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2021.10.20

令和3年度第2回講義:山崎 加容子さん(H18卒)「転勤族を選択した女性の変遷 -ピンチをチャンスにした起業から現在まで」

講義概要(10月20日)

 

○講師:山崎 加容子氏(平成18年商学部経済学科卒/INSCAPE 代表・インテリアデザイナー)

 

○題目:転勤族を選択した女性の変遷 -ピンチをチャンスにした起業から現在まで

 

○内容:
卒業後入社した住宅の水回り機器メーカーで、私は「転勤族の妻」になった。転勤先でインテリアコーディネーターとして仕事をするために、いくつかの転機を乗り越えながら、結局私は、熊本でオリジナルの商品をつくり、事業を起こすことになった。その過程では、商大で学んだマーケティングや会計の知識が頼もしい武器になってくれた。子どものころから引かれていたインテリアの世界に飛び込み、ピンチをチャンスにしてきた、私の起業と現在を話したい。

 

 

 

転勤族を選んだ私の変遷

 

 

山崎 加容子氏(平成18年商学部経済学科卒/INSCAPE 代表・インテリアデザイナー)

 

 

 

 

モノづくりとインテリアの世界に引かれて

 

 

「転勤族を選択した女性の変遷」と題してお話します。変遷というくらいですから、商大を卒業してから、ピンチを含めていろいろなことがありました。いまは熊本で自分の事業を動かしています。
私は札幌西高校から小樽商大に第一志望で入りました。ゼミは国際経済学で、同期の学友の何人かとはいまも連絡を取り合う仲です。アルバイトもいろいろしましたが、物販や接客のバイトが多かったです。
就活はメーカー志望。モノづくりの仕事に関わりたいと思いました。母がカーテンやベッドカバーなど、いろいろな手仕事が好きだったという影響もあるかもしれません。転勤もある総合職を望みました。さらに、漠然とですが、チャンスがあればいつか自分でビジネスをしてみたいとも思っていました。私の父は美容師で、祖父は山の林業家。勤め人の世界とは違っていたので、その影響かもしれません。

 

2006(平成18)年にTOTO株式会社に入社しました。
まず札幌営業所に配属になりました。勤務地は当初どこでも良かったのですが、そのころ父が病気になってしまって、札幌を離れたくないと思い、札幌を希望したのです。そこでいわゆるルート営業の新人になります。TOTOの住宅機器を、住宅メーカーや工務店、設計事務所などに使ってもらうために営業するわけです。住宅資材の商社・問屋さんなどもクライアントになります。
4年ほど経って仕事の全体像がかなりわかったころ、同期入社の人と結婚しました。彼は盛岡勤務、私は札幌勤務だったので、私が盛岡に引っ越しました。彼はいわゆる転勤族ですから、このときから私は「転勤族の妻」になりました。
専業主婦でいるつもりはなかったので、良い機会だと思って、前からやってみたかったインテリアコーディネーターの勉強をすることにしました。仙台の「町田ひろ子インテリアコーディネーターアカデミー」という、社会人対象の専門学校に通います。1年間基礎から学びましたが、ロンドンでの研修もあって、インテリアの世界にますます目を開かれました。イギリスでいろいろ見たデザインやスタイルは、私を深く刺激してくれました。

 

そして盛岡の住宅会社に、営業アシスタント兼インテリアコーディネーターとして就職することができました。ログハウスなどを建てる会社です。ここがインテリアのプロフェッショナルとしての第一歩になります。ますます住宅やインテリアの仕事が好きになりました。でも1年も経たずに、夫がこんどは仙台に転勤になりました。仕方がありません。その会社は辞めなければなりません。
でも仙台では専門学校に通いましたから土地勘もあるし、人のつながりもありました。そこでフリーランスのインテリアコーディネーターとしてやってみることにしました。2013年からは、私が通ったインテリアコーディネーターアカデミーで講師の仕事もするようになります。

 

 

 

自分のモノづくりをしたい!

