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2021.10.27

令和3年度第3回講義:北海道における観光の重要性とその仕事のやりがい

講義概要(10月27日)

 

○講師:鈴木 宏一郎氏(平成13年大学院商学研究科修了/株式会社北海道宝島旅行社 代表取締役社長)

 

○題目:「北海道における観光の重要性とその仕事のやりがい」

 

○内容:

仙台での学生時代、私は広い北海道をバイクで気ままにツーリングするのが大好きだった。(株)リクルートに就職して札幌勤務中にある出会いがきっかけで、小樽商科大学の大学院で学ぶことになった。そして、これからの観光は地域の環境と人々の営みがまるごと関わり合って動かしていくべき、と論考した修士論文が、北海道のために何かしたいと考える私の起業コンセプトになった。コロナ禍に苦しむ観光業界の中で起きている大きなパラダイムチェンジと、北海道観光のこれからの進路について話したい。

 

 

 

「観光」は、世界のパラダイムチェンジの最前線

 

 

鈴木 宏一郎氏(平成13年大学院商学研究科修了/株式会社北海道宝島旅行社 代表取締役社長)

 

 

 

 

30代で気づいた勉強の価値と面白さ

 

 

 

コロナの大きな影響や、SDGsに代表されるような、それ以前からある世界経済の大きな潮流の変化によって、いま観光業はさまざまなパラダイムチェンジの最前線にあります。ポストコロナを見すえれば、とても面白い業界です。今日はそのことをいろんな角度からお話しします。キーワードは、「アドベンチャー・トラベル(AT)」です。
アドベンチャーといっても、「スリル満点の冒険」ではなく、ATとは、「自然の中でのアクティビティや異文化体験を通じて、自分の内面が変わっていくような新たな旅のスタイル(北海道運輸局HP)」のことです。
合わせて、皆さんがいま暮らしているこの北海道について、観光から見たその圧倒的な個性や魅力を、あらためてお伝えしたいと思います。

 

私は北九州市に生まれ、高校は兵庫県の西宮。大学は、ひとり暮らしをしたくて東北大学へ。今は北海道と、北上を続けてきました(笑)。小樽商科大学では、社会人大学院で1999(平成11)年から2年間学んだのです。
学部時代の私は、いまは後悔するばかりなのですが、勉強よりもしたい遊びを優先していました。東北大学には、遊び半分で来る学生は、勉強したい学生のじゃまになるから来なくて良い、という暗黙の空気がありました。だからゼミで真剣に勉強したり、卒業論文を書かないでも卒業できてしまいました。のちにそれが、私のコンプレックスになります。
勉強よりも私がしたかったこと。それは、バイクで旅をすることでした。中でも、北海道に夢中になりました。
北海道には、交通量も少なく、まっすぐで走りやすい道が延々とつづいています。貧乏旅行ですから、エリモの昆布漁師さんのところで昆布干しを手伝ったり、十勝の豆農家さんのところで、収穫後にこぼれた小豆を拾うバイトをしたりして日銭を稼ぎました。そうして、観光ツアーとはちがう次元で北海道を丸ごと楽しんだのです。漁師さんや農家さんの家に上がっていっしょにご飯を食べ、酒を飲み、いろんな話をする。楽しくてしかたありませんでした。そんな夢のように楽しい時間の中で、北海道が心の底から大好きになりました。

 

結果、(株)リクルートという大手の会社に就職して、転勤もありましたが、17年間のうち合計9年間を北海道支社でおくりました。仕事の中味は主に、求人誌やクーポンマガジン(ホットペッパー)の企画営業です。旅行業とは全然ちがう世界でキャリアを積んでいきますが、当時も、学生時代にうんとお世話になった北海道のために役立つ仕事をしたい、という気持ちで仕事をしていました。

 

30代半ばにさしかかるころ、道庁のある会議に出ることになりました。実は本来は北海道支社長が出る予定だったのですが、赴任まもなく北海道の状況がわからないので、お前が代わりに行ってくれ、と言われたのです。会社での私のポジションは、課長職でした。お話しをさせていただいた内容は、北海道へのUターンやIターンを促進させたり、北海道観光をどう盛り上げていくか、といったテーマのもので、私は、仕事の現場で実感している北海道の現状などを報告して、その上で提言を述べました。

 

