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エバーグリーンからのお知らせ

2016.01.27

平成27年度第13回講義:「私が今までの社会人生活から農業を仕事にするまでと今の農業」

講義概要

 

○講師:佐藤 絵美氏(平成12年商学部社会情報学科卒)

 

○現職等:農業

 

○題目:「私が今までの社会人生活から農業を仕事にするまでと今の農業」

 

○内容1.講義の目的

 

「どうして農家の嫁になったの?大変そう。」農業の世界に飛び込んだ私を見て、友人たちは当初、口をそろえてこう言った。なぜ農家にはネガティブな印象がつきまとうのだろう。札幌で会社員として15年間、販売職や営業職に従事していた。実家が農家でもなく「土いじり」の経験もない私が、なぜ、農業に魅力を感じて生涯の仕事にすることができたのか。会社員時代を通して学んだこと、失敗したこと、気づいたこと、そしていま農業の現場で思うこと、願うことを伝えたい。

 

講師紹介

 

1977年清里町生まれ。1996年北海道清里高等学校普通科卒業。同年小樽商科大学商学部社会情報学科夜間主コース入学。在学中から(株)テレコム・エクスプレスで携帯電話の販売員として働き、2002年に卒業すると同社に就職。2011年北海道テレコムコンサルタント(株)。2013年ジブラルタ生命保険(株)。生保のセールス時代に人生を変える農業との出会いを経験して、農業で暮らすために2014年同社を退社。上富良野町の農家3代目の男性と結婚して上富良野町に移住。2015年北海道富良野緑峰高等学校農業特別専攻科入学。農業に従事しながら現在在学中。

 

商大で学びながら派遣社員に

 

道東の清里町という農業のまちに生まれた私は、高校3年生になると、はやくまちを出たくて仕方がありませんでした。農業にはまったく関わりも興味もなく、むしろ嫌いでした。でもうちは母子家庭で余裕がないので悩んでいたところ、高校の恩師が、小樽商大というすばらしい大学があって、そこの夜間コースで学び、昼間は働けばいいじゃないか。絶対そうしろ!と励ましてくださいました。そしてつきっきりで勉強を見ていただいて、入学することができたのです。仕送りはないので、奨学金と自分の給料で学生生活を支えました。学業と生活の糧を稼いだ仕事は、携帯電話の販売です。途中から派遣社員登録をして派遣社員になりました。学生時代から私はセールスの現場にいたわけですが、皆さんは「営業」と「販売」のちがいがわかりますか?
 
「AIDMA」(アイドマ)というマーケティングの用語があります。人がある商品を買うまでの心理を、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の5つに分析したものです。このうち、まず潜在顧客のAttention(注意)を得るところからはじまるのが営業の仕事です。その商品をまったく知らない人に知ってもらう。そして販売とは、そうして注意を向けてくれた人、例えば携帯電話を買おうと思って来店してくださる方に対して行う行為です。2002年に卒業して、そのまま同じ会社で正社員になり、携帯電話の販売を続けました。後半はスマートフォンの登場から普及の時期でした。猛烈に売りまくり、北海道の優秀販売員として表彰もされました。東京の本社で孫正義会長から感謝状をいただきました。でもやがて、少しずつ疑問がわいてきたのです。このままずっとこの仕事を続けられるだろうか。あらゆるものがインターネットで買えるようになっていくと、やがて販売員も要らなくなるのではないか。この先販売員にはどんな意味や価値があるのだろう。しだいに不安が募ってきて、私は在学中から数えて10年以上つづけた携帯電話の販売から、外資系の生保会社に転職しました。今度は、興味のない人にまず商品を知ってもらい、買ってもらう営業の仕事です。

 

 

コミュニケーションとは何だろう

 

携帯電話の販売の仕事で、私はいつもエース級の実績をあげていました。でも生保の営業では思うような成果が出せません。先輩たちに背中を叩かれながら、必死でした。販売と営業のちがいを痛感する毎日でした。お客さまとどうしたら良いコミュニケーションが取れるか。そもそも良いコミュニケーションとは何でしょう? 楽しく会話すること、人と仲良くすることでしょうか? 私は結局、良いコミュニケーションとは「相手のことを知り、自分のことも知ってもらう」ことなんだ、と目覚めていきました。でもそこに至るまでに、携帯電話ショップの時代からもたくさんの失敗をしました。
 
