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エバーグリーンからのお知らせ

2015.12.16

平成27年度第10回講義:「少子高齢化が君たちに与える影響」

講義概要

 

○講師:鷲山 俊男 氏(昭和42年商学部商学科卒)

 

○現職等:株)FPプラザ・あい21 代表取締役

 

○題目:「少子高齢化が君たちに与える影響」

 

○内容:日本の少子高齢化はすさまじい勢いで進んでいる。わずか65年前の平均寿命は60歳以下だったが、今では男女とも80歳を超えている。アベノミクスの新第3の矢の目標の一つに、特殊出生率を「1.8」に引き上げる目標も示された。しかしこれは実現不可能な数字である。学生諸君は平成初期の生まれである。太平洋戦争はもとよりバブル経済も知らない。失われた20年の中での経験のみで、これからどう進んで良いのかを考えなければならない。自分の身は自分で守るという精神で、受講生の将来の展望を導きたい。

 

講師紹介

 

1943年生まれ。小学校から大学まで小樽市。1962年小樽桜陽高校卒業。1967年小樽商科大学卒業後、(現)損保ジャパン日本興亜(株)入社。本社融資部などでキャリアを積み、1984年、(現)三菱東京UFG銀行本店に出向。88年には(旧)大蔵省に出向し、法案作成などに携わる。89年にFPの世界大会に初参加(以降本年まで連続26年参加)。1993年にFPの世界資格CFPに認定され、2013年にはアワードを受ける。1998年(現)損保ジャパン日本興亜(株)を退社し、(株)FPプラザ・あい21を設立(本社/茨城県取手市)、代表取締役に就任。

 

投資顧問会社役員、一般社団法人の理事長やFP関連NPO法人の理事長も務める。CFP、CIFA共に日本における認定第1期生。中小企業診断士、行政書士、宅地建物取引士、テクニカルアナリスト(CFTe)、個人情報保護士などの資格を持ち、FP関連のさまざまな相談に対応している。大学・郵便局・企業や自治体等での講演やセミナー活動も多い。

 

団塊の世代と団塊ジュニア世代

 

私は、生粋の小樽育ち。商大卒業までずっと小樽に暮らしていました。卒業後損保会社に就職して、都市銀行や大蔵省に出向したこともありました。キャリアの中で中小企業診断士、行政書士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、テクニカルアナリストなどの資格を取得して、1998(平成10)年には現在の会社を起こしました。個人の資産形成や将来設計(特に老後)のお手伝いを幅広く行う会社です。
 
今日は「少子高齢化」というテーマでお話します。このテーマは一般的には暗澹たる未来の象徴のような扱いをされています。メディアはもっぱら不安をあおることを志向するものです。皆さんは、太平洋戦争も、バブルとも呼ばれた好況期(1980年代後半からの数年間)も知りません。そして近年はとくに、日本の将来に関して明るい話題が出ることがほんとうに少なくなってしまいました。経済が右肩上がりに着実に成長していくことは、とうに過去の話になりました。
しかし、実は私は、将来に関してそれほど悲観をしていません。皆さんにもそこを共有してほしいのです。
50年前を想像してみましょう。ちょうどみなさんの両親が生まれたころです。そのころの大学生はいま、私のような70代になっています。当時の若者も大人も、現在の日本を正確に予想できていたでしょうか。そんな人は全くいなかったと思います。たかが50年。
しかしいま、その延長線上に沿って50年後を考えることは危険だと思います。私は、50年後の日本はいまとは全然ちがう社会になっていると考えるからです。ですから、現在の不安要因の単純な延長として50年後を考えることはまちがっているとすら思っています。未来が不安で仕方がないというのは、そもそも若者がとるべき態度ではありません。しっかりとした世界展望や知恵をもち、少しくらい暴れん坊で、時の政府や権威者の言うことを鵜呑みにしない度量。
小樽商大生は伝統的に、そうした気風を持ってきたと思います。
 
