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2020.12.16

令和2年第8回講義:経済法と消費者の権利

講義概要(12月16日)

 

○講師:向田 直範氏(昭和45年商学部商学科卒/弁護士)

 

○題目:経済法と消費者の権利

 

○ 内容:

小樽商大の講義で経済法とその中核である独占禁止法を知り、生涯を通して学ぶ価値がある学問だと直感した。以後大学院に進んで学びを深め、幸い大学教員として長く教壇に立つことができた。一方で1970年代中頃からさまざまな消費者運動に関わってきたが、経済社会との交わりは、もとより経済法研究者にとっては自然な道筋だった。現在も弁護士として消費者保護の活動を続けている。

講義では経済法と消費者の権利について語り、合わせて私が参画して取り組んで来たホクネット(消費者支援ネット北海道)の活動を説明します。

 

 

 

健全な経済社会を、消費者側から考える

 

 

向田 直範氏(昭和45年商学部商学科卒/弁護士)

 

 

 

 

 

 

私と経済法との出会い

 

 

 

今日は主に3つのことを話します。

第1は経済法の中核である独占禁止法をめぐる話。第2に消費者の権利について。最後に、私自身の消費者運動との関わりです。

 

小樽に生まれ育った私が商大に入学したのは、1965(昭和40)年。卒業したのは70年です。学生運動などが忙しくて(笑)5年通いました。1971年に北海道大学の大学院に入学し、マスター、ドクターと進み、1976年単位取得してドクターを満期退学して、同年北海学園大学法学部の教員となりました。38年間務めて2015年退職し、退職とともに弁護士登録をして、現在に至っています。

いまは制度が変わりましたが、 弁護士法には、大学の教授・助教授として平成16年3月以前に法律学を5年以上教えた経験があれば、司法試験なしで弁護士資格を認める特例がありました。実際には資格があっても弁護士会に認められなければ弁護士登録できませんが、私は札幌弁護士会に認められたので、主に消費者問題を扱う弁護士として活動しています。

 

私には二人の恩師がいます。

一人は、丹宗(たんそう)昭信先生。北海道大学法学部で経済法を教えていらっしゃいました。そしてもう一人が、商大の学長も務められた、秋山義昭先生。

私が経済法と出会ったのは、北大から商大に非常勤で教えに来られていた丹宗先生の講義でした。経済法は小樽高商の時代からあった由緒ある学問でしたが、当時は学内に専任の先生はいらっしゃらなかったのです。

秋山先生には、北大の大学院を受験しようと決めたとき、ドイツ語と行政法の猛特訓をして頂きました。大学院に進めたのは、秋山先生のおかげです。

 

丹宗先生は講義で、経済法の中核に独占禁止法が位置すること。独占禁止法は、「公正かつ自由な競争」の確保を目的とすることから「競争法」ともよばれますが、競争を促進することによって、「一般消費者の利益を確保すること」と、「国民経済の民主的で健全な発達の促進すること」とが可能となる、と述べました。丹宗先生は、「市場経済を機能させるためには、弱肉強食な制限のない自由な競争ではなく一定のルールーの下で行われる有効な競争が必要だ」と説きました。私はなるほど!と深く感銘を受けました。この分野をもっともっと学んでみたいと強く思い、北大の大学院に進学することを決意しました。

 

独占禁止法の第一条にはその目的が書かれてありますが(資料1)、核心はいま言った3つにまとめられます。すなわち、

(1)公正かつ自由な競争の促進

(2)一般消費者の利益の確保

(3)国民経済の民主的で健全な発達の促進。

 

1984(昭和59)年に公正取引委員会が刑事告発した「石油価格カルテル刑事事件」の最高裁判決は、この三つの関係を説明した重要な判例です。

この事件は、中東情勢の悪化によって原油価格が急騰した中で、日本でも石油元売り業者等が石油製品を一斉値上げをしたのですが、これがいわゆる価格カルテルであり、刑事事件として初めて独禁法3条違反に問われたのです。最高裁は、独禁法の目的に触れ、(1)を直接目的、(2)と(3)を究極目的と捉えました。

 

独占禁止法には4本の柱があります。

第一は、「私的独占の禁止」(3条前段)です。これは大きな力をもつ大企業が競争相手を不当に排除や支配することを禁止するものです。

第二は、「不当な取引制限の禁止」(3条後段)です。いま言った「石油価格カルテル刑事事件」のような、カルテルや談合を禁じています。

第三は、「企業結合(合併等)の規制」(9条以下)。強大な企業の誕生や株式取得を制限するものです。

最後は、「不公正な取引方法の禁止」(19条)です。消費者保護につながる話です。これについて話を続けます。

 

