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エバーグリーンからのお知らせ

2020.11.04

令和2年度第4回講義:地域と観光〜OBSで得たもの〜

講義概要(11月4日)

 

○講師:横山 英邦氏(平成29年大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了/株式会社オルゴール堂ホールディングス取締役)

 

○題目:地域と観光〜OBSで得たもの〜

 

○内容:

工業大学で土木工学を学んだ私が自分のキャリアの土台を作ったのは、アパレル業界の営業職だった。その後建設会社の経営企画に関わりながらOBS(小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻)で学ぶことができ、観光・小売業の中に新たな進路が拓けた。自分のキャリア形成の中で得たことや、コロナ禍の逆風を受ける観光の現場について話したい。

 

 

 

人生のドライバーズシートに座ること

 

 

横山 英邦氏(平成29年大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了/株式会社オルゴール堂ホールディングス取締役)

 

 

 

 

 

 

スキーがたくさんのことを教えてくれた

 

 

 

今回この教壇に立たせていただくことで、私は自分の半生を棚卸ししてみました。そこから改めて気づいたり考えたりしたことがたくさんありました。今日は私のビジネスキャリアとOBS(小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻)での経験、そして現在務める(株)オルゴール堂のことから、コロナ禍での観光業の状況といった話をします。

 

私の両親はともに音楽大学出身で、学校の教諭を経て、家でピアノ教室を自営していました。ですからよく、みんなに小さなころからピアノを教えられたんでしょう? と聞かれるのですが、両親は私にピアノを強制することはありませんでした。何でも自由にやってみれば良い、でも中途半端に投げ出さないこと、そして自由には責任が伴うんだぞ、ということを厳しく言われました。

そんなわけで、子どものころから私が熱中したのは、野球と水泳とスキー、なかでもスキーにいちばん熱中していました。高校では部活でモーグル競技をやっていました。モーグルが断然カッコイイと思ったからです。

 

学業でいえば、大学は、商大とは畑のちがう北海道工業大学(現・北海道科学大学)で土木工学を専攻しました。音楽ともずいぶん遠い世界です。大学では、モーグルから一転して、基礎スキー。

シーズン中はインストラクターのアルバイトに精を出しました。アルバイト代のほかに、好きなときに滑られるシーズン券が手に入るのが魅力でした。スキーを教えたり、仲間や先輩と切磋琢磨したり、私はスキーから本当にたくさんのことを学びました。ふたりでリフトに乗ってもまったくしゃべらず、口なんかきかないぞ、と思っている無口な子どもでも、とても年上のお姉様でも、スキーの技術を伝えるには、とにかく意志を通わせなければならない。生徒のやる気を引き出したり、長所を伸ばしたり、この時代にコミュニケーション力が鍛えられたと思います。

特に子どもたちは、上達するとほんとうに心から喜びます。そのようすをそばでみるのが楽しくて仕方ありませんでした。

 

もうひとつ、大学3年生の夏休みにアメリカでホームステイを体験して、これもその後の自分に大きな影響を与えました。知らない世界の中に自分を置いてみたかったのです。中西部のインディアナポリスとシカゴを体験しました。怖いもの知らずで、まわりから危ないからやめろ、と言われてもシカゴで夜の地下鉄にひとりで乗ったりしました。そのときホームで、体の大きなアメリカ人がすごい形相で迫ってきて、猛烈な勢いで話し始めます。思わず立ち尽くして、この人はいったい何を言っているのかと必死に耳を澄ますと、「あぁ金を出せって言ってるんだ」、とわかりました(笑)。金なんか持ってないと、必死に訴えました。英語力はそんなものだったのです。そんなこともありましたが、単なる知識や評判ではなく、自分の心と体でアメリカの日常を体験したことに価値がありました。

ホームステイ先の家族にこんな一節をおしえてもらいました。いまでも好きな言葉です。

Today is the first day, of the rest of your life.

 

また、言葉の力を感じたもうひとつの出来事がありました。

大学の部活の仲間だったある女友だちから来た年賀状に、ただこのフレーズだけが書かれていました。

「あんたには、英雄の風貌がある。」

「事をなすのは、その人間の弁舌や才智ではない。人間の魅力なのだ。私にはそれがとぼしい、しかしあなたにはそれがある、と私はみた。人どころか、山でさえ、あなたの一言で動きそうな思いがする」

 

司馬遼太郎の『竜馬がゆく』という、坂本龍馬を描いた小説に出てくる言葉なのですが、彼女がどういう意図でこんな年賀状をくれたのかよく分からなかったものの、なんだか心に響きました。それからこの小説をはじめ司馬作品を少しずつ読むようになり、ほかの分野の本も読むようになりました。言葉には人を動かす力があるんだ、とわかった出来事でした。