すると終わってから、メンバーである商大の瀬戸篤先生がつかつかと寄って来て、「話はおもしろかった!でもキミは勉強してないだろ? すぐわかる」、とおっしゃいます。いきなりそんなこと言われても、と驚きました。論点としては時代の勘所を掴んでいたのでしょうが、ベースになる学問的な知識や論考がいかにも薄っぺらだった。先生はそう言いたかったのです。そして、うちの大学で勉強しみろ!と強くおっしゃいました。
「鈴木君、勉強というものは『本当にしたい!』と気づいたときに始めれば良いんだよ」
その言葉が私の背中を強く押してくれました。それが、働きながら小樽商科大学の大学院に進むことになったいきさつです。以来瀬戸先生は現在も、私のメンター(良き指導者)でいてくださっています。

 

毎週月曜日と金曜日の夜間、そして土曜日が大学院生になる時間です。同級生は、あと二人。実に濃密でハードな勉強をして、北海道のグリーンツーリズムをテーマにした修士論文を書き上げました。
観光は、美しい自然と観光業者だけでは成り立たない。これからは、地域の一次産業をはじめ、自治体の人、歴史に詳しい人、自然が好きな人、おいしいものが好きな人、料理がうまい人など、いろんな人たちが深く関わり合って、ひとつの会社組織のように地域全体を盛り上げることが必要ではないか。それができれば北海道に世界中から観光客がやってくる—。そんな主旨の論文です。それがのちに起業するコンセプトになりました。当時はコロナ前のように、北海道を観光するために外国からたくさんの人々が来るなんて、まったく考えられない時代でした。

 

ゼミや卒論とも無縁の学部生活をおくったことがコンプレックスだった私ですが、この2年間は思い切り真剣に勉強することができました。職場の仲間たちも有形無形に私を支えてくれました。
学部時代の私は、目の前に勉強する機会と場がいくらでもあったのに、勉強しなかった。勉強の本当の面白さや厳しさに気づいたのは30代でした。説得力に欠けるかもしれませんが(笑)、皆さんはどうぞ目の前の勉強に真剣に取り組んでください。大切なお金と時間をかけて得た貴重な機会なのです。

 

大学院を修了してまた(株)リクルートの仕事に専念しましたが、ほどなく転職をして、2008年に、いまに至る(株)北海道宝島旅行社を、リクルート時代の部下と二人で立ち上げました。起業を見すえて大学院に進んだわけではなかったのですが。

 

 

 

アジアで初の「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」を開催

 

 

 

「北海道宝島旅行社」とは、文字通り、「北海道は宝島だ!」という思いから名づけた社名です。
私は会社のミッションを、「北海道の価値を、みんなでカタチに!」と掲げています。北海道を旅するお客様に、地域でのふれあい・交流を通じた「世界一の思い出と感動」を提供したい。地域と協働で、私たちのビジネスに関わる人たちみんなと幸福を分かち合いたい。道内各地の持続可能な観光の営みに誇りをもって参画して、(観光は戦争の対極にある価値ですから)ひいてはそれをもって世界の平和と日本の経済に貢献していきたい—。そんなコンセプトです。

 

今年(2021年)の9月。先にあげたアドベンチャー・トラベル(AT)の国際サミットが、北海道で開催されました。コロナ禍で残念ながらオンラインのものとなりましたが、2005年にアメリカの西海岸ではじまったこの大会が、17回目ではじめてアジアで開かれたのです。
繰り返しますが、ATとは、単なる物見遊山の旅でも、スリル満点の冒険旅行でもなく、「身体的活動を伴って、地域の自然や文化を楽しむ旅行スタイル」です。
例えばコロナ禍以前、日本の大きな港湾都市では、クルーズ船の誘致合戦が盛んでした。一隻3千人ものお客さまを乗せたクルーズ船が海外から小樽にやって来る。お客さまは10時ころから夕方まで、上陸して思い思いの観光を楽しみます。札幌で買い物したり、小樽で寿司を食べたり。そうしてまた次の目的地めざしてあわただしく出港していく。半日滞在した小樽や札幌で、彼らはいくらお金を使うでしょう。まぁせいぜいひとり1万円くらいではないでしょうか。しかも、上陸した土地へ愛着を抱く、といったことはあまり期待できません。
でもこれが7泊8日あったらどうでしょう? 交通、食事、アクティビティ、宿泊、お土産などなど、使うお金が桁ちがいに増えます。その土地を深く味わうこともできるでしょう。しかし、外国の方が7泊して北海道をまわるとなると、人気の温泉をめぐってきれいな景色を楽しむといった、従来の旅のメニューだけではあきらかに物足りません。相手はすでに、世界でいろんな旅を楽しんでいる方々です。北海道の観光はこれから、こういう目の肥えた人たちをたくさん迎え入れなければならない。