携帯電話の販売現場で私はあるとき、お客さまからとてもショッキングなことを言われました。それは、「あなたと話すとイライラするのよ!」という言葉でした。私は一生懸命商品説明をしていたのですが、突然こう言われてほんとうに驚きました。すぐ深く頭を下げて、私のどこがまずかったか聞きました。するとその方は真剣な目をして、「あなたは私の言うことを全部否定してるじゃないの!」と言いました。お客さまは、おサイフケータイを愛用していて、それをこの先も使いたい、と言いました。ところが私はiPhoneを売りたいがために、「もし落としてなくしたら大変だからやめた方が良い」と言っていました。また、赤外線通信で写真を送り合ったりするのが好き、というお客さまの言葉を、あれは日本だけのサービスで海外ではそういうことはしていませんよ、なんて返したり。
冷静に分析してみると、たしかにお客さまが怒るのも無理はありません。それから私は、お客さまの言うことをまずはすべて受け入れることを肝に銘じました。そして提案することがあれば、受けとめた上でそこからするのです。これはセールスのセオリーでいえば「Yes, But話法」と呼ばれます。「はい、なるほどおサイフケータイは便利ですね! でも〜」という調子です。販売の鉄則は、お客さま(相手)の立場になっていっしょに考えること。お客様を理解することなのですね。そのためにはまず、お客様の話を一生懸命聴く(積極的傾聴)ことが何より大切なのでした。考えてみればこれは、友だちのあいだでも大切なことなんですね。

 

二度と来るな!

 

外回りをする営業職にとって、お客さまからもっとも言われたくない恐ろしい言葉が、「二度と来るな!」だと思います。私はこの言葉を浴びてしまいました。仕事に厳しいたたき上げの社長さんとようやく面会がかなって生命保険をセールスしていたのですが、社長さんが発したある質問に私は何気なく、「ええ、できると思いますよ」と言ってしまいました。次の瞬間に飛んできた言葉が、これです。「できるかできないかを聞いているのに答えになっていない!自分の何が悪いかわかるまで二度と来るな!」会社までどうやって帰ったのかも記憶にないほど私は落ち込みました。あとで考えれば、はっきりしないことは「分かりません、いま上司に確かめます」と言えば良かったのです。
また、携帯電話を販売していたときにも、お客さまを猛烈に怒らせてしまったことがありました。そのときお客さまが言ったのは、「あなたは自分のことばっかり。私の話を全然聞こうとしてないじゃないの!」そのときの私は、月末の予算を達成することばかり考え、しかもなんとかiPhoneを売ろうとしていました。でもお客さまにはほかにほしい機種があったのです。私に「積極的傾聴」なんて、ひとつもありませんでした。失敗があれば成功もあります。お客さまから言われたひとことで私がいちばんうれしかったのは、「あなたから買いたいの」という言葉でした。
セールスの仕事をして実感していったのは、お客さまは店に自分の話を聞いてほしい。自分のことをちゃんと理解している人(店)から買いたい、ということ。ですから売る側には、「話を聴く姿勢、素直な気持ち、理解しようとする気持ち」がほんとうに大切なのです。

 

人生を変えた農業との出会い

 

こういう調子で私は、在学中から数えると15年ほど猛烈に働きました。でもしだいに、このペースで60歳まで働き続けるのだろうか? 働けるだろうか? と思うようになりました。当時の私は結婚の予定もなく、ひとりで生きていくことを前提に物事を考えていたのです。家と職場の往復だけでこのまま人生が費やされていくのだろうか。そして次にこう自問します。「でもそもそも私は、いったい何をして生きていきたいのだろう」。そんなとき、趣味の編み物サークルの人たちが、週末に上士幌町で農業青年たちと交流会をするからいっしょに行かないか? と誘ってくれました。人生の何かのヒントが掴めるかもしれない。行ってみようと思いました。
第一部は、ゴボウ畑に案内されて、さあみんなで収穫しましょう! というイベント。はじめてみると、これがたいへんな重労働でした。農家ではゴボウを機械で収穫していくのに、素人に素手でやらせるのですから、ヒドイ話です(笑)。でも一方で、こんなふうに土にふれたのは生まれて初めてのこと。自分でもびっくりするくらい楽しかった。そして自分で穫ったゴボウを食べたとき、それまでスーパーで買っていたものとのあまりの違いに驚きました。「何これっ!?」やわらかくておいしくて、ほんとうにビックリしました。
それまでの私が農業にもっていたイメージは、 「きつい」「汚い」「かっこ悪い」 「臭い」「稼げない」「結婚できない」…。堂々の6Kです。
でも農家の青年たちは、明るくのびのびと仕事をしていました。私のぶしつけな疑問に彼らは答えてくれました。「春と秋の作業は待ったなしだから忙しいよ。でも、一年中じゃない」「機械化が進んでいるから力仕事も減ったよ」「カッコ悪いって?! 俺たちが一生懸命に働いているのがカッコ悪いかな?あなたは一生懸命働いてないの?」「北海道の農業所得は少しずつ向上しているんだよ」。
みんな、大地に根ざして堂々と自信をもって生きている人たちだな、と感じました。
 