 

 

 

アパレルから建設業へ

 

 

 

さて大学での就活です。

スキーの仲間にスキークロスの日本代表選手がいて、私も彼女をサポートしていた縁で、アスリートをサポートする会社から誘われました。でも実は、消防士になりたいと思っていました。そのために勉強して、浪人までして2回挑戦したのですが、結局なれませんでした。一次試験を通っても、面接を突破できなかったのです。

そこで札幌で、ブラインドやインテリアのメーカーの営業職になりました。そこに半年ほどいて、それから、アパレル製品の企画・製造・販売の会社の札幌営業所に転職しました。今度も営業職です。営業に求められるのは、商品の魅力の前に、まずクライアントに自分を信頼してもらうこと。つまりコミュニケーション力です。コミュ力には自信がある私でした。

 

そこで就いたのは、百貨店や代理店のバイヤーさんにアンダーウェアを売る仕事です。慣れるまでは少し時間がかかりました。百貨店の売場担当者は、若い私にとってはみな「お姉さまかおばさま」です。世間話でなごませようとしても、なかなかとっかかりが見つからない。でも、商品の前に自分を認めてもらわなければ商談は始まりません。話題を広げるためにいろいろ研究していくと、少しずつ成果ができてきました。コミュ力の基礎はありましたからね(笑)。

道内の代理店営業の際、毎月のようにJRで片道3時間以上の出張を複数回こなしながら、車中でビジネス本や自己啓発本をずいぶん読みました。また尊敬できる上司にもめぐまれて、売上は伸び、営業所の取扱高も着実に増やすことができました。社会の仕組みやビジネスのセオリーを、私はこの上司から厳しく叩き込まれました。

そして30代半ばにさしかかるころ、私は、ちがうフィールドで自分の力をさらに伸ばしてみたいと思うようになりました。社内での評価はありましたが、しょせんは井の中の蛙です。同業他社から「うちに来ないか」と誘ってもらいましたが、思い切ってちがう分野に身を置いてみたいという気持ちが強くありました。

 

そんなときに幼なじみの友人が私を誘ってくれました。

網走に本社を置く、歴史ある建設会社です。友人は、将来自分が経営を担うことになるので、右腕になってほしい、社長室という部署で経営企画の分野で力を発揮してくれないか、と言います。それまでは一営業マンとして成果を出してきた自分なので、経営に携わることは魅力でした。アパレルとはまったくちがう世界ですが、もともと大学で学んだ分野です。札幌支社に勤務することになりました。

 

とはいえ、実際の建築土木の世界は、学部で学んだ基礎的なことだけではとても掴みきれない世界でした。自治体への入札、人事や総務、管理、経営者直轄のプロジェクトの運営、あるいは関連会社との調整など未経験なことがたくさんあり、目の前の仕事をなんとかこなしながら、自分にはビジネスの基盤となる総合力が決定的に足りないな、と思うようになりました。

ちょうどそんなころ、社会人大学院であるOBS(小樽商科大学大学院商学研究科)を知ったのです。OBSの説明には、「経営管理に関する最新の知識に基づいた学びを実践して、リーダーやイノベーターの育成を目的とし、新規事業開発や企業・組織の改革など、広く革新を実行しうる意識と能力を身につける場」、とありました、ここで学べば、どの分野でも通用する、しっかりとしたビジネスの基礎ができると思いました。それまでは経験や本から断片的に得ていた知識や情報ですが、それを具体的に使いこなすノウハウも見えてくるでしょう。商大がうたう、まさに「実学」ですね。

 

 

 

大きく成長させてくれたOBSとの出会い

 

 

 

OBSでは、企業幹部や経営者、弁護士、医師など、実にさまざまな人が学びます。みな優秀な人ばかりで、ついていくのに必死でした。ひとつのテーマをめぐって、平日は夜、土曜日は終日、深いディスカッションと真剣なプレゼンテーションが繰り広げられます。通常の仕事をしながらこちらにもエネルギーを注ぐのですから、とてもハードな日々でした。

私の最初のプレゼンはお粗末なものでした。先生からは、「実力以上のものは出せない」、「君は向いてないよ」、なんてひどいことも言われました。しかし「プレゼンの恥はかき捨て」という精神で、とにかく前進あるのみ。失敗の経験を糧に必死に勉強と練習をして、その2週間後に再度プレゼンの機会をもらって、なんとかリベンジできました。そして自信と、学友からの信頼をつかみました。