 

 

消費者主権の意味とは

 

 

 

独占禁止法は市場経済を前提として競争政策を実現する法律です。その意味で競争法とも呼ばれています。独占禁止法における消費者保護には二つの側面があります。

一つは、市場において企業間に自由な競争が行われていて、消費者には、良質・廉価な財・サービスの有益な選択肢が適切に提供されていなければならないということです。消費者には「選択する権利」が保証されていなければなりません。

二つ目は、消費者には市場で提供される財・サービスについての正しい情報が与えられ、合理的な意思決定が可能でなければならないこと。消費者には、商品・サービスについて「知らされる権利」が保証されていなければなりません。

 

消費者の適切な選択によって経済運営の在り方が決定されていくことから、経済学でこれは「消費者主権」とも呼ばれています。独占禁止法は消費者主権を実現する法律だとも言えるでしょう。

 

消費者には、市場で提供される財・サービスについての正しい情報が与えられなければなりません。そのために景品表示法(正式には「不当景品類及び不当表示防止法」といいます)があります。

1962(昭和37)年に、独占禁止法の特別法として景品表示法が制定されました。これには、それに先だってきっかけとなる事件や状況がありました。

まず、チューインガムを買うと抽選で一千万円が当たるとか、化粧品メーカーが、千円札を当選者の背の高さまで積んでプレゼントするという、まるで野放図な過大な景品が話題を呼んだのです。こうしたことを放置していてよいのか、と問題になりました。

また、ニセ牛缶事件と言われる事件がありました(1960年)。牛缶を名乗りながら、実は中味は鯨肉や馬肉の缶詰が販売されていたのです。当時は、消費者の自由な選択を歪めるこれらの表示を正確に規制する法律がありませんでした。缶詰の中味の不正は、衛生上の問題をチェックするだけの食品衛生法では扱えません。公正取引委員会はこの問題を、「不公正な取引方法」の特殊指定で個別的に対応してきました。

 

その後、過大景品と不当表示を規制する一般法として景品表示法ができたのです。いまは新法になっていますが、旧法では法律の目的(1条)を、「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、独占禁止法の特例を定めることにより、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護することを目的とする」、とあります。

不当な表示の禁止を定めているのは5条です(資料2・3)。

1号は、「優良誤認表示」ですが、これは、商品・サービスの品質や規格、内容についての不当な表示です。実際のもの、または競争事業者のものより著しく優良であると誤認される表示です。

2号は、「有利誤認表示」です。商品・サービスの価格やその他の取引条件についての不当な表示です。実際のものまたは競争事業者のものよりも著しく有利であると誤認される表示です。

3号は、公取委(現在は内閣総理大臣)が指定した表示です。これには無果汁の清涼飲料水等についての表示とか、おとり広告に関する表示など、6つが指定されています。規約の内容はまず事業者間に任され、作られた規約を公取委(内閣総理大臣)が認定します。

 

かつて無果汁の清涼飲料水の表示をめぐる裁判がありました。日本果汁協会が申請した公正競争規約を公取委が認定したことに対して、主婦連が、規約がまぎらわしいと、不服申立をしました。最高裁まで争われましたが、訴えは認められませんでした。表示によって消費者が受ける利益は、事実上の利益であって法律上の利益ではない、という判断でした(最高裁1978年判決)。

しかし現在では、先の「無果汁の清涼飲料水等についての表示」で、5%未満の果汁添加の場合は、「果汁〇%」とか「果汁ゼロ」と表示されることが定められています。

 

 

 

驚かされた、消費者庁の創設

 

 

 

2002年、私もメンバーとして参加した公正取引委員会消費者取引問題研究会が、報告書をまとめました。消費者が適正な商品選択ができるような環境を整備することを訴えた報告書ですが、この中で私たちは、「競争政策と消費者政策は密接不可分に関連している」として、車の両輪論を主張しました(資料4)。消費者行政を公正取引委員会に統合しようということが頭の中にありましたが、そのために新たな省庁を創設することは考えていませんでした。

 