この日を境に、私は農業にときめいてしまいました。そこで会社の休みに、安平町のカボチャ農家の収穫をボランティアで手伝ってみました。感謝されてトマトをたくさんもらいました。そのトマトがまた、おいしくておいしくて。真狩のジャガイモ農家にも手伝いに行きました。二世代家族6人がいつもいっしょに農作業をしています。私は働き盛りの年代の息子さんに聞いてみました。
家族全員がいつもいっしょだとストレスもたまるのじゃないですか? その方は札幌でサラリーマンを経験してふるさとに戻ったのですが、彼は言いました。「いまは娘といつもいっしょにいられるから楽しい。サラリーマン時代はそうはいかなかったからね」私はしだいに、農業の世界に入ってみたい! と本気で思うようになりました。
調べてみると農業で生活するには、こんな方法があります。まず、農業生産法人に就職するか、跡継ぎを探している農家で働く。あるいは自力で土地を得て頑張ってみる。そして、農家の人と結婚していっしょに働く。私は、いっそ最後の方法が良いと思いました。そう、婚活です!各地の農協ではいろんな婚活の行事を行っているのです。中でも人気の観光地でもある富良野エリアの婚活イベントは大人気です。道外からも応募の女性たちがやってきます2回目の応募でやっと参加することができました。そして縁があって、2年前に上富良野の農家三代目の人と結婚。私は農業で生きていく道をつかみました。まったくちがう世界の人間が農業にときめいて、その勢いのままにエイヤッと飛び込んだといえるかもしれません。

 

 

佐藤ファームの暮らし

 

私が嫁いだ佐藤ファームは、上富良野町の畑作農家です。創業80年で、は33代目。私が入って、夫の両親と4人で営んでいます。作付面積は約40ヘクタール(札幌ドームのアリーナ約20面分になります)。富良野と旭川を結ぶ国道237号沿いに広がっていて、十勝岳連峰を正面から望むことができるすばらしいロケーションです。畑では、ジャガイモ(キタアカリ・とうや・オホーツク)、小麦(きたほなみ・ゆめちから)、大豆(とよむすめ)、えんどう豆、金時豆、てん菜などを作っています。北海道の農家の耕地面積の平均は本州よりはるかに大きく約20haですが、うちはその2倍ほどあります。ジャガイモの多くはポテトチップスになる加工用で、メーカーの基準に合わせて作ります。でもこれはなかなか難しいので、各農家の腕の見せどころです。金時豆やえんどう豆は関西の和菓子メーカーに直接出荷しています。一昨年嫁いだ私は、まずできることから少しずつ慣れていって、去年まる一年、種まきから収穫まで、農家の一年をフルに経験しました。できることからゆっくり少しずつ慣れれば良い。夫はそう言ってくれましたが、いまではトラクターの作業もできるようになりました。
 
年間の仕事をいえば、4月の機械整備や機械搬入にはじまり、トラクターで畑を起こして種をまけば、あとは除草などの管理作業。作物によって7月から収穫がはじまり、10月いっぱいくらいで主な作業は終わります。11月に片付けをすれば、あとはお休みです。確かに農家は、一年中汗水たらして働いているわけではありません。種をまくゴールデンウィークのころはほんとうに寝る間を惜しんで、という感じですが(春の一日は秋の三日、などと言われます)、冬のあいだは自由時間がたっぷりあります。私の農業人生はまだはじまったばかりですが、自分の経験を通して、農業はやっぱりすばらしいと胸をはることができます。なんといっても、生活が自然と共にあります。文字通り季節とともに暮らしがまわります。
そして、いつでも家族がそばにいて、家族との時間がたくさんもてます。これは、人生に例えようもない安心をもたらしてくれます。また、食べもののありがたさが身に染みて、食べることは生きることなんだ、と実感できます。野菜の生きようとする力はほんとうに強いのです。私たちはそれを毎日いただくことで生きていけます。さらには、成果がそのまま報酬に直結します。

 

 

女性だからこそできること

 

