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エバーグリーンからのお知らせ

2015.12.09

平成27年度第9回講義:「好きを仕事に!仕事を好きに!」

 

講義概要

 

○講師:山谷 智恵子 氏(平成9年 商学部商学科卒)

 

○現職等:株式会社アイム 専務取締役

 

○題目:「好きを仕事に!仕事を好きに!」

 

○内容:人と比べる人生じゃなく、自分らしい人生を! 自分の個性をしっかり意識して、自分の「好き」を発信すると、楽しい仕事が舞い込んできます。大好きな小樽に貢献したいと思っていたら、NPO法人小樽民家再生プロジェクトにも誘っていただきました。自分に自信を持てなかった自分が、さまざまな学びを通じて変わってきたことを伝えたいと思います。

 

講師紹介

 

1974年札幌市生まれ。1993年北海道札幌手稲高校卒業。1997年小樽商科大学卒業。大学時代は基礎スキー部の活動に熱中した。家業であるデザイン制作・印刷会社(株)アイム入社。DTP(デスクトップパブリッシング)を担当。4年半の東京でのデザイン修業を経て、2006年にふたたび同社へ。2014年から専務取締役。「お客様のファン創りを応援します!」をスローガンに、訴求力あふれる印刷物を中心にした販売促進の支援を事業としている。おたる案内人検定1級や小樽民家再生プロジェクトの理事職などを通して、愛する小樽のための活動にも取り組んでいる。スキーのホームゲレンデは、夜景が美しい小樽天狗山。エバーグリーン講座実行委員も務める。

 

家業の会社でキャリアをスタート

 

私が母や弟と共に経営している(株)アイムは、印刷物を中心に販売促進の支援をする会社です。生まれは函館で、すぐ札幌に移り、手稲高校(札幌市手稲区)から商大に進みました。商大は良い大学だからぜひ受験しろ、と言ってくださったのは商大OBの先生で、受験の直前には「若人逍遥の歌」(代表的な商大寮歌)を歌ってくださいました。

 

商大でいちばん熱心に取り組んだのは、基礎スキー部の活動でした。商大はすばらしい大学だ、ということをより強く実感したのは卒業してからで、諸先輩が後輩のことをほんとうに親身に応援してくれるのです。今日こうしてエバーグリーン講座に登壇することができて、あらためて高校の恩師に感謝したいと思います。

 

私の名刺は二つ折りで手書きの文字がたくさんあり、ちょっと凝ったつくりになっています。まず手書きのPOP文字によって、既製のフォントにはない個性を出そうと思いました。そして一番目立つところに、「アイムはお客さまのファン創りを応援します」というメッセージ。ほかに、DMアドバイザーやPOP広告クリエイター、色彩検定、そしてスキーの準指導員、おたる案内人検定1級などの資格をあげています。好きな食べもののことまで書いていますが(お寿司、ウニ、チーズケーキ)、このおかげで、運が良ければ誕生日にチーズケーキがいただけたりします(笑)。

 

商大を卒業して、実家の家業である会社(アイム)でDTP(デスクトップパブリッシング) オペレーターとして働きはじめました。1990年代の末、当時の印刷の現場は、デジタルのシステムが本格的に入り始めたころ。コンピュータの上でチラシやカタログなどを制作するDTPが導入されて、私は意欲的に経験を積んでいきました。でもクリエイティブの専門教育を受けたことはなかったので、なんとかもっとレベルアップしたいと思うようになりました。そこで取引先の方の紹介で、札幌出身の社長が作った東京のデザイン事務所に修業に出たのです。

 

私の修業時代

 

仕事場は西麻布(東京都港区)にあり、自転車で通える五反田に部屋を借りました。社長が起こしたデザインをコンピュータで仕上げていく仕事の現場で、いろいろなことを体験的に学びました。クライアントは一流の百貨店やデベロッパーが多く、忙しいときには徹夜もしました。少し余裕があると自分でもゼロからデザインを起こしてみて、社長に見てもらいます。でも誉められたことはほとんどありません(笑)。休みの日には美術館やおしゃれなカフェなどをまわりました。札幌と小樽ですごしていた私にとって、東京はとても刺激的な環境でした。ずっと暮らすのはきつかったかもしれませんが、仕事をする場所としては理想的な条件があったように思います。