級長を決めるとき、まわりになんとなく推されて 「よしやるかっ」、と手を上げました。年齢も分野もちがう人たちをまとめるプレッシャーや苦労はいろいろありましたが、これも自信と信頼につながりました。知識や理屈ではなく、世の中にはやってみないとわからないことがあるのです。シカゴでカツアゲされたときのようにね(笑)。

OBS在学中にはアメリカ・イリノイ州、シカゴからほど近いエヴァンストンにあるノースウェスタン大学での集中講義にも参加しました。

 

いままではどちらかと言うと「根拠のない自信」は持っている私でした(笑)。しかしOBSで学んだことで、根拠のある自信をもつことができました。それは、論理的な思考と、ビジネスの世界の共通言語を学んだからだと思います。大学を卒業して10年以上も経っていましたが、ビジネスの経験があったからこそ学べたことがたくさんあるのです。

 

OBSで出会って影響を受けた人は少なくありません。例えば人からのお願い事をいつもふたつ返事で受けてしまう人がいました。どうしてそんなことができるのですか? と聞くと、「だってお願いごとは試されごとだからさ」、と言います。なるほど、考え方次第だな、と納得しました。

 

 

 

コロナ禍の小樽観光の真ん中で

 

 

 

そうしてOBSで実学を学んでいた私ですが、本業だった建設会社からは転職することにしました。当初予定していた事業承継がその通りには進まず、私としてもやや足踏み状態だったので、その企業に誘ってくれた友人とはお互いに納得して離れました。

ほどなくして、OBSの縁で次の進路を決めることができました。自身がOBSの一期生で今も関わっている(株)小樽オルゴール堂の柳田春義社長に声をかけていただいたのです。

 

小樽に本社を置く(株)オルゴール堂は、国内外のオルゴールや雑貨、アクセサリーを販売する会社で、創業は1967(昭和42)年。いま「オルゴール堂」を冠した店舗が、小樽に6店、道内合計で8店。加えて東京、京都、沖縄など全13店舗。そのほか受託運営の店舗があり、WebShopにも力を入れています。

 

当社の基盤は観光マーケットにありますが、皆さんご存知のように、観光はいまの小樽の基幹産業です。いくつかグラフを見ていただきますが、まず北海道全体の観光入込客数。

2011年度は4,612万人で、これが2017年度には5,610万人。22%の伸びです。

うち海外からの方が、201157万人に対して2018年は312万人。なんと5.5倍。このうち203万人が中国・台湾・韓国のアジア三カ国です。近年はタイからの方も着実に増えていました。

小樽に絞ると、観光入込客数は2011年に603万人が、2017年には806万人で、34%増。この間当社の売上も2.2倍になりました。

一方で、小樽の人口減少問題は深刻です。

2010年に133,000人が、2019年には114300人。毎年2000人ずつ減っている状態です。

 

さて、観光客の入り込みも当社の売上も、2019年度にはガクンと下がっています。

皆さんもいまその渦中にいる、コロナ禍。2019年度は3月で締めているので、2月3月には訪日外国人がほとんどゼロになっているからです。コロナ禍の中を進む4月からも、皆さんご存知の通り小樽ではツーリストが激減していますから、いまだ先行きは見えません。

 

当社の主力商品であるオルゴールのことにふれます。

職人たちの高度な技術が作り出すオルゴールは、美しい音楽を奏でる工芸品です。現在国内市場は、年間約260万台、金額にして76億円程度と言われています。皆さんには想像しにくいかもしれませんが、オルゴールでも人気のアンチモニー製品などは昭和30年代からしばらく、日本の輸出産業の花形だった時代がありました。東京近郊に30社以上のメーカーがあり、アメリカやヨーロッパに輸出されていました。そうした会社もいまは数社になり、技術者の高齢化と減少も進んでいます。

弊社は高級オルゴールの魅力と価値を事業の軸に据えて、人生のさまざまな局面でオルゴールを楽しんでいただきたいと、ビジネスを展開しています。小樽という歴史ある港町のどこかノスタルジックなイメージとオルゴールは、とても相性が良いのです。2019年1月には(株)オルゴール堂ホールディングスを設立して、オルゴールやアクセサリーの製造、卸、販売のグループ体制を再編して、バリューチェーンの最適化を図りました。

 

2005年から昨年まで、アジア圏(台湾・香港・中国・韓国・タイ・マレーシア・シンガポール・インドネシア・フィリピン・ベトナムなど)の国際旅行博覧会に単独ブースを設けて、小樽と当社のPR活動を行い、各国の旅行会社さんへの地道な営業活動を行ってきました。日本旅行の目的地のひとつに、小樽とオルゴール堂を位置づけてもらうためです。国内外からのお客さまには、オルゴール制作体験などのメニューも用意しています。「商品価値」から「体験価値へ」というベクトルです。また寿司オルゴールや招き猫オルゴールなど、オリジナルオルゴールも好評です。