しかし2008年に事態は急変します。2007年6月に発覚したミートホープによる食肉の偽装事件やその後多発した食品の偽装事件が引き金となり、消費者の視点で政策全般を監視して、消費者行政を一元的に推進するための組織を立ち上げようと、「消費者行政推進基本計画~消費者・生活者の視点に立つ行政への転換~」が閣議決定されました。そして2009年の秋に消費者庁が設置されたのです。福田康夫内閣の時代です。

これによって、競争政策を担う組織と消費者政策を担う組織とが分かれてしまったのです。競争政策と消費者政策とはあくまで不可分であるから、諸外国のように同一の組織で行われるべきと考えていた私たちにとっては青天の霹靂(へきれき)でした。これに伴って、景品表示法は公正取引委員会から消費者庁に移管されました。

新景品表示法の目的(1条)は以下の通りです(資料2)。

「この法律は、……顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする」。

旧法にあった「公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ…」という文言が、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為」を制限または禁止することに、改正されました。競争法から消費者法へと、目的規定が変わったのです。ただし、現在のところ具体的な運用には大きな変化はありません。

 

新景品表示法の第30条。「適格消費者団体による差止請求制度」も重要です。内閣総理大臣が認定した消費者団体(適格消費者団体)が、情報や交渉力や費用などの面で弱者である消費者に代わって、事業者に対して訴訟などを起こすことができます。これは2006年の消費者契約法の改正によって導入されたもので、2008年の改正で特定商取引法と景品表示法に導入され、2013年の改正では食品表示法にも導入されました。

この制度では、事業者の不当な行為に対して適格消費者団体が、不特定多数の消費者の利益を守るために、その行為を差し止めることができます。ただ、これだけでは不十分だと私は考えます。事業者が不当に得た利益には手がつけられないからです。

 

集団的消費者被害者回復制度として、2013年に「消費者裁判手続特例法」が成立して、2018年から施行されています。対象消費者の債権を個別に確定するこの制度の下で提起された最初の事件として、入試の得点調整で女子や浪人生たちが不利益をこうむった、東京医科大学の不正入試問題事件があります。

特定適格消費者団体《消費者機構日本(COJ)》が、大学側に対して受験料などの返還請求をしました。東京地裁は、得点調整が法の下の平等を定めた憲法14条1項や大学設置基準の趣旨に反するものとして、受験料や願書の郵送料の返還義務を認めました。

 

また新景品表示法では、2016年から課徴金制度が導入されました(第8条以下)。これによって先に私が触れた問題、差止めだけではなく、不当表示をした事業者に、消費者側が経済的不利益を課すことができます。

対象は、優良誤認表示(第5条1号)と有利誤認表示(第5条2号)で、金額は、対象商品・役務の売上額の3%。ただし、課徴金対象行為に該当する事実を自主申告した事業者に対しては、課徴金額の2分の1が減額されます。事業者が所定の手続に沿って「返金措置」を実施した場合は、課徴金を命じないか、減額とします。事業者が、消費者の利益のために行動を起こしやすい制度設計になっているのです。

 

今年(2020年)に入っての景表法違反の事例を二つあげます。

一つはファミリーマートと山崎製パンによる不当表示です(2020年3月30日措置命令)。これは優良誤認表示の例で、広告中でバターともち米粉を使ったもっちりした食感をうたっていましたが、実際にはバターももち米粉も使われていませんでした。

もうひとつはサンドラックによる不当表示(2020年6月24日措置命令)。これは有利誤認表示の例で、新聞折り込みチラシではメーカー希望小売価格1190円の品を498円で、とありましたが、実際にはメーカー希望小売価格は設定されていませんでした。

 

 

 

消費者運動との関わり

 

 

 

私自身が直接関わってきた消費者運動についてお話しします。

はじめて関わったのは、北大の大学院生時代、1970年代半ばでした。学生たちが、英会話の語学テープを不当に買わされて社会問題になりました。事業者は、魅力的な旅行商品をエサに、新入生たちにこのテープを売りつけていたのです。以来さまざまな違反事例と関わってきました。近年になって2007年、私たちは《消費者支援ネット北海道(略称:ホクネット)》という北海道における唯一の適格消費者団体を立ち上げました。私は設立総会で議長を務めました。ホクネットは2008年にはNPO法人格を取得して、2010年には内閣総理大臣認定の適格消費者団体となりました。これで、事業者に対して差止請求をして裁判上の和解の手続きを進めることができます(合わせて、結果の概要を公表する義務を負います)。