 

 

インテリアコーディネーターの仕事をするにしても、社員と個人事業主(フリーランス)ではずいぶん違います。会社員では仕事はつねに向こうからやって来て、社内のチームで取り組みますが、フリーの場合は仕事を得ることからはじまります。そして物件ごとにいろんな会社とプロジェクトを組むことになります。一方でさまざまな意志決定は、フリーなら自分の責任でできますが、会社勤めではそうはいきません。収入も、不安定ではありますが、やった分だけ増えていきます。でも、社会保険の手続きなどは自分でやらなければなりませんし、確定申告が必要です。私は商大で会計の基礎を学んでいますから、そうしたことは苦ではありませんでした。また、フリーには失業保険もありません。

 

仙台では、先輩の女性が産休に入ってその分の仕事を引き継いだり、激務が続いてダウンしてしまいました。でも仕事としてはとても順調だったのです。
しかし、またあの「転勤」がやってきます。今度は、ずいぶん遠い九州の熊本でした。私は、夫の転勤のたびに「失業」してしまいます。個人事業主としてやっていても、インテリアコーディネーターの仕事は、基本的にそのまちで成り立つものですから、遠くに行ってしまってはまたゼロからの出発です。
これではダメだ。なんとかしよう。私は真剣にそう考えました。
下請けのポジションでは、どこに行っても問題は解決しません。どこに行っても自分で自分の仕事を作り出せる、自分ならではの事業をしてみたいと思いました。

 

熊本では、まずホームページを作って、インテリアコーディネーターである私を知ってもらうことからはじめました。ブログもはじめました。「転勤妻インテリアコーディネーターの自邸模様替え」というタイトルです。
しかしなんということか、熊本市に引っ越して2週間後、あの熊本地震(最大震度7)に出くわしました。家の中はぐちゃぐちゃになり、棚やものにつぶされて、死ぬかもしれない、とほんとうに思いました。家も私も幸い大事はなかったのですが、片付けをしながら、どこか吹っ切れました。もうとにかく、思い切って自分がやりたいことをやってみよう、と。
では、何をするか? 私は私の名刺の肩書きに、どんな言葉が載せられるのか? 考えてみました。熊本の創業スクールにも通ってみました。じっくり考えた末に私は、オリジナルのカーテンを作って売りたいと思いました。カーテンは、多くの方が考えている以上に、部屋の印象を決める、インテリアの重要な要素です。光を調節して部屋を遮蔽するとか、断熱に効果があるといった機能のほかに、大きな魅力と価値があるわけです。インテリアコーディネーターとして腕のふるいがいのある世界だと思いました。
そしてカーテンといっても、作るのは「転勤族の妻」ならではのオリジナルのカーテンです。

 

 

 

カーテン市場のブルーオーシャンを見つける

 

 

創業スクールでは、ビジョン設定ワークというプログラムがありました。それには5つの枠組があります。
(1) あなたが取り組もうとする 社会課題は何か?
(2) その社会課題を解決するために、どのような事業を考えているか?
(3) 顧客は誰か?
(4) 顧客にとっての価値は何か?
(5) 取り組む社会課題が解決されると、どのようになるか?

 

当初私は、単にオリジナルのカーテンを作ってみたいと考えていました。熊本なら久留米絣を使った、地域の歴史文化を意識したようなものです。しかしあらためて考えてみました。カーテンの「社会課題」とはいったい何か?
転勤族の妻である私は、引っ越しのたびに、使っていたカーテンと新たな住まいの窓が合わずにイライラしていました。でも引っ越したんだから仕方ない、とあきらめていました。けれども社会課題として発想すると、引っ越しても使える、デザインの良い、高さ調節ができるカーテンを作れば、同じような転勤族や賃貸住宅で暮らす家族が買ってくれるのではないか—。
そこで私は、「転勤族の妻」として引っ越しのたびに悩んでいた問題を一気に解決する商品を発想したのです。それが、「高さが調節できるワンサイズのカーテン」です。
アイデアを具体的に形にするにはたくさんの試行錯誤がありました。私のカーテンはトップとボトムの2枚で構成されていて、クリップで2.5cmずつ高さの調整ができます。好みの位置でクリップを留めれば良いのです。日本の住まいに一般的だった1.8m(一間)の高さから、現代のマンションのバルコニーに出る2m以上の掃き出し窓まで、どんな窓にも対応ができます。商品名は、「どこでもカーテンSCAPE」。

