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2020.01.08

平成31年/令和元年度第11回講義:「国家公務員として霞が関で働くということ」

講義概要(1月8日)

 

○講師:森 裕 氏(昭和57年)商学部商学科卒/会計検査院 第五局長)

 

○題目:「国家公務員として霞が関で働くということ」

 

○内容:

商大を卒業して私はまず損害保険会社に入社した。体をこわしたことをきっかけに進路をリセットして、国家公務員になろうと考えた。集中力を高めて猛勉強した結果、会計検査院に入庁して、32年間仕事に打ち込むことができている。会計検査院の仕事を通して、国家公務員のやりがいや、社会人になってからの学びについて話し、後輩たちの進路設計の糧として提供したい。

 

 

 

国の根幹に深く関わる仕事の、やりがいと責任

 

 

森 裕 氏(昭和57年)商学部商学科卒/会計検査院 第五局長)

 

 

 

 

損保会社から国家公務員へ

 

 

 

私は、やりがいを抱きながら32年ほど霞ヶ関で仕事をしてきました。今日はその経験をもとに、皆さんの進路選択の参考になるような話をしたいと思います。私の話を聞いて、国家公務員への興味をもってくれれば幸いです。静岡県で生まれ育ちましたが、最初に小樽商科大学を意識したのは、高校1年生のときに課題図書で出会った、伊藤整の「若い詩人の肖像」という作品でした。そのなかに、商大の前身である小樽高等商業学校が山の中腹にある、と出てきて、強く印象に残ったのです。入試のときにはじめて小樽の地を踏みましたが、入学して通学するようになり、小樽のまちと商大の佇まいは、はじめに抱いたイメージ通りだったと感じたものでした。学生時代は、水天宮のある相生町と、小樽公園のある花園に暮らしました。アルバイトは、まず家庭教師。それと、余市にある老舗旅館の水明閣さんで、結婚披露宴の裏方の仕事をしました。進行の台本に沿って照明や音響をチームの一員として担当したのです。物事の段取りとかチームワークなど、たくさんのことを学びました。水明閣さんとはいまもおつき合いがあります。また力仕事では、ニュージーランドから小樽港へ運ばれてくるマトン(羊肉)の積み下ろしの仕事をしました。マイナス30度の船の冷凍庫の中で働くという、実に得がたい経験ができました。アルバイトは、就職すると絶対にできないようなことも経験できるわけですから、とても良い社会勉強でもあります。ぜひいろいろとやってみると良いと思います。私の時代は商大から公務員になる人はごく少数派でした。それだけ民間企業の景気が良く、民間の将来性も明るかったのです(私も最初は民間企業に進みました)。しかし報道によれば2018年度の数字では商大生の進路の16.5%が公務員で、これは2005年の3倍になっているとのこと。実は2018年度に、私につづいて30数年ぶりで商大から会計検査院に入った卒業生が出ました。これは、私が人事担当をしていたときに商大のキャリア支援センターに送っていたメールがきっかけでした。私は、志望者がいれば対応します、と伝えておいたのでした。彼(斉藤君といいます)はOB訪問で、霞ヶ関の私を訪ねてきました。在学した時代は、ちょうど経営法学コースができたころでした。ゼミは青竹正一先生の会社法で、サークルは会計研究会に所属しました。当初は公認会計士になりたいと思い、札幌の専門学校にも通いました。また親が教師だったこともあり、教職課程をとって、隣の小樽商業高校で教育実習もしました。就活では当初は公的な仕事をしたいと思っていたのですが、景気も良くて民間企業から内定をいただいたので、そこに入りました。大手の損保会社でした。しかし、想像していた世界と少しちがって、あまりやりがいを感じられないまま、4年たったころ体調を崩して入院してしまいました。そして毎日病室の天井を眺めながら考えました。これからの人生、どうする? 再スタートを切るとしたら今しかないぞ、と。そして、国家公務員試験を受けようと決めました。3月に退院して、試験は6月。3カ月と少ししかありません。毎日10時間以上机に向かい、1千時間くらい集中して勉強した結果、合格することができました。その年は9千人くらい受験して、合格者は90名ほど。試験に合格しても希望の官庁を訪問して最後の面接があるのですが、そこまでいって実際に採用されたのは50名ほどでした。