忙しく充実した日々が4年半ほど続きましたが、ご実家の事情で社長が東京の事務所を畳むことになり、それを機に私も札幌にもどりました。まだまだ学びたいことはあり、デザイナーとして一人前になったという自信はもてなかったのですが、仕方ありません。

 

家業ですから、クリエイティブの技術やセンスに加えて、経営のこともしっかり勉強しなければなりません。そこで、経営学者ピーター・ドラッカーの読書会に参加することにしました。10人くらいの集まりで、各自はファシリテーターに導かれながら、読み込んできた内容についてそれぞれ考えを述べて議論を進めます。本自体は当時の私にはとても難しかったのですが、会のファシリテーターは、日本一わかりやすく(!)ドラッカーを解説する、佐藤等先生。『実践するドラッカー』という人気のシリーズを出されていて、しかも商大の先輩。さらにはなんとスキー部の先輩でもあります。これは奇跡的な縁だ! と確信して、先生の主催するセミナーにも通いました。業界や年齢のさまざまな人たちといっしょに学ぶことは、とてもためになりました。

 

ドラッカー、そしてプラス思考へ

 

私は佐藤先生から、ドラッカーの経営学の原理原則を学ぶことができました。例えば、「成果をあげる5つの能力」という考え方があります。それは、1)時間を管理する 2)貢献に焦点を合わせる 3)強みを知る、生かす 4)最も重要なことに集中する 5)成果をあげる意志決定をする、というもの。

 

特に共感したのは、自分の強みを知って生かす、ということ。受験生なら弱みを克服することに力を入れるでしょう。しかしビジネスの世界では、強みをもっと強くすることの方がはるかに重要なのです。自分の強みに磨きをかけて、力が伸びてくると仕事が楽しくなる—。

 

何のために自分の強みを生かすのか。それは、会社や組織に貢献するためです。自分ひとりのことではなく、まわりの人や自社、さらには社会の役に立つからこそ、楽しくなるのですね。強みという丸(〇)があって、貢献という丸(〇)がある。このふたつが重なるところが成果になります。

 

ドラッカーの経営学には、「利益は企業の目的にはなり得ない」という有名な思想があります。人も企業も、単に自分のためだけではなく、社会のためになるからこそ、意欲がわいてくるのです。何が自分の強みなのか。私もじっくり考えてみました。大学でスキーには熱中したけれど、1番になったことはない。東京でデザイン修業をしたけれど、それで必ずしも自信がついたわけでもない。考えれば考えるほど、ネガティブ思考に陥っていきました。

 

佐藤先生に相談すると、西田文郎先生の「No.1理論」というものを教えられました。札幌でセミナーがあると言うのです。私にとってはとびきり高額な受講料だったのですが、思い切ってそのセミナーに飛び込んでみました。集まった人たちはベテランの社長さんばかりで、自分のような若造はいません。場違いなところに来てしまった、と思ったのですが、セミナーがはじまると、「自分を変えられるのはこれだ!」と確信しました。私はそこで、プラス思考の大切さを深く学んだのです。

 

 

好きなことだとどうして頑張れるのか

 

西田先生の理論は、大脳生理学や心理学から脳の機能にまでアプローチする画期的なもの。先生は日本のトップ経営者やアスリートたちに大きな影響を与えてきました。

 

2004年と05年、駒大苫小牧高校が夏の甲子園で連覇を達成して北海道が沸きましたが、球児たちはみな西田理論を実践していたのです。優勝を決めたときに人差し指を高く掲げるナンバーワンのポーズは、皆さんも記憶にあることと思います。先生によれば、人間の脳は基本的に経験してきたデータからしか次の行動の判断ができません。だから、過去にできなかったら、いまも、次もできない。ほとんどの人がそう思います。

 