 

オンラインで開かれたこの国際サミットでは、世界の観光は「体験型」が軸となっているという前提を共有しながら、北海道の魅力をさまざまに発信することができました。オンラインでの開催にはもちろん残念な面がありますが、なんといっても北海道がATの文脈で世界的な人気エリアと照らしても遜色のない魅力を持った土地として、独自の個性を広く強く訴求することができたのです。画期的なことだと思います。さらに、道庁の熱心な取り組みもあり、2023年秋のこのサミットが、再び北海道で、今度はリアル大会になることが決まっています。

 

 

 

北海道は宝島!

 

 

 

では北海道の魅力について、あらためてまとめてみます。皆さんが考えたことのない視点もきっとあると思います。
皆さんは、北海道の自然はスケールが大きいと思っているかもしれません。日本列島の中ではそうでしょうが、世界のレベルでいえば、違います。でも北海道では、札幌が代表的な例ですが、たくさんの人間のいろんな営みのすぐそばに野性があります。アメリカやカナダにはグリズリーという大きなクマがいますが、彼らに会うためには、飛行機を乗り継いでさらにヘリで山奥にいかなければなりません。札幌なら、中央区の山系にヒグマがふつうに生息しています。
また、湧き水をそのまま生で飲めるなんていうことも、世界で見れば驚くべき幸運です。中近東の大金持ちが京極町の吹き出し公園でこんこんと湧いているおいしい水を見たら、卒倒してしまうことでしょう(笑)。日本や北海道はそれだけ水資源に恵まれた国なのです。先住民の歴史の上に、札幌のような大都市がたった150年で作られ、しかも毎年これだけの積雪があっても都市機能を止めずにいるということも、海外ではとても驚かれることです。

 

ふつうの旅行会社は、所在地のお客さまを国内外への旅に送り出すのが仕事です。でも私の会社は逆です。世界のお客さまを北海道に招いて北海道を楽しんでいただく。つまり北海道にとっての外貨を獲得するのが仕事なのです。
会社は2007年にスタートしましたが、当初は、道内の体験型観光事業者さんを応援しようと、体験のポータルサイトを作りました。私たちのサイトから申し込んでいただき、その手数料をいただくビジネスモデルです。でも、これが全然儲かりません(笑)。このサイトをなかなか見つけてもらえなかったのです(いまではずいぶん浸透して、常時300社・1千コンテンツほどが揃っていますが)。

 

そこで旅行業免許を取って、自ら旅行業者になることにしました。札幌圏ならではのプログラムを、地域のガイドや観光協会などといっしょに開発して販売するのです。真冬の茨戸川(札幌市)での「手ぶらでワカサギ釣り&その場で天ぷら」とか、「恵庭で春のアスパラ収穫&その場で試食」などなど。
真冬に氷に穴を開けてワカサギを釣ることは、地元の人にとってはありふれた遊びでしょう。でも南の海でクルーザーででっかいカジキマグロを釣っている、なんていう方が、はじめてこれに挑戦して心から感動してしまいます。この繊細な釣りに夢中になります。
旅行業者として、お客さまが喜ぶ顔に直接接するようになって、社員の仕事への意欲がさらに高まりました。でもしかし! これでもさほど儲かりません。経営者として厳しい時代が続きます。

 

低空飛行を脱することができたのは、道内各地の「観光地域づくり」を支援する事業に取り組んでからのことでした。
私は、もっと地域に入り込んで、地域の皆さんといっしょに地域と北海道の観光を盛り上げていこうと考えました。そこで道の駅の運営会社を共同で立ち上げたり、DMO(Destination Management Organization)と呼ばれる、観光による地域作りを行う法人の立ち上げに参画したり。地域が観光資源を活用して自ら起こしていく経済活動を、さまざまに支援していきます。道内はもとより国内外の観光動向を知っている当社ならではの貢献ができる、地域づくりのコンサルタント事業です。今回の衆議院議員選挙(2021年10月31日開票)のタイミングに合わせて、「海産総選挙」という楽しいイベントを仕掛けた中の一社である、噴火湾とようら観光協会というDMOの理事もさせていただいています。各地でこうした動きが活発になり、私たちの出番も増え、経営としてはようやく安定した舵取りができるようになりました。