現在は、損害賠償までを求めることができる特定適格消費者団体の認定を受ける準備を進めていますが、これは財務基盤のハードルもあり、容易ではありません。

 

差止請求の手続きの流れはおよそ次のようになります(資料5)。

まずホクネットは、①消費者からの情報提供などにより情報を収集・分析・調査して、②事業者に対して業務改善を申し入れます。③これが受け入れられると、事業者による業務改善が行われて、問題は解決します。

④申し入れたものの交渉が不成立だった場合は、事業者に対して提訴前の書面による事前請求を行い、⑤次に裁判所への訴えを提起します。そうして、⑥判決、または裁判上の和解が成立します。結果の概要については、適格消費者団体や消費者庁のウェブサイトなどで公表します。

 

ホクネットが最初に差止請求を起こしたのは2011年です。

中古車販売事業者に対して契約条項の使用差止を求めて、札幌地方裁判所に提起した事案です。

ある人(Aさんとします)が、その業者に自家用車を100万円で売却しました。2週間後に引き渡す契約です。しかしAさんは車を手放すことが惜しくなり、契約した翌日にキャンセルを申し出ます。事業者はこのとき、契約書にはキャンセル料の規程があり、それをもとに売買代金の20%を請求してきました。Aさんから見ると、業者はその車を販売する用意や手続きをまだ何もしていません。たった一日のことで自分が20%のキャンセル料を払うのは納得できませんでした。契約書のこの定めははたして有効なのか?

 

消費者契約法9条1号では、消費者契約のキャンセルに伴って発生する違約金について、「事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合は、当該超えた部分を無効とする」、とあります。本件では、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えているでしょうか?

Aさんは、契約締結の翌日には売買契約をキャンセルしているので、中古車店には損害が発生していない(あるいは損害額はごく少額)と思われます。売買代金の20%相当額の損害が事業者に発生しているとは考えにくいのです。

私たちは是正を求める申し入れ書を事業者に送り回答を求めましたが、期限内に回答がなかったため、契約条項の使用差止を求めて札幌地裁に起こしました。

これに対してこの事業者は被告答弁書を提出しました。内容は、原告の請求をすべて認めること、今後は消費者契約法等の法令を遵守し、消費者の利益を不当に害することない企業をめざすこと、ホクネットからの申し入れに対しては誠実に対応すること、となっていました。ホクネットの全面勝訴でした。

この件は新聞報道などでも扱われましたが、契約翌日のキャンセルだったことが幸いしました。車が転売されていたら、ホクネットはまだ損賠賠償を請求できる団体ではありませんから、Aさんの利益を守ることは難しかったでしょう。

 

最後に今日の話をまとめます。

私は長く消費者運動に関わることで、同じ大学(会社)にずっと勤め続けただけの人では得られなかった、社会との関わりを持つことができました。これは私にとっての財産です。皆さんもこの先、社会との関わりを広く深くもつことを意識してください。会社に勤めても、会社の外や住んでいる地域との関わりを避けてはいけません。

私はもともと、社会や他人に対して、「ちょっとしたお節介」を焼く質(たち)でした。例えば白い杖をついている人が信号を待っていたら、大丈夫かな、と見守るような。いきなり寄りそって声をかけることはしません。社会全体にそういう気持ちや振る舞いがあれば、世の中はより良い方向へと変わっていくのではないでしょうか。学生運動にはじまって、講義や消費者運動などを通じてつねに弱者・消費者側に立った行動をしてきた私には、一貫してそんな「ちょっとしたお節介の精神」があると思います。

コロナ禍で皆さんは、いろいろ不自由な思いをしていることでしょう。学友たちとの付き合いが薄くなっていることは辛いですね。しかしそうであれば、今しかできないような、集中して読書をしてみてはどうでしょう。目標を決めて、今月は新書を5冊は読もう、とか。別に窮屈に考えることはありません。目標の冊数に届かなくても良いのです。私は学生時代にずいぶん乱読をしましたが、それが私の人間としての幅を広げてくれたと思います。

 

 

 

<向田 直範さんへの質問>担当教員より

 

 

Q 福田康夫内閣時代に消費者庁が作られたことを解説していただきました。その背景などをもう少し教えていただけますか?