「少子高齢化」とはどういうことか。まず、少子化と高齢化は全く別のものなのです。先進国で日本だけがこれが同時に起きた。そのことこそが問題なのです。少子化をめぐっては、「1.26」という数字が大変大きなショックを国民に与えました。一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す、合計特殊出生率の話です。これが2005年に史上最低の1.26になりました。子どもはカップルで作るものですから、同じ人口を維持するなら単純計算で2.0、病気や事故で失われて行く命もあるので、そのちょっと上の2.2くらいが現状維持のラインです。1.26という数字はその6割ですから、いかに衝撃的な数字だったかが分かるでしょう。
2013年には1.43とやや盛り返しましたが、それでも2.0の4分の3に満たない水準です。アベノミクスの新第3の矢では、これを1.8にまで延ばすための施策を打ち出すといいます。そんなことがはたして可能でしょうか?
厚生労働省の「人口動態統計」によると、戦後すぐの1947年〜49年の合計特殊出生率は、なんと4.32。いわゆる第一次ベビーブームで、ここで生まれた人たちは「団塊の世代」と呼ばれます。この人たちが成長して、子どもを作り親になったのは1970年代の前半くらい。ここが第二次ベビーブームで、このころの数字は2.14。彼らは「団塊ジュニア」と呼ばれます。団塊の世代はいま60代後半に差しかかっており、団塊ジュニアの世代は、40代半ばになっています。日本ではこの大きなふたつのかたまりの世代が、消費経済をはじめあらゆる分野で大きな影響力を及ぼしてきました。また、今後も無視できません。

 

時代が求める人物像

 

経済が停滞している日本にはいま、いささか閉塞感がただよっています。こういう時代には、物事を深く考えて議論を重ねていくタイプの人よりも、表面的にわかりやすいことを言って人々を強引にでも引っ張っていくタイプの政治家が人気を博すものです。
テロをはじめとした難問を数多く抱えるアメリカで、ドナルド・トランプのような人に注目が集まるのも同じ現象でしょう。織田信長、羽柴秀吉、徳川家康という日本の三大ヒーローがいます。270年にわたってつづく時代の礎をしっかりと築いた家康のような人物は、不安や閉塞感の強い時代には向いていません。江戸時代は、世界史で特筆されるほどに大きな戦もなく、今日までつづく日本の伝統が育まれた文化の時代です。
現在の日本は、何百年も生命力を失わない文化を新たに生み出しているか、はなはだ不安になります。国際紛争の議論に際して、十字軍というたとえを海外で使った日本の政治家がいました。その言葉が非キリスト教圏の人々にどんな意味に受け取られるか。そうした見識を失ってはいけません。
 
小樽商大は創立以来語学に力を入れてきた大学でもあり、商大OBや商大生は、つねに広く深い洞察力で国内外の事象をとらえてきたと同時に、今後もその考え方を維持すべきだと私は思います。私は皆さんに、メディアの報道も政府の動向も、あるいは世の中にあふれているさまざまなデータの類、さらには教科書に書かれていることさえも、それらを鵜呑みにするのではなく、自分の目と頭でしっかりと受けとめてほしいと思います。政治家たちのわかりやすく強いメッセージの背景に何があるのか。単に反抗したり彼らを批判するという意味ではなく、物事の背景や文脈をつねに意識できるような若者になってほしいのです。そして、これはおかしいと思ったら、声をあげてほしい。それができれば、「少子高齢化で日本の未来はとても暗い」といった単純な図式からでは決して見えないものが見えてくるはずです。

 

 

元気な子どもを育む社会とは

 

人口減対策として、何が必要でしょう。少子化に歯止めをかけるために、政策や報道からは、「子育て世帯への経済的支援」、「子育てができる生活環境づくり」、「保育所の増加」、「出産後の女性の再就職のための環境整備」といった項目が挙げられています。しかし私は、これらの中には違和感を覚える点が少なくありません。それで本当に子どもを産み育てやすい社会ができるのでしょうか。たとえ女性が働きやすい環境ができたとしても、やはり子育てとの両立は並大抵のことではありません。男も女も表面的に同じように働く社会が、はたして安心して子づくりや子育てができる社会でしょうか。男女平等とは、それぞれの持ち味が無理なく発揮できる社会であり、例えば女性でもダンプカーの運転手で稼げる、といった単純な話ではないと思うのです。
出産から子育てという、女性には、男が逆立ちしてもできないすばらしい能力があります。これは、出産とか子育ては女の仕事、と男が責任を放棄することではありません。男ももちろん子育ての一環を担いますが、男にはとうていできない、偉大で崇高なことがたくさんある。それはまた、女性が男に抱く思いでもあるはずです。どんどん少なくなっているとはいえ、世の中にはやはり男でしか、あるいは女でしかできないことがたくさんあるのです。だから神さまは男と女を作ったのでしょう。
 