 

「SCAPE」とは、LANDSCAPE(景観)のSCAPEで、カーテンの先に広がる景色と共にインテリアを楽しんでほしいという願いを込めたネーミングです。
そしてこのカーテンを展開するブランド名を、「INSCAPE」としました。インテリアの「IN」と「SCAPE」を組み合わせた、「室内の景色・室内景」という造語です。

 

こういう形に落ち着くまで私は、「カーテンを選ぶときに難しいと感じる点はなんですか?」といったアンケートをネットで採ってみました。QUESTANTという、便利なシステムがあります。
そして商品のポジショニング。
カーテン市場はまず、既製品かオーダーか、という区分けがあります。そしてそれぞれの中で、価格の大きな幅があります。どちらも中〜低価格ゾーンにはファストインテリアの大手が覇を競っていますから、ここではとても勝負できません。インテリアコーディネーターの仕事は、オーダーの中高級ゾーンに位置していました。でも賃貸に住む(いつかは引っ越しをする)方が、カーテンをオーダーしようとは思わないでしょう。
SCAPEのコンセプトは「既製カーテンでもオーダーのようなデザインを組み込むことができて、それがどんな引っ越し先でも無理なく使える」というもの。ですから既製品の中価格ゾーン以上がポジションです。この言葉はあとでまた触れますが、私はそこに「ブルーオーシャン」があると考えました。
どうせ転勤族だしとか、賃貸暮らしだからカーテンには最低限の機能があれば良い、と考えている方に、「どんな窓にも合わせて長く使える、おしゃれで上質なカーテンはいかがですか!」と訴求できます。

 

縫製は、地元熊本の企業で。また、障がい者施設でパーツを作ってもらうことにもしました。弟が障がい者なので、私は、障がいを持つ人たちが活躍できる場と機会を提供して、そのことでその人たちと私がともに満足できる仕事を成立させたいと思いました。アイデアを形にして、さらにそれを量産の仕組みに乗せていくことで、はじめて自分の事業が成り立ちます。
販売は、ネットショップがベースで、セールスにはSNSも活用します。在庫を持たなず、すべて受注生産とします。こうすることで、たとえ熊本を離れても、日本のどこででもビジネスが続けられます。

 

 

 

 

マーケティングからの発想を磨く

 

 

起業とは、単に会社を作ることではなく、世の中にそれまで存在していなかった事業を立ち上げることです。いま説明したことを、もう少し商大の講義に近い文脈でまとめてみます。
商品のプランニングで、私は4つの仮説を立てました。私の商品に興味を抱いてくれる人は—
仮説1. 引越し先でもカーテンを使い続けたいと思っている。
仮説2. 季節や気分でカーテンを模様替えしたいと思っている。
(カーテンを取り扱っていないインテリア系のショップも多いけれど—)
仮説3. ショップでカーテンを取り扱っていないのは、採寸などが煩わしいから。
(そして)
仮説4. 衣類がインターネットで売れる時代、カーテンもネットで売れるはず。

 

仮説というか私の願望が入っているのですが、これを根拠づけしたくて先ほど言ったネットのアンケートシステム、QUESTANTで聞いてみました。回答者は、知り合いとその周辺の人々61名。また、実際にインテリアショップに足を運んで、そこで働く方や経営者の方からも話を聞いたりしました。
例えば仮説1の「引越し先でもカーテンを使い続けたいと思っている」。
カーテンに対する不満を聞いたアンケートからは、賃貸住宅に住むかなりの人が、カーテンの寸法が合っていないと感じていることがわかりました。カーテン選びで難しい点は? という問いには、「寸法が合うかどうかがわからない」と答える人が、とくに賃貸住宅で多かった。でも、実はその方々は引っ越し先でも同じカーテンを何とか使いたいとは考えていませんでした。それを可能にする商品がそもそもないのですから、そんな発想自体が生まれないのだと思いました。
仮説4の、「衣類がインターネットで売れる時代、カーテンもインターネットで売れる」。これはインターネットで調べてみました。日本国内の消費者向けEC市場は13兆8000億円にも拡大していますが、インテリア分野の伸び率は低いことがわかりました。
カーテンは実際に見て買いたいものですが、でも店頭では「寸法」を決める難しさがある。でも売り方によってはネットでも売れる伸び代があるのでは!?と思いました。こういうふうにして私は、仮説を検証していきました。