 

 

 

アドベンチャー・トラベル(AT)が観光を動かす

 

 

 

皆さん、ミシュランガイドの星のことは聞いたことがあると思います。
三つ星の店とは、そこに行くことを目的にわざわざ旅をする価値がある店。二つ星は、近くに行くのだったら、遠回りしてもぜひ行ってみるべき店。一つ星は、そのジャンルで特においしい店。
観光業でいえば私たちは三つ星、すなわちわざわざそこに旅をする値のある商品を、その土地の人たちと共同で作りたいと思います。
具体的には、例えばアジアのお客さまは北海道の冬にあこがれを持っています。人がたくさん暮らすまちのそばに流氷が接岸して、それに触ることさえできる。道東の冬には、オジロワシやオオワシ、タンチョウという、特段に珍しい鳥が3種類一度に見られます。一本の木にオジロワシが20羽くらい止まっている日さえあります。これは世界中のバードウォッチャーから見ると奇跡です。そしてなんと言ってもニセコのパウダースノー。比羅夫坂(倶知安町)のおしゃれな店で食事して、あと少し滑ってこようか、なんて言ってすぐゴンドラに乗れば世界有数の雪質をぞんぶんに楽しめる。これは欧米の高級リゾートのどこにもできない、圧倒的な価値です。
あるいは初夏の知床にはシャチが現れます。まちのすぐ近くでこんなにたくさんシャチが見られるのは、世界的にもきわめて稀です。
いま言ったこれらは、まちがいなく三つ星の世界商品です。
でもかつて地元では、流氷は漁業の邪魔をする憎むべき存在でした。シャチが観光の目玉になるなんて、地元の人は誰も想像しませんでした。けれどもそれらがあったから、知床が世界自然遺産と認められたのです。いまでは、流氷がオホーツク海沿岸の生態系をすばらしく豊かにしていることが科学的にわかっています。観光業の役割は、その地域の価値を巧みに翻訳して、広く知らしめていくことにあります。濃い旅をつくる企画力が求められます。

 

最初に、観光業はいまパラダイムチェンジの最先端にあると言いました。
人気の温泉やホテルやグルメをパッケージにして広く薄く売っていくというかつてのビジネスモデルは、もはや通用しません。それは、1960年代の日本の高度成長期、モノを作れば作るほど売れた、という現象に通じています。いまはそんなことで日本の経済はまわりません。
高度成長期の日本は、自動車や半導体、大型機械など品質の良い工業製品を国内で作って海外に輸出していました。そうすることでたくさんの外貨を得ていたのです。でもそれができない時代になる。国の経済をまわすために、代わりの何かで外貨を稼がなければなりません。その有力な手段のひとつとして見出されたのが、観光です。世界からたくさんの観光客に来ていただき、日本でたくさん消費してもらうと同時に、日本の国土や文化、国柄を好きになってほしい。
2003年に当時の小泉純一郎首相は、「観光立国宣言」を行いました。こうして「Visit Japan」キャンペーンがはじまり、先ごろの東京オリンピックも、その流れに乗ったもののはずでした。そして北海道宝島旅行社がポータルサイトの運営から旅行業者となり、さらには地域に深く入り込んでいったのも、こうした潮流があったからこそでした。

 

コロナ禍以前、英語力のある人材を入れて広げた、インバウンドFIT(Free Independent Tour・海外個人旅行)旅行の手配が、当社の稼ぎ頭になりました。英語圏からの富裕層を対象に、我々にしかできない特別な旅行をオーダーメイドで手配するサービスです。
例えば毎年20人くらいの規模で来道してくださるインドネシアの方がいて、10泊11日で1千万円を優に超える(航空チケットは別)旅程を楽しんでくださっていました。私たちは一般的な温泉や景色やグルメだけではないメニューをたっぷり用意して、通訳付きのバスで新千歳空港にお迎えにあがります。おわかりでしょうか。「身体的活動を伴って、地域の自然や文化を楽しむ」この旅が、まさにアドベンチャー・トラベル(AT)なのです。

 