道外や海外に加えて地域との関わりも重視して、「創作オルゴール展」という、小樽や余市、石狩の小学生を対象に、オルゴール作りに自由に挑戦してもらうイベントを行い、今年(2020年)で20回を数えました。

 

このコロナ禍において、事業の基盤が観光需要に支えられている当社では、新たなSNSを立ち上げたり、お客さまと繰り返し接点がもてるような仕組み作り、あるいは小樽市や商店街といった、地域の皆さんとの共働をさらに図ろうと取り組んでいます。地域に根ざして、持続的な成長が可能な組織に自らを作り替えていかなければなりません。

 

最後に私が皆さんに強調したいことをまとめます。

まず、どんなこともその中にどっぷりつかってみましょう。外野でしたり顔で評論しているだけでは、何も得られません。物事にどっぷりつかってみるには、どうすれば良いか—。それは、受け身のお客さんではなく、物事を動かすドライバーズシートに自分で座ることが重要だと思います。

キャリアの話ではよく、ターニングポイントということが言われます。でも私は、「いまここが自分のターニングポイントだ!」と思ったことは一度もありません。なぜならターニングポイントとは、物事に主体的にどっぷり使った人が、あとで振り返ってみてはじめて見えてくるものだからです。

最初のほうに、「Today is the first day, of the rest of your life」というフレーズを上げました。もうひとつ私が好きな英語のフレーズがあります。

It’s a piece of cake!」。お安い御用、楽勝さ、という意味ですね。勉強でもスポーツでもアルバイトでも仕事でも、とにかく楽しんで取り組んで見ましょう。世界は「楽しんだ者勝ち」です!

 

 

 

<横山 英邦さんへの質問>担当教員より

 

 

Q コロナ禍の影響にも触れられました。北海道の基幹産業のひとつである観光業にはとりわけたいへんな急ブレーキがかかっているわけですが、いま取り組まれていること、そして今後の見通しはいかがでしょうか?

 

 

 

A 店舗を閉めざるを得ない時期もあり、内部的にはその時間を活用して新たなSNSを立ち上げたり、OBS出身者による勉強会を開き、社員の意思統一や仕事への動機づけを練り直す、といったことをしました。事業がうまく行っているときにはできないことをしようと考えたのです。

現在の状況は、一社だけで打開できるものではありません。商店街や小樽市、観光協会などとの連携が重要であることを、業界の関係者は再認識しています。そこで各種イベントやスタンプラリー、市民の方の取り込みなど、面としての取り組みも志向しています。また情報発信や商品構成、ディスプレイなど、インバウンドに片寄っていた体制を、国内観光客向きにシフトしている最中です。

厳しい状況にある観光業ですが、世の中から観光がなくなることはありません。観光業は、人を笑顔に、そして人々を幸福にできる価値ある仕事です。次の時代、次のブームにそなえて、いまはしっかり準備をする日々だと歯を食いしばっています。

 

 

 

Q 横山さんご自身のこれからの目標やビジョンはどのようなものでしょうか?

 

 

A 今回この講義の準備をしながら、学生時代から今日までの自分をあらためて振り返ることができました。そんな棚卸しをさせてもらって思うのは、まさに自分自身の次の10年をどのように作るか、ということでした。

まず会社の価値を高めたい。その中で自分の価値もさらに高めていきたいと思います。自分が成長できることに、楽しみながら挑戦していきたいです。

 

 

 

<横山 英邦さんへの質問>学生より

 

 

Q 経験から学ぶことが大きいとおっしゃっていました。例えば失敗からはどんなことが学べるのでしょうか?

 

 

A ある友人が言っていました。「成功の反対は失敗じゃなくて、何もしないことなんだ」、と。いまの私は心からそう思います。受け止め方によっては、失敗は必ずしも悪いことではない。そのときチャレンジしてアクションを起こしたことが、その後の自分、いまの自分に全部つながっているのです。失敗を、次のステップを踏みだすためのきっかけにすることが大事だと思います。

 

 

 

Q オルゴールという商品の魅力や価値はどんなところにありますか?

 

 

A オルゴールの魅力は、「美しくロマンチックな音色を出す」という機能だけにあるのではありません。その機能だけなら、デジタル技術で簡単に再現できるでしょう。

重要なのは、モノとしてのオルゴールがまとう情緒や、ギフトや思い出として、人と人を結ぶ力です。私たちは、「オルゴールというモノが醸し出す人の気持ち」を、たくさんの人に提供したいと考えています。ですから、その世界観を表現する売り場や包装もとても大切だと思い、さまざまに工夫を凝らしています。

 

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