 

次に、マーケティングの手法で考えてみました。自社を取り巻く外部環境と、自社の商品力などの内部環境を考察する、「SWOT分析」です。「SWOT分析」では、「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」という4つのフレームを使います。
自社のチャンスとなる外部要因には、「柔軟に住み替えていける社会が来ている」、「賃貸派が20~40代で増加している」、「EC市場規模が拡大している」、「既製カーテンが非常に少ない」といったことがあげられました。
自社の強みとしては、インテリアコーディネーターが起こす事業なので、「トータルコーディネートができる」、「インテリアの流通を知っている」、「受注生産で在庫を持たずにできる」といった点。
逆に自社を脅かす外部要因としては、「少子高齢化が進み人口減が進む」、「インテリア市場規模は年々縮小」、「インテリアコーディネーターの存在や価値を知らない人が多い」、など。
自社の弱みとしては、「経営資源(ヒト・モノ・カネ)がない」、「納期がかかる」、「転勤により、活動拠点を変えることがある」。

 

これをもとに、次はクロスSWOT分析です。
クロスSWOT分析では、「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」をそれぞれ掛け合わせることで、選択すべき戦略を明確にしていくことができます。
強みを活かすには、「既製カーテンで売りやすくして、高さ調整を可能にして採寸を省略化する」。
強みによって脅威を機会に変えるには、「アパレルのような楽しいデザインにして」、「コーディネーター(私)によるオートクチュール展開を図る」。
弱みをカバーして機会をつかむためには、「自宅をショールームにする」、「小売店へ卸売りをする」、「イメージアプリを提供する」、など。
そして弱みからくる最悪のシナリオを避けるために、「実用新案登録をする」、「商標登録でブランディングする」、「半年に1度は新商品を発売する」、といった戦略を立てました。このアイデア商品に大手ファストインテリア企業が参入すれば、私はあっという間に吹き飛ばされてしまいます(笑)。それを防ぐのが、実用新案登録です。
こうした戦略を、先ほどいったポジション、「既製品の中価格ゾーン以上」のマーケットで展開します。

 

ターゲットは、顧客としては、「転勤族や賃貸族」、「住替志向の多い20~40代」、「インテリアにこだわりたい人」。卸先(小売店)としては、「おしゃれ感があって、店での採寸が難しいと感じているセレクトショップ」です。
価格帯は、1万円台半ばから2万円台半ばくらい。ひとつの窓でこれが「掛ける2」になるので、3〜4万円。販売のベースはネットショップですから、「オーダーじゃなきゃできない上質で便利な(サイズ調整ができる)カーテンが、既製品としてネットで手軽に買える」ことが、セールスポイントです。一枚ものではなく、トップとボトムの2枚で構成された、上質なデザインも売りです。
繰り返しますが、在庫を持たないので、すべて受注生産になります。

 

さて、次は資金と、実際にどのように事業を行っていくかという計画づくり。
私は堅実で臆病なところがあるので、最初に大きな融資を受けるつもりはありませんでした。でも国民生活金融公庫(国金)から融資を受ける人たちが書く計画書を使って、そのフォーマットに則って事業計画を立ててみました。
そこでは、売り上げ目標を立てて、取引先との掛け率を決め、事業の見通し、収支と仕入れの計画を整理してみます。そして、商品の企画・デザインと、外注する縫製にはじまり、商標や実用新案のための手続き、広告宣伝、販売のためのネットの仕組み作り、実売店との調整など、進める項目は多岐にわたりますが、これをスケジュール表に落とします。
まず2016年の夏に、弁理士さんの力を借りて、商標登録と実用新案が取得できました。そこからひとつずつ準備を進めて、2017年2月に、「経済産業省中小企業庁主催 第3回全国創業スクール選手権」で、ファイナリスト(8位入賞)。翌3月には、熊本商工会議所のビジネス・アイデアコンテストで準グランプリをいただきました。それからインテリアの共同イベントを開催して事業計画をPRしたり、インテリアの展示会やイベントなどに出展します。
2018年の春にクラウドファンディングで53万円を集めることができました。そしてテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」という番組の 「トレンドたまご」というコーナーで紹介してもらいました。その夏からいよいよ自社のネットショップを立ち上げます。そのタイミングで、NHKの「おはよう日本」という朝のニュースの「まちかど情報室」のコーナーで取り上げてもらいました。テレビの反響は大きかったです。同時に、新デザインの開発も進めました。
今年(2021年)の春にもクラウドファンディングを行い、47万円を集めることができました(3年前の分とで合わせて、クラファンで100万円になりました)。