でも成功する人には、こうした思考がありません。できるんだ、と感じるプラスのイメージ。そうした感性がやがて思考にまで成熟すると、プラス思考となります。「イメージ」と「感性」、そして「思考」。この3つの「プラス」が必要です。人間の脳は、いきいきした具体的なイメージがインプットされると、全力で働きます。脳の中にドーパミンという神経伝達物質が分泌され、やる気が湧き上がります。実は脳はある領域では、実際に体験したことと想像していることの区別がつかないのだそうです。ですからイキイキとしたイメージを具体的に思い続けていると、心身がプラスの方へ動きます。

 

私の会社では、退社するときに「お疲れさま」とは言いません。お疲れ、というとしたくもないことを無理にしたみたいに聞こえます。ですから社員は帰るとき、「お楽しみさまでした〜」と言うことにしました。はじめは随分抵抗がありましたが(笑)、いまはみんな自然にそうします。好きなことをやっていないと、脳は「快」にならない。逆にいえば、好きなことをやっていれば脳は「快」になって、すばらしいパフォーマンスを発揮する。そこをもっと具体的に深めていくために、私はドラッカー研究の佐藤等先生から、マーケティングの勉強をすすめられました。そこで、商大の近藤公彦先生が商大サテライト(札幌市中央区)で開いている社会人向けの講座に1年間通いました。

 

趣味と仕事は別?

 

近藤先生の講座では、いろいろな大企業のケーススタディと、参加者各自の会社の現状を重ねながら、さまざまなディスカッションを行います。私は、マーケティングにはひとつの正解などないことを実感しました。

 

そこで出会ったのが、マーケティングコンサルタント藤村正宏先生が提唱する「エクスペリエンス・マーケティング」(通称エクスマ)です。全国でひっぱりだこの藤村先生は釧路出身で、北海道でも大手ホテルチェーンのコンサルなどを担当しています。私は東京でのセミナーに参加してみました。「エクスマ」の核心は、「モノを売るのではなく体験を売れ」ということ。単なるモノやサービスは、世の中にもはや飽和状態です。お客さんはあなたの会社のモノではなく、そのモノによって手に入る時間や暮らしがほしいのだ、という理論です。具体的には例えば、上質な布団がほしい人は、モノとしてのフトンではなく、快眠と、それがもたらす健康的な暮らしがほしいのだ、と。

 

藤村先生のエクスマ塾には、とびきりユニークな卒業生がたくさんいます。例えばサッカーフリークの美容師さん(勝村大輔さん)がいて、彼が2号店を出すときのチラシには、藤村先生のアドバイスが全面的に効きました。先生は、サッカーが好きなのならそれを全面に出した方が良いよ、と言ったのです。でもそれまで美容師さんは、趣味と仕事はいっしょにしてはいけない、と思い込んでいました。

 

そこから一転、サッカー好きということを徹底的に強調したとびきりユニークなチラシが作られました。店のスタッフを選手になぞらえたり、お客さまの声をサポーターの声としたり。サポーターは、お客さまの枠を越えて、店のことまでをいっしょに考えてくれる頼もしい存在です。すると、新聞に1万5千部折込んだチラシが呼び込んだ新規のお客さまが、ひと月で129人にものぼりました。これはマーケティングの常識ではありえないほどの驚異的な数字です。

 

「仕事と趣味は別」ではなく、逆に「大好きなことを仕事に取り入れると、仕事の価値も高まる」。大好きなことに熱中すれば脳は「快」になって、その人の能力がフルに発揮されるのです。好きなことなら、人は、何も考えずに自然にがんばることができます。

 

藤村塾にはほかに、「大河ドラマ税理士」なんていう方もいらっしゃいます(山本やすぞうさん)。5歳のころから大河ドラマが大好きというこの方は、クライアントの経営者たちを大河ドラマの主人公に見立てて、どうしたら社長さんたちを最高のレベルにまで引き立てられるか、と発想します。それが自分のミッションであり、税理士の仕事は節税を助けることなどではないんだ、と強調します。

 