 

 

 

国家公務員の仕事

 

 

公務員の仕事についてあらためて説明しましょう。公務員が担うのは、民間にできないこと、あるいは民間に任せづらいことを行う仕事です。そのうち国家公務員とは、国民全体への奉仕者として、国の政策とその実施を幅広く担います。例えば財政や外交、医療福祉、教育、防衛といった分野です。仕事の場としては、中央官庁と全国各地にある出先機関になります。国家公務員は、一般職と特別職に大別されます。一般職とは各省庁などで働く公務員で、特別職とは、総理をはじめとする大臣や大使、裁判官などのことです。北海道でも、さまざまな国家公務員が働いています。例えば北海道財務局、北海道開発局、札幌国税局。さらに札幌地方検察庁、札幌防衛施設局、北海道労働局などがあり、函館には函館税関、小樽には海上保安庁の第一管区海上保安本部があります。会計検査院の機能とは、税金をムダに使わないように、国の収入と支出をチェックする仕事です。毎年11月に、院長が総理大臣に報告を提出します。会計が正しく行われているかの調査と報告という仕事でいえば、監査法人という組織もあります。それは株主に対して、会計が正しく処理されていることを「保証」するのが仕事。これに対して会計検査院の仕事は、保証するのではなく、「検査(チェック)と報告」です。私たちは2、3年ごとに移動があります。私は32年間で17のポストを経験してきました。それだけ国が行う幅広い政策や事業の現場に、会計検査の立場で立ち会ってきたわけです。ちなみに昨年度(2018年度)の実績としては、300数十件の事項にわたり、総計として1千億円以上の国の無駄遣いを指摘しました。そのうち私が責任者を務める第五局では、総務省や経産省、NHKNTT、郵便局などを担当しますが、300億円ほどの無駄遣いをチェックすることができました。国家公務員の仕事は、自分の職能を、より良い社会、人々が安心して暮らせる社会のために直接役立てることができる仕事です。私としては皆さんの進路選択に、ぜひ国家公務員という選択肢を加えていただきたいと思います。国家公務員の一般職試験(大卒程度試験)は、2019年度では、まず受験資格が、1989年4月2日~1998年4月1日生まれの人。第1次試験が6月16日、第2次試験が7月17日~8月2日にあり、8月20日に最終合格発表がありました。1次試験は筆記試験で、「基礎能力試験」(多肢選択式・9分の2)と、「専門試験」(多肢選択式・9分の4)。そして「一般論文試験」(9分の1)からなっています。基礎能力試験は知能分野と知識分野の問題が40題あって、試験時間は2時間20分。専門試験は、行政学、民法、財政学、経営学、社会学、心理学など8科目を選択して、問題は同じく40題。これを3時間かけて答えます。論文試験は1時間。2次試験は、面接による人物試験です(9分の2)。1次と2次に合格すると、最終合格者として採用記載名簿に記載されます(合格者として3年間有効です)。そして自分が希望する官庁を訪問して、各府省などの面接を受け、これに合格すると内定、採用、となります。

 

 

 

32年間で17のポストを経験

 

 

私は1987年の1月に会計検査院に入庁しましたが、キャリアのスタートは、労働検査課という労働省(当時)の検査でした。それからの職場を名称だけあげると、官房審議室、大蔵検査課(国会、内閣府、宮内庁、大蔵省、日本銀行などの検査)、建設検査第3課(旧建設省道路局の検査)、大蔵省証券取引等監視委員会特別調査課(証券取引法の犯則事件の調査)、農林水産検査第2課(構造改善局の農業土木の検査)、総務課渉外広報室(国会担当専門官)、厚生検査第1課(旧厚生省の生活保護などの検査)、人事課(採用、人事異動、予算要求)、中部国際空港株式会社調達部(システムの調達)、財務検査課、人事課人事企画官(採用など)、厚生労働検査第2課長、能力開発官(職員などの研修など)、農林水産検査第2課長、厚生労働検査第1課長、会計課長(予算要求、契約など)、官房審議官(第5局、第1局)、となります。大蔵省(当時)に出向したときには、インサイダー取引や粉飾決算などの分野の検査で、ドラマに出てくるような、張り込みやガサ入れもしました。張り込み中の同僚が不審者として警察に連行されて、それを上司が迎えにいった、などということもありました。また昨年(2019)1月に、国交省や環境省などを担当する第3局の局長になり、参議院の予算委員会で答弁にも立ち、NHKで放映されました。そして、夏に現在の第5局の局長(総務省や経産省、NHK、NTT、日本郵政などを担当)となりました。会計検査院という組織は、意志決定機関として、内閣が任命して天皇が認証する3人の検査官からなる検査官会議があり、その下に事務総局と5つの局があります。職員は1300人弱。会計検査院の大きな特徴は、これが憲法上の独立機関であることです。その立場で、国会と国民に対して、国家財政にかかわる説明責任を負います。圧力や権力に屈することがあってはならない仕事です。検査の観点は国民の目線にあるわけですが、次の5つのポイントがあります。

