2026.04.02
令和8年度入学式 学長式辞
新入生の皆さん、初めまして。私が小樽商科大学学長の江頭です。皆さんを本学の学生として迎えられたことをうれしく思います。
皆さんは、小学校入学以来の12年間の基礎教育を終え、いよいよ学校教育の最終段階に進まれることになります。みなさんはこれまで多くの研鑽を積み、貴重な経験をされたと思います。
高校までの皆さんは、正しい方法で正しい答えを導き出す訓練を、ひたすら積み重ねてこられたことと思います。もちろん、大学入試の問題にも正解があり、その正解にたどり着いた人だけが、こうして入学式を迎えているわけです。
しかし、そのように正解を求め続けてきた皆さんが、ようやくたどり着いた大学での学びには、実は正解がありません。教員も教科書も、唯一の正解を教えてくれるわけではありません。本学の図書館には、16世紀から21世紀までに出版された約5万冊の専門書と、8千種類の学術雑誌が所蔵されています。しかし、その中に、世の中の「正解」が書かれている書籍は一冊もありません。あるのは、真理の存在を信じてそこに一歩でも近づこうとした先達たちの記録だけです。なぜなら、大学の学びは誰も知らない世界を切り開く最先端の研究と表裏一体だからです。
皆さんは大学卒業時に「学士」という称号を得ます。学士とは、修士、博士へと続く研究者の階梯の出発点なのです。大学に入学するということは、研究者としての最初の段階を歩み始めることにほかなりません。
研究とは、誰も見たことのない世界を探る営みです。それは、積み重ねてきた論理を右手に、研究者の間で共有された方法によって得られたエビデンスを左手に持って、少しずつ岩を削っていく作業に似ています。岩の中に何かがあると信じて掘り進めますが、実際に何かがあるとは限りません。仮に何かを見つけたとしても、それが真理であるかどうかは分からない。それが真理だと思っても、他の研究者が新たな発見をする可能性を常に否定できないからです。
では、高校までの学びで、なぜ正解を求めることが重視されてきたのでしょうか。それは、正解そのものに意味があったのではなく、正解に至る方法を身につけることに目的があったからです。
これは、お菓子作りにたとえることができます。レシピに従って正確に作れば、誰でも一定の美味しさのお菓子を作ることができます。お菓子作りは、とりわけレシピ通りに手順を進めることで成功しやすい分野です。しかし、そこに満足せず、より美味しいものを自ら生み出したいと考えたとき、どうすればよいでしょうか。
「美味しい」という感覚は人それぞれであり、絶対的な正解はありません。しかし、だからといって、これまで学んできた方法をすべて捨て、思いつきで作ってもうまくはいきません。レシピとは、先人たちが数多くの試行錯誤と失敗の末に築き上げた知恵の結晶です。その中で、ごく限られた成功の道筋が見出されてきました。つまり、新しいものを創り出すためには、まず正しい方法を身につけ、その上に工夫を積み重ねていく必要があるのです。高校までの学びは、その「正しい考え方」を習得するための訓練だったと言えるでしょう。
そして、大学での学びとは、この正しい方法、すなわち「科学的方法」をさらに突き詰めることにほかなりません。皆さんはこれからの4年間、科学的方法を学び、それを用いて自ら設定した課題に取り組み続けることになります。それは、決して華やかではありませんが、根気を要する作業です。
さらに難しいのは、「何を課題とするか」を自ら決めなければならない点にあります。大学では解決すべき問題を誰も用意してくれません。課題を見つけるとは、ある事象に対して適切な問いを立てることにほかなりません。しかし、この問いの立て方が不適切であれば、どれほど努力しても得られる答えは浅いものにとどまるか、あるいは答えそのものにたどり着けないこともあります。
現在のAIは、与えられた問いに答えることには非常に優れていますが、自ら問いを立てることはできません。問いを立てるのは、あくまで人間の役割です。社会科学の対象である社会現象は、問いの立て方によってその姿を大きく変えます。時には、より深く理解するために、問いそのものを組み替える必要さえあります。
私たち大学教員が4年間で皆さんに提供できるのは、この科学的方法と問いの立て方という二つの道具です。しかし、これさえあればすべてが分かるという「賢者の石」や、ここまでやれば十分だという明確な合格ラインを示すことはできません。
4年後、皆さんが社会へと踏み出すときには、この二つの道具を携えていることになります。それらをどれだけ磨き上げるかが、その後の人生を大きく左右することになるでしょう。受験を乗り越え、大学では自由に過ごしたいと考えている人もいるかもしれません。しかし、これからが本当の学びの始まりです。社会に出るまでのわずか4年間で、道なき原野を切り開く力を身につけなければなりません。皆さんの一層の努力と研鑽を期待しています。
最後に、一点だけ付け加えます。成人年齢は18歳に引き下げられましたが、飲酒は20歳まで認められていません。これは、未成熟な身体への影響と、精神的な制御の難しさという二つの観点から設けられている制限です。実際に、本学でも未成年の飲酒による痛ましい事故が発生したことがあります。また、過度な飲酒によって人生に大きな影響を受けた事例は少なくありません。日本人にはアルコールを分解する能力が弱い人が多いことも知られています。未成年者は決して飲酒をしてはなりません。たとえ勧められても、必ず断ってください。もし強要されることがあれば、すぐに教職員に相談してください。
飲酒をしなくても、大学には面白いことが数多くあります。好奇心のリミッターを外し、身の回りのあらゆるものに目を向けてください。世の中のすべてが、研究の対象となり得ます。
ようこそ、科学の世界へ。私たちは皆さんの入学を心から歓迎します。
令和8年4月2日 国立大学法人 北海道国立大学機構
小樽商科大学長 江頭 進
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