私は、女性の社会進出に反対しているのでは決してありません。互いに敬意をもって、男と女のちがいを意識し、互いに尊重するべきではないか。そう思うことがしばしばあります。出産や育児への政府の手助けがとてもあつい国に、例えばスウェーデンがあります。この国では、婚外子(結婚をしていないカップルから産まれた子ども)にも同等の支援がほどこされます。
伝統的なしきたりから多少逸脱しても、子どもを産みたいカップルは、ふたりの意志と責任のもとで子どもを産むべきで、国としてその子どもたちをも手厚く守ろう、という考え方です。ですから日本よりも出生率が高いのです(2013年で1.91)。かつてスウェーデンのこうした面が曲解されて「フリーセックスの国」などと揶揄する声もありました。しかしいまこの国は、少子化を食い止めた世界で最も成功している国のひとつとされています。日本では特に、男女とも晩婚化と非婚化が進んでいます。あるデータでは、未婚の青年男女で男は20%、女性は5%くらいの人が、一生結婚しなくても良いと考えているといいます。人口減社会の背景がここにもあります。結婚をしない人の割合は今後さらに伸びていくと思われます。
原因には、結婚が人生の目的だという意識自体が薄いこと。女性がひとりでも生きていける時代だから。経済的に無理だから、など、いろんなことが言われています。いわゆる草食男子や肉食女子が増えていることもあげられるでしょう。いま40代、50代で結婚していない人は決して珍しいことではありません。昭和18年生まれの私は、28歳で結婚しました。30歳になる前に子どもを産もう、と考えていたからです。
昔は多くの女性は20代で母親になっていました。しかしいまは結婚するのが30歳以上の人がたくさんいます。夫婦別姓でいたい人、あるいは同性同士で結婚したい人もいる。同性婚で養子を育てるカップルもいるでしょう。そうした多様性を尊重することが、子どもを産み育てやすい社会への道でもあると思えるのです。

 

 

なぜ少子化が進むのか

 

平安時代の終わりころ(1150年)の日本の人口は680万人くらいだったといわれます。徳川幕府ができたころ(1603年)は1200万人くらい。江戸時代にゆっくり増えて、明治のはじめには3400万人。そこから急激に伸びて、1967年には1億人を突破しました。そして2004年をピーク(1億2千768万人)として減少に転じ、現在は1億2千7百万人を少し切るくらい。
このままのペースで少子化が進むと、日本の人口は2060年には8千6百万人になる計算となります。その人口の三分の一が65歳以上の高齢者と予測されています。このままでいくと、22世紀のはじめには、6400万人〜4600万人のあいだくらいになるとも予測されているのです。まさに未曾有の人口減少です。
日本の人口データは、年齢によって3つのグループに分けられています。一つ目は、「0歳〜14歳」(幼少期)。2つ目が「15歳〜64歳」で、この年齢層は生産活動に従事できる年齢として、生産年齢人口と呼ばれます。3つ目が、「65歳以上」の高齢者。私は、いまの時代に年齢の区別がこの3分割で良いのだろうか、と疑問を持っています。昔は中学生の年齢で社会人として働く人もたくさんいました。選挙も18歳からになりましたが、ではタバコや飲酒の年齢制限はどうすべきか。政治家にお任せではなく、ひとりひとりがじっくりと考えるべきことがたくさんあります。
少子化とは、「生まれてくる子どもの数が少なくなっていること」—。それだけの理解では不十分です。生きものとしての人間が子どもの数を減らしている(減らさざるをえなくなっている)。これはつまりこの国が、「自然の営みに逆らった動きをしているのではないか」。私にはそう思えるのです。

 

健康年齢で考えたい高齢化の意味

 

100歳以上の人は、60〜70年前には百人を超えませんでした。
しかし今年は、なんと6万人を超えています。これはどんなことを意味するのでしょう。百歳まで生きる人がさらに増えていくとすると、例えば君たちのご両親がこれから50年間生きるということになります。君たちは70代になっても、まだ親の介護をしていることが予想されます。いわゆる老老介護です。そしてご多分にもれずに晩婚だとすると、自分の子どもにもまだ手がかかっているかもしれません。
つまり自分の老後と、親の介護、さらには子育て。この3つが肩に重くのしかかっているかもしれません。ジレンマならぬ、トリレンマ。三つの矛盾を抱えた世代となります。これはたいへんなことですね。長生きすることはもちろん貴いことですが、それは心身ともにある程度健康であれば、という条件つきの話です。
ドクターの仕事は、単に患者を長生きさせることではありません。容易なことではありませんが、人間としては、あくまで健康のままで生をまっとうすることこそが大切だと思うのです。私は個人的には、いくつか持病もありますし、いたずらに長生きすることを願ってはいません。それで良し、と思っています。自分の死に備えて、人生の記録や、家族などに伝えたいことを記した、いわゆるエンディングノートも作っています。

 

すべてはまず自分を軸に

 