すでに世界でいろんな旅を楽しんでいるこういうお客さまには、富良野・美瑛のラベンダーはすごいですよ、と言っても、「ラベンダーの本場南仏のプロヴァンスに何度も行ってるよ」、とか、余市のニッカウィスキーの工場をご案内します、と言っても、「スコットランドに毎年行ってるからここのウィスキーにはあまり興味はないな」、などと言われてしまいます。
では世界の最高峰をすでに知っている方々を楽しませるにはどうすれば良いのか。それは、北海道ならではの価値を組み合わせて、どこかの二番煎じではない、本当のオリジナルのストーリーを作るしかありません。そうすることで私たちは北海道ファンを着実に増やしてきました。息を飲むような花畑があったら、それを作っている人に会って話を聞いてみたい。その花を使ったモノづくりの現場を見てみたい。すばらしい風景があったら、車窓から眺めるだけではなく、プロのガイドに安全に導かれてそこを歩いてみたい。そう思うのは自然なことです。私たちはそうしたことを商品化してきました。
いまでは道内各地に同志的なネットワークがありますから、7泊分の22食をすべてヴィーガン(完全菜食)にしてほしい、などというオーダーにも応えることができます。

 

ATでは、ガイドに案内されて自然のふところを歩き、一次産業をはじめとした土地の人の営みに生でふれて、その人たちと交流します。つまり観光メニューを消費すするというよりも、その土地を丸ごと楽しみ味わうことに魅力があります。お客さまは、北海道というこの豊かな土地ともに生きている人々の暮らしそのものの輝きを感じて、北海道を好きになり、そこで暮らす人々に敬意を抱いてくれます。なんとすばらしいことでしょうか。
まちを動かすいろんな人たちが深く関わり合いながら、ひとつの会社組織のように力を合わせて地域全体を盛り上げる—。私が商大の修士論文で論考したことを、まだ不十分ではありますが、当社は具体的に実践できるようになってきました。

 

 

 

ポストコロナを見すえて

 

 

 

いうまでもなくコロナ禍によって、観光業界・旅行業界は去年今年と、たいへん苦しんでいます。例えばかつてなら1万円の料金で40人集めるバスツアーが、20人までという制限がかかってしまいました。同じやり方ではビジネスは成り立ちません。単純に言えば料金を2万円にして、その価値があるコンテンツを企画しなければならない。そうなると小手先の工夫ではなく、大きなパラダイムの転換、イノベーションがどうしても必要です。私が冒頭で、「いま観光業はさまざまなパラダイムチェンジの最前線にある」、と言ったのはこのことを意味します。私たちの業界は、コロナ禍を大いなる「学び直しの場」にしています。だからこれからの旅の世界は面白いのです!
人口は減り続け、グローバル経済の厳しい戦いの中で、かつてのような経済成長が到底望めない日本社会。いま、旧来からあるツアー募集型の日本の旅行マーケットの中心は70歳の皆さんです。安定した利益の基盤になる修学旅行も、少子化によって先細りです。

 

では旅行業界はただじり貧になっていくのでしょうか?
もちろん違います。人類は、ギリシャ・ローマの時代から旅をしてきました。どんな時代でも、人は旅をせずにはいられないのです。でも、「いつでも・どこでも・誰でも」というツアー商品はもう成立しません。その逆で、「いまだけ・ここだけ・あなただけ」という商品が、これからの旅行商品です。ここにフロンティアがあります。
良質なアドベンチャー・トラベル(AT)は、旅行者に単なる消費や快楽をもたらすだけではなく、その人の内面に大きな気づきを与え、自己変革(Transformation)をもたらします。体験によって、その人を変えてしまうような旅。それが私たちが提供したい商品です。

 

そしてもうひとつ。自然の恵みをリソースとする観光において、SDGsの理念はこれからますます重要になります。持続できない方法で自然と関わったり、フードロスやプラスチックごみを大量に出したり、地域が弱者になって旅行者から一方的に搾取されるようなことは許されません。アドベンチャー・トラベルは、やがて「サステイナブル・トラベル」と呼ばれるようになるかもしれません。

 

江戸時代の蝦夷地でも松前を拠点に大きな商売をしていた近江商人の考え方に、「三方良し」があります。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」。ビジネスの当事者が共に利を得て、それが社会全体の益になるような商いをせよ、という心得です。SDGsと交わったATの世界では、これに「環境」が加わります。
「観光客良し」、「観光事業者良し」、「地域良し」、そして「環境良し」の「四方良し」です。こうしたビジネスが成り立てば、観光は末長く、関わるすべての人と、舞台となる地域に益をもたらします。そして同時に、この四者の絆を強くするでしょう。
北海道でもいま各地には、観光のガイド・プレイヤーがたくさんいます。彼らを束ねる観光協会も活発に活動しています。でも旅行者とその二者のあいだには、なお大きな空白があります。私たちはその空白のゾーンで、地域をコーディネイトしながらより広域の旅行を企画運営していくオペレーターの役割を果たしたいと考えています。

 

 

 

<鈴木 宏一郎さんへの質問>担当教員より

 

 

Q 本日の事前課題に鈴木さんは、あなたなりのアドベンチャー・トラベル(AT)の商品プランを作ってみること、と出題されました。北海道内で、これから注目されるであろうエリアは? あるいは鈴木さんならどんなモデルプランを立てますか?