また、商大出身の人気の中小企業診断士に乗山徹さんがいらっしゃいます。乗山さんは釧路の方ですが大の沖縄好きで、三線(さんしん)を弾きます。そのキャラクターを全面に出して、売り上げアップアドバイザー「シーサー君」と名乗っているくらいです。乗山さんは、自分が熱中していることをブログなどで発信しはじめると俄然忙しくなった、と言います。人柄を理解してもらうと、じゃあこの人に頼みたい、と仕事がどんどん入ってくるようになったのでした。

 

「好きなこと」の引力

 

私は小樽が大好きです。学生時代はスキー一色だったのでまちをあちこち歩くことなどなかったのですが、卒業してから知れば知るほど、小樽が好きになりました。フェイスブックにそんなことを書いていたら。「小樽民家再生プロジェクト」というNPOを立ち上げるので、仲間になりませんかと声をかけていただき、理事になりました。

 

去年は「おたる案内人検定1級」を取りました。私は学生生活を満喫した小樽に育ててもらったという気持ちが強くあります。だから小樽の人たちと仲良くなりたかった。それはまた、仕事の上でもプラスになりました。案内人検定を取ると、学生時代の級友からまちについての相談を受けたりするようになりました。自分が好きなことを発信すると、それを知って声がかかるのですね。

 

現代は、「関わり合いの時代」だと思います。かつてなら、大学を卒業して離ればなれになると、よっぽど親しい仲間以外は、学友たちとは自然に疎遠になっていきました。でもフェイスブックやブログ、ツイッターなどによって、離れていても手軽につながることができる。車を買いたいとき、保険のことで迷ったとき、顔を知っていて信頼できる人になら気軽に相談できます。何か困ったことや迷うことがあれば、今の私は自然に友人知人たちの顔が浮かぶようになりました。日常的に出くわすそんなつながりや関わり合いに、ワクワクします。だから皆さんも、たとえどんな仕事を選んでも、少なくともどこかの部分で、「好きを仕事にしてほしい。仕事を好きになってほしい」と思います。

 

 

<質問>担当教員より

 

Q 専門職ではない分野で、ふつうの会社員が「好きなこと」を仕事にするのはむずかしい—。そんなふうに考える学生も多いと思うのですが、いかがでしょう?

 

A 例えばアイドルになりたい! とずっと考えてきた人が仕方なく会社勤めをしたとします。はたしてそれまでの彼女は、人前でちやほやされたかったのか、それとも誰かに何かを与えたかったのか…。自分が好きなこと、なりたいことの核心をあらためて掘り下げていくと、何かが見えてくるかもしれません。会社の仕事にだって、アイドルの仕事の重要な要素である、人前で発表したり、人を笑顔にすることがたくさんあるのではないでしょうか。

 

Q 基礎スキー部の時代にドラッカーを読み込んでいたら、山谷さんはちがうスキー選手になっていたでしょうか?

 

A はい、もっと自分も部全体も、いきいきとしたマネージメントができていたと思います(笑)。『もしドラ』の第2弾も出ましたね。でもビジネスの経験のない学生にドラッカーは少し難しいかもしれません。佐藤等先生のガイド本などを読むこともオススメします。

 

<質問>学生より

 

Q サークルでポスターを作るのですが、上手に作るポイントは?

 

A 自分たちならではのオリジナリティを、見る人の目線で表現しましょう。キャッチコピーがまず大事です。それと、連絡先や担当者名などをわかりやすく。意外にこれで失敗することが多いものです。

 

Q デザインや印刷業の世界はデジタル化によって大きく変わったと思います。これからはどうなるでしょう?

 

A デジタル技術の枠組みはもうできあがっているので、これからはそれほど大きな変革はないと思います。重要なのはやはり企画やデザインといったソフトの部分。多くの人材がいる大企業には情報やノウハウも自然に集まりますが、私の会社のような小企業は、世の中の動きとどん欲に関わりながら、情報やセンスを自ら磨かなければなりません。でも現在は、SNSなどでそれがとても容易になっていると思います。

 

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