生産人口は消費人口でもあります。日本の戦後経済を動かしてきた原動力が、団塊の世代(1947〜49年生まれ)と彼らに続く世代、そして、団塊ジュニア(1971〜74年生まれ)とそこに続く世代です。働き盛りの人々が高齢者を支える構造に無理が生じるのが高齢社会の問題ですが、君たちが働き盛りになる前に、団塊の世代は退場していきます。膨大な数の高齢者をあなたたちが支えて養わなければならない、という暗いイメージは、いまの政治やメディアが意図的に創出している実体のないイメージにすぎないのです。数字は嘘をつかない、などと表面的に思っていてはいけません。さまざまな数字を駆使する統計には、調査をして発表する側の狙いがある。それが世論を誘導していきます。私たちは、そこを自分の目と頭でしっかりチェックしなければなりません。
 
私は商大水泳部の出身で、水泳部には先輩は後輩のめんどうをとことん見る、という伝統があります。世話を受けた後輩は、自分が先輩になったときにまた後輩をしっかり育てる。つまり恩を受けた人に恩を返すのではなく、自分が受けた恩は、自分の後輩に返すのです。これは社会全体にも応用したい考えです。
上の世代から自分が助けられたこと、応援されたことの感謝を次の世代に返していけば、世の中はもっと「生き生き」としてくるのではないでしょうか。世界の未来を、過去から現在への単なる延長だけで考えてはいけません。就職にしても、いま注目を集めている伸び盛りの産業は、昔からそうだったわけではありません。
かつてはニッチにあったものが、いまはメジャーになっているケースが多々あります。すべては移ろっていくのです。「アリとキリギリス」の話だって、アリの勤勉さを持ち上げる解釈のほかに、やりたいことを目いっぱいやりつくして死んでいくキリギリスを讃える解釈だってあります。若い皆さんには、さまざまな大人たちからいろんなプレッシャーが日常的にかかっていることでしょう。しかしまわりの人に合わせることばかりを考えないでください。「自分」自身をしっかりもって学びつづけ、付和雷同しない。その上でなら、ときにケセラセラも良いのです。決して無責任とはいえません。商大生にはそうした気風が脈々と受け継がれているのだと信じています。

 

<質問>担当教員より

 

Q 日本の将来への不安のひとつに、年金問題があります。メディアの論調を鵜呑みにするなというお話がありましたが、未納が増えて日本の年金は早晩破綻するのだ、といった一般的な論調に対してはどうお考えですか?

 

A これもメディアが社会をミスリードしている例だと思います。年金は破綻しません。年金の被保険者には、個人事業主などの1号と、被用者(会社員・公務員など)の2号、そして2号の被扶養配偶者である3号の3つがあります。そもそも未納が問題になっているのは1号の人々ですが、彼らは全体の1割程度。大きな問題にはなりえないのです。私は、1号被保険者の未納問題よりも、時の政府が株価を引き上げるために、年金の積立金を無節操に、株式等のリスク資産にそそぐことの方が、もっと大きな問題だと考えています。

 

<質問>学生より

 

Q 少子化の歯止めはどうすれば良いとお考えですか?

]

A 子育て世帯への経済的支援や保育所増設といったいまの政策だけでは歯止めにならないでしょう。少し乱暴にいえば、スウェーデンの例でもあげたように、婚姻外での子どもも社会に包摂していくような仕組みを考える時期にきているのかもしれません。民法改正で、相続に関しては、嫡出子・非嫡出子の区別なく法定相続分は平等になりました。この議論は20年以上前から続けられ、ようやく改正にいたりました。時代の潮流は、目先の政策では変えられない深さをもった、そうした方向にあるのではないかと思います。

 

 

Q 私は結婚して子育てをしながら働きたいと思っています。働き続けたい女性に対してのお考えは?

 

A 家庭か仕事か、という二者択一ではない考えもあると思います。残念ながらいまの政府は、大企業側からの強い要請もあり正社員を増やさない方針を貫いています。その分、在宅勤務や働きやすい形態の雇用も増えています。中長期的に見れば、誰にでもできるルーティンワークは、ロボットやAI(人工知能)に替わられていくでしょう。あなたにしかできない能力をどう身につけていくか。そこが重要になると考えてほしいと思います

 

Q 少子化を避けるために、移民を積極的に受け入れると良いと思いますが、先生のお考えは?

 

A 確かに米国ではヒスパニック(移民者)の割合が50パーセントを超えています。それが成長の原動力となったことも事実です。残念なことですが日本では3K(「きつい」「 汚い」「危険」)の職種に限定して推進しようとしています。こんな認識での移民の推進は国際的にも受け入れられないでしょう。大局観を持った正しい移民は賛成です。ちなみに、移民と難民は違うことも認識してください。

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