 

 

A 二つあります。講義でふれましたが、ひとつは2007年6月に発覚したミートホープによる食肉の偽装事件やその後多発した食品の偽装事件です。有名ホテルのレストランでも偽装牛肉が使用されていたということで、国民に大きなショックを与えました。これへの対処という側面があります。

もうひとつは福田康夫首相の決断と指導力です。新しい行政庁を作ることは並大抵のことではありません。大きな抵抗勢力を排して消費者庁を作ったのです。明治以来の縦割り行政に風穴を開けたという意味で評価したいと思います。

ただし、各省は権限を手放していません。法律を完全に移管したのは公正取引委員会だけでした。景品表示法です。しかし私から見ると、景品表示法の執行体制そのものもまだ不十分です。消費者庁には仕事の具体的な手足となる出先の組織がなく、予算もマンパワーも足りません。公正取引委員会には、北海道や東北、九州など各地に事務所がありますから、これらとの連携をもっと図るべきだと思います。

 

 

 

Q これから一年生は学年修了時に専攻学科を選ぶことになります。経済法を学ぶ意義や面白さについてひと言いただけますか?

 

 

A まず法律をしっかり学べば、人生に役立つ大きな武器を持つことになります。民法を勉強してその考え方や構造を理解していくと、人間社会の見方が変わります。もちろん、国家のあり方の基底をなす憲法もそうです。

もう少し具体的にいうと、インターネットの時代のグローバル経済では、経済法がとりわけ重要になってきています。アメリカの公正取引委員会にあたるFTC(連邦取引委員会)が反トラスト法でフェイスブック社を提訴したり、EU委員会がグーグル社やアップル社を独禁法の枠組で制裁を課そうとしている、といったニュースに触れることがあるでしょう。経済法は、条文はちがっても国境を越える共通の問題を扱っています。消費者にとっても、これらの大企業(頭文字をとって“GAFA”と言われていますね)に蓄積された個人情報がどのように保護されているのかに注意を払う必要があります。

経済強者による独占力の濫用・優先的地位の濫用をいかに規制するかということは、日本だけでなく全世界的にこれからますます重要となってきます。経済法は、経済・社会動向と深くダイナミックに関わる法律だということを認識していただきたいと思います。

 

 

 

Q 先生の長いキャリアに中で一貫しているのは、実社会との深い関わりをつねに志向されていたことではないでしょうか。いまでこそ大学では全国的に、教育と研究、そして社会連携が三本柱にうたわれていて、本学も力を入れているところではあります。しかし大学がいまよりも社会との関わりが薄かったと思われる時代に、先生をその方向に動かしていたものはどういうことだったのでしょうか?

 

 

A 確かに学者の本業は研究だ、という風潮はいまよりも強くあったと思います。ただ私の場合は専門が経済法で、これは否応なく実社会との深い関わりを前提とする学問でした。法律の解釈・運用は社会のことを知らずしてはできないと思っていますが、経済法の分野はとりわけそのことがいえるでしょう。

社会への関わりについては、商大在学中に基礎が形成されたと思います。規模の小さい大学でみな顔見知りでした。二浪・三浪という学生も少なくありませんでしたし、道外出身者が約4割でした。このような多様な学生から影響を受けました。学内の行事にも積極的に参加しました。緑丘祭では法学研究会というサークルで模擬裁判をやりました。自衛隊の違憲問題が問われた恵庭事件です。5年間通ううちに(笑)、社会への志向を深めていったと思います。

 

 

Q コロナ禍の出口はまだ見えていませんが、この事態によって社会はどのように変わっていくのか。先生の立ち位置からはどんなことが言えるでしょうか?

 

 

A 対面販売や、商品を直接触って選ぶという消費活動はいっそう減っていくでしょう。すると、メーカーの情報開示や広告マーケティングがさらに重要になってきます。ネット上での企業活動の公正や信頼がますます求められます。それに伴って不正も増えていくでしょうから、そこをしっかりとチェックしていかなければなりません。

 

 

 

<向田 直範さんへの質問>学生より

 

 

Q そもそも消費者保護の考え方は、どのような背景や理念で生まれてきたものなのでしょうか?