  • 正確性(決算の表示が予算執行の状況を正確に表現しているか)
  • 合規性(会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されているか)
  • 経済性(より少ない費用で実施できないか)
  • 効率性(同じ費用でより大きな成果が得られないか)
  • 有効性(事業が所期の目的を達成し効果をあげているか)

また、組織は本庁(霞ヶ関)にあるだけで、他府県に出先機関を持ちません。一方で私たちの仕事は、国の収入支出の決算、国が出資している政府関係機関・独立行政法人などの会計、あるいは国が財政援助を与えている地方公共団体などの会計の検査ですから、現場は全国にわたります。つまり北海道から沖縄まで、仕事には出張がつきものなのです。北海道庁や札幌市、そして小樽商科大学などの国立大学法人の会計も検査の対象ですし、まだ日銀小樽支店があった時代に、私は小樽支店に出張したことがありました。検査の例を上げると、例えばあるとき南の島の自治体の農場を検査しました。国の補助金で最新の収穫機を2台買ったのですが、調べてみるとそれぞれにある稼動記録の台帳から、実際は1台の方しか使われていないことがわかりました。もう一台を実際に確かめると、はたして全然使っていないピカピカの状態。これは不必要なものだったのです。台帳を手に私が問い質す場で、担当者の目は充血していました。どうやら徹夜して一台の台帳を2冊に分ける作業をしていたようでした(笑)。また、国の予算の多くは単年度主義ですから、土木工事などは3月いっぱいの年度末までに竣工していなければなりません。検査に行くのはその直後ではなく2年くらいあとですから、人も替わって辻褄を合わせる緊張感もなくなるのでしょう。3月末として見せられる竣工写真に、サクラならぬアジサイが写っていたりします。実際の竣工は6月だった、ということがわかります。

 

 

読書を第二の天性に

 

 

先に、平成30年に商大卒業生が会計検査院に入庁してくれた、という話をしましたが、その斉藤君も私に、後輩たちにぜひ入庁してほしいというメッセージを託してくれました。それは次の通りです。「国民の税金を基にした国の収入支出の決算を確認する検査院の仕事は、国の根幹に関わる、幅広くスケールの大きな仕事で、大きなやりがいを感じます。検査の現場では、社会には自分が知らなかった仕事があり、それぞれの人が責任をもって毎日がんばっていることに気づき、大きな学びを得ます。ぜひとも進路の選択肢のひとつに、国家公務員、そして会計検査院を考えてください」。会計検査院に向いている人はどんな人か?これはほかの仕事にも当てはまるでしょうが、つねに新しいことに興味を持って、どん欲に学び続けられる人です。大学を出てからはじまる、長くやりがいのある勉強があることを、知っておいてください。入庁したばかりの若い職員に私が言うことは、仕事をする人間としての基本的なふるまいの大切さです。

  • 挨拶はしっかり、はきはきと ●勉強をする ●ほうれんそう(報告・連絡・相談)を忘れずに ●手帳を使って、メモを取る ●明朗、積極性、協調性 ●本を読み、映画を見る ●酒は飲んでも飲まれるな、遅刻はしない

私には、35年くらい折にふれて読み続けている本が何冊かあります。ひとつは、マルクス・アウレーリウス(ローマ皇帝・哲学者)の『自省録』。そこには例えばこういう一節があります。

 

お前自身には成し遂げ難いことがあるとしても、それが人間に不可能なことだと考えてはならない。むしろ、人間にとって可能でふさわしいことであれば、お前にも成し遂げることができると考えよ。