 

 

 

ピンチをチャンスに変えて、「私らしく」

 

 

私がやってきたことを整理してみます。
最初に直面した問題は、引っ越しのためにカーテンを換えなければならなかったこと。もう悩みたくない、という課題をビジネスで解決しようと思いました。「悩むこと」と「考えること」はぜんぜん違います。
さらに言えば、私は夫の転勤のたびに失業していました。引っ越しするのに独立できるのか? 引っ越しが宿命なら、自宅でショップを開くことも無理でしょう。フリーのインテリアコーディネーターとして仕事をするにも不自由な環境です。自分たちのマイホームはいつになる? 「転勤族の妻」は孤独です!

 

でもそうしたマイナス要因を並べるだけでは何もはじまりません。単に悩むのではなくちゃんと考えました。仕事は好きで続けたいけれど、でも、実家も含めて家族の方が大事。よしっ、ならばセルフ働き方改革をしよう!「転勤妻×インテリアコーディネーター」を名乗ろう! と思ったわけです。
悩みに直面して、自分ひとりで立ち尽くしちゃうのではなく、私はいろんな人を巻き込みながら、行動しながら考えました。ここが大事だと思います。そこから、ピンチをチャンスに変える挑戦がはじまりました。

 

ここで先ほどいった「ブルーオーシャン」というマーケティング用語のことを話します。
ブルーオーシャンとは、競争相手のいない未開拓市場。青く美しくおだやかな海のようなマーケットです。これに対して、競合がひしめき合う激しい戦いの場のことを「レッドオーシャン」といいます。ブルーオーシャンに船出するには、既存の商品やビジネスモデルとはちがうものが必要です。競合がいないので、成功率はグンと高いでしょう。ただ、世の中にないものがうまくできたとしても、それが知られるには時間やきっかけが必要です。全く新しい良い商品を作れば必ず売れる、というわけではないのです。事実、広告宣伝の予算は組めなかったので、ネットショップの売上がゼロだった月もありました。
クラウドファンディングで100万円を集めることができたと言いましたが、クラウドファンディングは、まだ市場にないこんなものを作ったら買ってみたいですか? という呼びかけであり、実はテストマーケティングでもあるのです。

 

2020年、私は離婚をしました。そこからは文字通りひとりで身を立てることになり、インテリアコーディネーターの仕事を軸に、新たなビジネス設計を行いました。
「どこでもカーテンSCAPE」の販売は、自社のサイトと、Yahooさんや楽天さんなどのサイトで行っています。そして住宅リフォームを請け負ったり、インテリアの物販、CAD図面やチラシの制作、Webページのデザインも行っています。もちろん私ひとりでできることは限られているので、外部の信頼できる人たちとの協働も欠かせません。
私と私の商品を知ってもらうためには、インテリアの小物を手作りするワークショップの講師をしたり、イベントで登壇したり、インテリアコーディネーターとしての講師の仕事をします。そこを入り口に、INSCAPEの事業にふれてほしいと考えています。インテリアの業界は、人を介した紹介がとても重要です。そうしたお客さまづくりも欠かせません。ネットでは、InstagramやFacebook、YouTubeで情報発信をしています。

 

