずと仕事の針路も見えてくるでしょうし、それがお金を生み出すでしょう。いまより少し先のことをつねに意識しておけば良いと思います。

 

 

〈石川〉

A 私は企業法をしっかり勉強したのですが、いま、マーケティングや経営学の基礎など、ほかの学科の講義もとても役立っています。それがあったので、仕事にもなんとか対応できてきたと思います。でも、あのときもっとこっちの分野の基礎を作っておきたかったな、という分野があることも事実です。会計学については、いまも自分で勉強を続けています。

 

 

 

〈学生より〉

Q SDGsへのさまざまな取り組みについて、企業の中のどんな部署でどのように決められ、それが全社的にどのように共有されているのでしょうか?

 

 

〈梶川〉

A 一般的に、私が所属している部署のようなサステナビリティやSDGsに関する専任部署が全体方針や戦略を立案しますが、理想的には、現場ごとに自部署ができることを考え、自走していくのが良いと思います。SDGsは、現在企業活動の基盤に組み込まれつつあるという話をしましたが、会社からの指示で各現場が受動的に動くのではなく、現場での自主的な発想や行動が、よりクリエイティブで面白い取り組みに繋がり、今後、グローバルにおける競争力を高めていくことに繋がるのではないかと思います。

 

 

〈江野〉

A 一方で視点を変えると、やはり消費者側の意識も重要ですね。広告の世界では、例えば「カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル」という世界的な広告賞がありますが、ヨーロッパではSDGsの訴求をベースにしたようなコマーシャルが、日本よりずっとたくさん出てきます。つまり消費者側にそういう意識が強いということ。品質、安さ、耐久性、環境への負荷など、商品を選ぶ理由にはいくつもの要素があると思いますが、どこに価値を置くかが、日本とヨーロッパではまだ違うのでしょう。

 

 

 

〈教員より〉

Q 私たちの社会全体がコロナ禍で苦しんでいるこの1年半ですが、最後に後輩たちへのエールをいただけますか?

 

 

〈江野〉

A 学校でもプレイベートでもいままでふつうにできていたことが、できなくなった。これはみんながそれぞれに経験していることでしょう。でも、DXもあり、逆に、以前はできなかったけれどもいまはこれがふつうになった、ということもたくさんあるはずです。皆さんには、そっちの方を意識してほしいと思います。わずか数年ですが、私の学生時代といまはまたずいぶん状況がちがいます。これからできることの発想やイメージをふくらませてください。

 

 

〈石川〉

A 私もほんとうにそう思います。私は昨年5月に東京に来ましたが、リモートワークでひと月以上職場の人たちと直接顔を合わせないこともありました。せっかく東京に来たのに、行きたいところにも行けない、というストレスもたまりました。でもできそうにもないことを悩むよりも、できることをしようと考え方を変えていきました。皆さんも、どうぞこの苦しい時期を乗り越えて、新たにできることに目を向けてほしいと思います。

 

 

〈梶川〉

A 皆さん、コロナ渦で不安で、ストレスも多いかと思います。しかし、厳しい言い方をすると、これはどこの大学生にも等しく言えることです。私も入学前に東日本大震災があり、東北を中心に日本中が苦しみました。このような状況でもできることをとにかく自分の頭でしっかり考えて、できることから行動を起こしてみると良いと思います。また、どのような資格があれば良いか、資格を取っておいた方が就職活動に有利になるか、といった質問を学生さんから受けることも少なくないですが、目的無く単に資格を取るのではあまり意味が無いと思います。資格に限らずですが、将来のビジョンや目的に向けて行動を起こす、資格を取るという主体的なアプローチでないとあまり有益な学びにはならないと思います。困難な状況においても、主体的に行動を起こすことが社会でも求められていますので、大変かとは思いますが、是非思考を止めずに何かしらにチャレンジしてみてください。

 

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