 

公務員試験のために机にかじりついていたとき、私はこれを紙に書いて目の前に貼っていました。また、実業家・思想家の中村天風の『君に成功を贈る』や『成功の実現』という著作も、つねに読み返す本です。そこには、「習慣は第二の天性」、とか、「人生あまり難しく考えなさんな。暗かったら窓を開けろ」、といった、人生を前向きに考えることができる言葉があります。皆さんもひもといてみてください。「本を読み、映画を見る」こと。これは私が学生時代からいまもずっと続けている習慣で、第二の天性と呼べるものかもしれません。自分の人生はひとつですが、良い映画の中には、たくさんの人生があります。それらを知ったり疑似体験することから学べることは多いでしょう。学生時代にしかできないこと—。働くようになってふりかえると、これは本当にたくさんあります。皆さんもそのことをしっかりと意識して、どうぞ有意義な学生生活をおくってください。

 

 

 

 

 

 

<森 裕 さんへの質問>担当教員より

 

 

Q 国の根幹に関わるお仕事について、検査の現場のお話もしていただきましたが、さらに加えて具体的な内容を、可能な限りでうかがいたいのですが?

 

 

A まだ新人時代にこんなことがありました。電気の需給契約に関する、国のある施設の帳簿を見ていて、全然使われていないのに経費が計上されているものがあったのです。確かめてみると、使っていなくても基本料金が取られていることがわかりました。ならばこういうものは契約を打ち切るのが良いと判断して、経費削減に貢献できました。その翌年の検査報告にも実績として載ったので、うれしかったことを覚えています。電気の契約についてずいぶん勉強しました。比較的近年では、金融庁が東京証券取引所などで使う大型の液晶ディスプレイがあります。低価格の新製品がどんどん発売される分野ですから、高額なものを長く使い続けるよりも、新しいものを買い換えていった方がコスト減に繋がる、という指摘をしたことがありました。

 

 

 

Q 事前課題で、全国で進む人口減少に対して行政がとるべき施策について考えよ、という問題を出されました。森さんのお考えをヒントとしてお話いただけますか?

 

 

A 全国には、沖縄県の宮古島や石垣島など、近年移住者が増えているところもあります。テレビ番組で見ましたが、岡山県の西粟倉村では、ITベンチャーのための環境を整備して、彼らを積極的に誘致したことで200人近い移住者を迎えたそうです。行政の施策によって人口減を食い止め、移住者を迎えることは十分に可能なのです。また、行政のムダをどう無くしていくかということも重要です。検査の観点というお話をしましたが、その中でとくに「経済性」(より少ない費用で実施できないか)と、「効率性」(同じ費用でより大きな成果が得られないか)が重要になります。

 

 

 

 

<森 裕 さんへの質問>学生より

 

 

Q 会計検査院の日常ではかなりハードな仕事ぶりが想像できるのですが、実際はいかがでしょうか?

 

 

A 膨大な調査をまとめて、毎年11月に会計検査報告を総理大臣に提出しますが、その編纂をめぐってはかなり忙しい時期があります。かつては泊まりがけでしたが、しかし近年の働き方改革の流れもあり、現在ではそういうことはなくなりました。また女性が働きやすくなり制度も整えられてきました。一方で、これは報道などで聞いたことがあるかもしれませんが、国会対応の仕事では残業を余儀なくされることもあります。国会で質問に立つ議員は前もって質問通告をします。我々官僚はそれに対して想定問答を作って答弁する大臣などに提出するのですが、通告の締め切りが破られると残業せざるを得ません。そうした他動的要因による残業は避けられません。

 

 

 

Q 学生時代をどのように過ごすべきか、という観点からアドバイスをいただけますか?

 

 

A いまの皆さんには実感がもてないかもしれませんが、就職してみると、学生時代には自由に使える時間がとてもたくさんあったことに気づきます。ですからなにか興味のあることに、じっくりと取り組んでください。仕事の現場では、あらためて座学で勉強するということはなかなかできません。広く言えば、「読書」と「語学」。このふたつを強く意識してください。また、アルバイトも良いでしょう。余市の水明閣さんの結婚披露宴の裏方をしたという話をしましたが、就職すると絶対にできない体験を、アルバイトですることもできます。

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