 

 

A 例えば函館山ですね。というと皆さんは、夜景がメインの「ありふれた観光スポット」だと思うかもしれません。でも例えば、あそこは縄文時代は島でした。そうした地学的な成り立ちを知ったり、あるいは津軽海峡には日本列島の生物分布の境界線、ブラキストン線があります。そこに着目するだけでいろんな物語が始まるでしょう。さらには、アジア太平洋戦争中の函館山は要塞であり、一般人の立ち入りが厳しく禁じられていました。また、戊辰戦争の最終局面となった箱館戦争のことなど、函館山には奥深いストーリーがたくさんあるのです。そのどれを選んで、お客さまの興味に合わせてどのように見せていくか。そこにプランニングの面白さがあります。
ほかには、北海道の火山も魅力です。特に欧米人は、火山が大好きです。有珠山を軸に洞爺湖まわりを商品化することも有効でしょう。いまも活発に活動する有珠山は、約30年に一度ずつ噴火を繰り返していますが、おさまると必ず人々がもどって、温泉街や農業など、もとの営みを繰り返します。人気の高い伊達の道の駅にはたくさんの種類の近郊野菜が並んでいますが、豊かな畑作のもとは、太古の火山灰が作った土壌です。そうしたストーリーをうまく見せられる商品づくりも面白いですね。

 

 

 

<鈴木 宏一郎さんへの質問>学生より

 

 

Q アドベンチャー・トラベル(AT)に注目した経緯やきっかけについて、あらためて教えてください。

 

 

A この言葉の概念は、世界大会が始まった2005年から世界で広がりました。でも日本で知られるようになったのは、わずか5年ほど前のことです。ATが生きるも死ぬも、その土地の個性をどう活かすかにかかっています。その試行錯誤が、私なりに北海道観光の進むべき方向や、北海道の魅力を学び直す絶好のきっかけになりました。さらには、それが結局、商大で取り組んだ修士論文のコンセプトとぴったり合致していくのです。
欧米や中東の大富豪が日本旅行をしようとすると、一泊数百万円のスイートルームが必要で、北海道にそのクラスのホテルはありません。でも例えばその方がオオワシの写真をどうしても撮りたいとすると、極端に言えば、部屋にトイレ・バスのない道東の旅館でも泊まるでしょう。単に高級なものではなく、人は、そこにしかないものを目的に旅をします。
和食の根幹となるコンブも、超高級な膳で出汁のうま味を味わうよりも、皇室への献上品となるクラスの昆布の漁を実際に見ていただき、浜で漁師めしを提供する方が感動するのではないでしょうか。それがアドベンチャー・トラベルです。

 

 

 

Q 観光業界に興味があります。学生時代にしておくべきことのアドバイスや、メッセージをいただけますか?

 

 

A まずは英語! 私も、起業した相棒も、ふたりとも英語力はお寒いもので、たいへん苦労しました。私はいまも毎日少しずつ英単語を覚えたり、英語力を高めようとしています。学生時代にもっとちゃんと会話力をつけておけば、と心から思います。今日お話ししてきたように、大きなパラダイムチェンジの中にある旅行業界は、海外を本格的に相手にしないと生き残って行けないでしょう。中国語や韓国語は?と思うかもしれませんが、少なくとも私の会社の場合、アジアのお客さまとも、英語ができれば十分にコミュニケーションが取れています。ですからまず英語ですね。
また、お話ししたようにSDGsの理念は観光業でも必須のものになっています。SDGsをはじめ、これからの世界で共有されていく価値観や考え方をつねに意識して、認識をアップデートしておきたいですね。
それと皆さんは、せっかく観光が産業の軸になっている小樽で学んでいるわけですから、小樽でATを展開するイメージをもって天狗山で遊んだり、地元の漁師さんや農業の方と話をしたり、機会があればその産業の現場を体験してみるのが良いと思います。そのことできっと、自分が少しTransformすることが実感できるはずです。

 

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