 

 

A 民法上の契約概念の根底にあるのは、売り手と買い手は対等であるとする人間観です。しかし実際のところ、企業(事業者)と消費者個人はどうみても対等ではない。そこで2001年に消費者契約法が施行されました。この法律の1条(目的)は以下のように定めています。「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み」て、それを踏まえて「消費者利益の擁護を図り、もつて国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」。

これによって消費者団体が事業者などに対して差止請求をすることもできるようになったのです。私が強調したいのは、企業(事業者)に対して消費者が弱者のままでいては、そもそも健全な社会が成り立たないということです。

 

 

 

Q 不当表示で近年問題となった例を教えてください。

 

 

A パンの成分表示などの話をしましたが、近年しばしば問題となっているのは、例えば自社のウェブサイトでの広告で、顧客満足度80%、などと表示されている例がよくあります。これらの多くは客観性がはなはだ疑問です。また、「打ち消し表示・強調表示」と呼ばれる問題もあります。これは例えば、5千円のものが千円になる、と安さを強調しながら、最後に小さく「但し初回のみ」などと書いてある例。こうしたものの多くは紙のパンフレットやチラシではなく、インターネット上にある媒体を使っているので、紙のように証拠として残りづらいという問題があります。

 

 

 

Q 先生の学生時代のことをもう少し教えてください?

 

 

A 私の実家は地獄坂の下の方にあり、高校も、のちに小樽商業高校となる緑稜高校でしたから、毎日地獄坂を登ってきました。家が近かったので、皆のたまり場にもなりました。在学中は、自分の興味を引く講義は一生懸命勉強したのですが、それ以外の勉強にはあまり気が乗りませんでした(笑)。そんなときは学生会館の娯楽室でよく囲碁をしたものです。クラブ活動は、1・2年は剣道部、文科系サークルは法学研究会に属していました。本は幅広く乱読しました。マルクス、エンゲルス、サルトルなど、当時は深く理解するまでには至らなかったと思いますが、挑戦したものです。あとは、結局商大に5年通うこととなった学生運動です。これは大学に対する異議申し立ての場でもあり、学友、そして先生たちと夜を徹して議論したものです。

先ほど、社会への関心の一つとして恵庭事件をテーマに模擬裁判をした、と言いましたが、これは法学研究会として取り組んだもので、膨大な裁判記録を読み込んで私が脚本を書いたのです。この裁判で実際に裁判長を務めた辻三雄さんが見に来てくださったということを、後日聞きました。今から考えると、手続法のこともよく分からずによくやったものだと、冷汗をかく思いです。

今といちばん違うのは、学生数の少なさ、特に女子学生の少なさかもしれません。学生数は一学年約100名ぐらいでしたし、女子学生は私の学年ではたしか8名くらいでした。また当時は道外生が4割くらいました。国立二期校でしたから、東大や一橋を何度も落ちて小樽に落ち着いた、といった年上の同級生もたくさんいました。彼らがずいぶん大人に見えたものです。年齢・出身地の異なる学生と付き合い、彼らから大きな影響を受けたことは事実です。

 

 

 

Q 今日の講義で、景品表示法では過大な景品類の提供を防ぐために、景品類の最高額を制限していることを知りました。でも宝くじのあの巨額な賞金は良いのでしょうか?

 

 

A 宝くじは景品ではなく、通称・宝くじ法(正式には「当せん金付証票法」といいます)と呼ばれる特別法の枠組みの中にあるので、当選金の上限額はその法律で決められています。これに対して景品表示法の景品は、「取引に付随して」提供される景品を規制しています。例えば、商店街の福引きは共同懸賞として景品表示法で定められていて、30万円が上限となります。現金つかみ取りでこれ以上をつかんでも、30万円を越えた分は受け取れず、寄付金などになります。商品にもれなく付いているオマケ、これは景品表示法上、総付景品といいます。千円未満の商品だと200円相当の景品が上限となります。

 

 

 

Q 今日のお話を聴いて法律の勉強に関心を持ちました。何かアドバイスがあればお願いします。

 

 

A 好きな分野、関心を持った分野を深く勉強することを進めます。そこから周辺へと手を伸ばしていってはいかがでしょうか。例えば、独占禁止法を深く勉強すると、行政手続を知ることが必要となってきます。そこで行政法の勉強をするとかです。4年間勉強し、公務員をめざす人もいるでしょう。それだけでなく、司法書士などの資格取得にチャレンジすることも考えてください。

さらに、大学院へいく途もあります。私の後に北大の大学院へ進み、現在、大学の先生となっている方が4名おります。民法、社会保障法、憲法および行政法の分野です。いずれも大活躍しています。

また、ロースクール(法科大学院)へ進み、法曹の途をめざすことも可能です。商大を出て北海学園大学のロースクールへ進んだ学生を4名知っています。3名が弁護士、1名が検察官として活躍しています。

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