以上、私が商大を卒業してから現在までを駆け足でお話ししました。困ったことやうまくいかない状況があっても、それを逆にチャンスだと思って、行動しながら考えてみる。そうすると、立ち止まっているだけでは見えない、ちがう世界が見えてくる。私が強調したいのはそういうことです。
どんな経験をするかは、自分で決められます。そのとき、らくちんだからと型にハマりに行くのではなく、ちゃんと自分らしくありたいと思うこと。皆さんには、自分らしさを活かしてみましょう、とお伝えしたいです。あなたを活かせるのは、あなたしかいないのですから。

 

 

 

<山崎 加容子さんへの質問>担当教員より

 

 

Q 講義ではマーケティング用語をたくさんちりばめて、ビジネスや起業の実践をお話しいただきました。ベースは商大時代に身につけたものだと思いますが、あらためて大学時代を総括して、学んだことのどんなことがいまの仕事につながっていると言えますか?

 

 

A はいもちろん、ビジネスと経営の基礎となっている知識は商大で学んだものです。商学科で学んで数字がちゃんと読めるインテリアコーディネーターってあまりいませんし、マーケティングの知識は、私の武器になっています。いちばん直結しているのは簿記の知識ですね。
そしてもうひとつ、いまでも私の力になってくれる友人も、大学生活が私にくれたものです。同じゼミの友人が、いまも私の相談にのってくれて、アドバイスをくれたりします。

 

 

 

Q 今日のキーワードのひとつ、「転勤族」ですが、近年の学生は転勤を好まない傾向があります。転勤によっていくつものまちで暮らした山崎さんにとって、複数の土地での経験にはどんな魅力や価値があると言えるでしょう?

 

 

A 私の場合、臆病なところがあるので、ひとつの場しかないと、違うことに挑戦するよりもそこでがんばりすぎて煮詰まってしまうかもしれません。でも転勤につきあうと、そんな自分が強制的にリセットできたのです。よし、じゃあ新しいことをやってみよう、という気持ちになって、それがレベルアップの転機になれば良い、と思ってきました。あとづけで考えると、それが「ピンチをチャンスに!」でした。

 

 

 

<山崎 加容子さんへの質問>学生より

 

 

Q 4年間会社勤めをされていますが、その経験はいまどのように役立っていますか?

 

 

A 大企業の大きな組織で仕事をした経験は、きついこともありましたが、今では貴重な時間だったと思っています。きちんとしたセオリーにのっとって営業をした経験も、かけがえのないものでした。あの4年間があったから、自分を積極的に売り込んだり、たくさんの人たちと協働できる、いまの自分があると思っています。

 

 

 

Q 起業したいと思ったいちばんの動機はなんですか? その上でいちばん苦労したのはどんなことですか?

 

 

A 私は漠然とモノづくりをする仕事をしたいと思ってメーカーに入りました。大きな組織でいろいろな経験が積めましたが、モノづくりに集中した仕事ができたわけではありません。そして結婚して転勤族の妻というポジションになると、何年かごとに就職先をリセットしなければなりません。それならば、という気持ちで自分でモノづくりの事業を起こしたわけです。でも商品開発の段階では、アイデアを形にして納得いくものができるまで試行錯誤を重ねて、完成まで1年半かかりました。そして大手などに真似されないように実用新案権を取りました。特許にすべきか、実用新案にすべきか、それぞれのメリット・デメリット、実現性などを弁理士さんと相談を重ねましたが、そのあたりも大変でした。

 

 

 

Q 「ブルーオーシャン」は、偶然見つかるものでしょうか、それとも自分で苦労して新たに作るものなのでしょうか?

 

 

A 昔から漠然と起業したい気持ちがあり、アイデアもいろいろあったのです。でもそれを具体的に実現するには、もう一歩二歩前に進まなければなりませんでした。熊本に来て、人との出会いや関わりの中で、あっ、これならできるかな? と思うようになりました。今日お話ししたマーケティングの手法でさまざま検証しながら、臆病で慎重な私ですが(笑)、これならいける!と思って実行したわけです。私の場合、漠然と見つけていたものを、いろんな出会いやタイミングに恵まれて、具体的に作りだしたと言えるかもしれません。

 

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