夫の家族以外には誰ひとり知っている人がいないまちで、私の結婚生活ははじまりました。知り合いも増えて集まりなどに参加するうちに私が痛感したことがあります。それは、農業はとことん男社会だなぁ、ということ。農家の女性たちはみんなほんとうに働き者ですが、どちらかというと内向的な人が多くて、夫や父親のいうことをこなしていくという印象です。女性がなにか意見を言おうとすると年配の男性たちは、「お前の考えはいらない。黙って亭主のあとについて行けばいいんだ」という調子です。もちろん、それが良かった時代が長く続いてきたのだと思います。でも、自分の畑で育った野菜がどこでいくらで売られているか。買った人はどんなふうに食べているか。学校でも家庭でも、子どもたちがどんなものを食べているか。そんな、収穫の先までを見すえることが現代の農家女性の役割じゃないのか。私はいま、そう思っています。
食卓のこと、子育てのことを考えるのには、女性の視点や仕事がとても大事ですからね。これから、地域の女性グループにも入れてもらって、そんな意識から、農業の現場でいろんなことを学んでいきたいと思います。私たちが作っているジャガイモは、上富良野の観光施設でも販売しています。ゆでたてを試食していただくと、特にアジアから観光でいらしている皆さんに絶賛されます。そして何箱も買ってくれたり。地元では当たり前だと思っている野菜の味も、外から来た人にとってはビックリするくらいおいしいのです。このことは私に、たくさんのことを考えさせます。私たち農家は、まず地元の人に地元の野菜の価値をもっと知ってもらわなければ、と思うのです。
 
私は今年の春から、富良野緑峰高校農業特別専攻科に通っています。農業の基礎をしっかり学ぶためです。農繁期には月に一度の登校で、農業施設や加工工場などの見学をします。農閑期にはみっちり座学で、農業簿記や基礎作物学を学びます。2年になると、営農計画や経営分析の手法などを学ぶことができます。同級生は年齢や境遇もさまざまな6人。でも良い農家になるという目標は共有しています。学生時代から販売・営業の世界を経験して農業の世界に入った私ですが、共通して大事なことがあるんだな、と実感していることがふたつあります。ひとつは、「何ごとも計画と準備が大切」ということ。私は今年、たった一日だけ計画通りに作業をしなかったために、200株のブロッコリーを売り物にならないものにしてしまいました。そしてふたつめは、どんなときも「言い訳しない、後悔しない」。でも反省はしっかりして、「前に進む」。若い皆さんは、これからの人生でほんとうにたくさんのことを経験していくでしょう。たくさん失敗もするでしょう。でも失敗には失敗の価値があります。どうぞこれから、ときめくことにたくさん出会ってください。

 

<学生からの質問>

 

Q 営業・販売の仕事はやがてコンピュータに取って代わられるのではないか、というお話がありました。すべての分野がそうなるでしょうか?

 

A 単純な物品の販売はそうなるでしょうが、例えば生命保険など、人のいのちに関わる商品は、いつまでも人間の手でセールスされると思います。機械やコンピュータでは、人間が抱く不安や思いに応えることはできませんからね。

 

 

Q 北海道の農産物の強み、魅力はどんなところにありますか?

 

A 寒暖の差が大きいために、糖度やおいしさが増します。そして北海道には、スケールと効率をベースに、努力と工夫や研究をいとわない意欲的な農家がたくさんあります。本州以南とちがって、北海道の農家の多くは専業農家です。これからさらに、北海道の農産物の価値は高まっていくと思います。

 

 

Q 農業におけるIoT(Internet of Things)の導入はどのような状況ですか?

 

A 私が通う富良野緑峰高校では、高度な農業技術の共有をめざして、営農技術のクラウド化に取り組んでいます。Googleマップをベースに、肥料や季節ごとの作業、収穫の結果などを畑ごとにデータ化して、これを蓄積していくのです。これが進むと、私の夫の頭の中だけにあるような高度なノウハウが、端末を通して私にもちゃんと見えるようになります。

 

 

Q 冬のあいだは何をしていますか?

 

A 家族によってずいぶん違います。除雪の仕事やスキー場のインストラクターで働く男性たちもいますし、高齢の方々はだいだい家でのんびりすごします。私の夫は、農業以外に地域やまちに関わる役割がいろいろあって、結構忙しくしています。そして私は、毎日高校に通っています。

 

 

Q 収穫は年に一度ですから、お金が入るのは年に一度ということでしょうか?

 

A 基本的にそうです。月給をもらって生活していた私にはなかなかなじめないことでした。いっぺんにどんとお金が入ったら、どんと使ってしまうのではないか、と(笑)。うちではそれを12カ月で割って、その8割くらいで暮らすようにしています。将来にそなえた蓄えも大切です。

 

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