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教員インタビュー 小林広治教授

  • <担当科目>
  • 日本的経営入門
  • 世界の中の日本企業
  • グローカルマネジメント入門
  • グローカルセミナーII
  • グローカルセミナーIII、IV
  • 研究論文 I、II
  • 国際市場戦略

小林 広治 教授
KOBAYASHI Koji


グローカルを学ぶ

 私はかなり学際的に研究にアプローチしてきていますが、一貫している主題はスポーツ、グローカル化、ナショナルアイデンティティです。

 グローカルという言葉が使用されるようになったのは、1970年代から80年代にかけて日本企業が世界市場に進出する際に、現地適応化戦略を選択し、それを開拓していったことによります。つまり元々は、「Think globally, act locally」に代表されるような企業の国際戦略を考える一つの概念として広まりました。

 その後、ローランド・ロバートソン先生が社会理論としての「グローカル化」を確立したのですが、私の今までの研究ではこのグローカル化の概念を使って、広告やメディア表象を対象として分析してきました。例えば、ナイキは日本の部活文化をマーケティング戦略に取り込み、様々な広告キャンペーンを展開しています。実際にナイキジャパンやワイデン+ケネディトウキョウの関係者に取材を行い、広告制作者の視点から、広告において表象される日本の文化やアイデンティティがどのように意味づけられているのかを考察しました。

 広告の表象を理解することは、ナショナルアイデンティティを含む様々なアイデンティティの持続性と変容の理解に繋がります。ちなみに、ナイキジャパンの方によれば、部活は日本独特のスポーツ文化「bukatsu」としてアメリカの本社でも広く認知されているそうです。

グローカルとの出会い

 元々スポーツが好きで、アメリカのメンフィス大学で大学院に進学し、スポーツマネジメントを学びました。そこで、アドバイザーに研究の道を勧められ、ニュージーランドのオタゴ大学で博士号を取得しました。

 グローカル化について研究するようになったのは、博士論文を執筆している際に主要な理論として使用したことがきっかけです。博士論文の主題はナイキとアシックスの国際広告戦略に関するものだったのですが、ロバートソン先生によるグローカル化の論考を読んだとき、元々は日本の土着化に着想を得たものが企業に応用され、それが世界的に展開される社会理論として発展してきたことに感銘を受けたのを覚えています。研究人生で長く付き合うことになる理論や概念の発見は、学者にとってはまさに「運命的な出会い」と言えます。

 博士論文執筆時の2011年には、スウェーデンで開催されたヨーロッパスポーツ社会学会大会にて、偶然にも基調講演者として招かれていたロバートソン先生と最初で最後の対話をすることができました。その後連絡を取り合う機会をいただき、博士論文の試験官も務めていただきました。また、2016年に先生が編集された著書にも招待いただき、章を執筆させていただきました。残念ながら、ロバートソン先生は2022年に他界されたのですが、1992年に出版されたグローバル化に関する世界的代表作から2020年に発表された往年の論文に至るまで、日本は最もグローカルを体現している国の一つであり、世界各国は日本から学び続ける必要があると主張していました。

グローカルはどこにでも存在する

 グローカル化を研究する、もしくは考える、ということは地域社会のつながりを考えることそのものなのだと思います。ロバートソン先生が1992年の著書にてグローバル化という言葉を概念化し、諸現象を理論的に説明できるようになり30年以上経ちます。インターネット、スマホ、SNSや生成AIが急速に「グローバル化=普遍化」されている一方で、アイデンティティの「ローカル化=個別化」による国や地域間の争いや戦争は未だ絶えることはありません。

 グローカルが多くの世界共通の問題に対する答えになるとは限りませんが、グローバルとローカルの共存・共栄を目指す考え方には、普遍的な原則があるのではないかと考えます。例えば、ロバートソン先生は宗教についても造詣が深かったのですが、日本ほど様々な宗教や宗教的価値観が混在している近代国家はないと指摘しています。必ずしも一般化はできませんが、多くの日本人が神道由来のお宮参りをし、キリスト教由来のクリスマスを祝い、仏教由来の葬儀や供養をしていますが、多くの人はこの混在性に何の疑問も抱かないのではないでしょうか。宗教観の違いが戦争の種になっていることが常識とされる海外の人々からすると不思議な慣習なのです。

 ちなみに、クリスマスにKFCのフライドチキンを食べるのも日本特有の慣習です。このような普段あまり意識されない不思議な共存が「グローカル性」であり、それを探求することで、様々な文化的つながりに気づくことができます。また、そうした不思議な共存を意識的に広げていくことが、多文化共生社会を築いていくための重要な手がかりになると考えられます。

グローカルに教える

 私が担当している授業は国際交流科目に分類されるもので、元々は海外協定校からの短期交換留学生に向けて英語での開講を目的に設置されたものです。小樽商科大学では、2015年にグローカルマネジメント副専攻を、2021年にグローカルコースを設置し、本学に在籍するローカルの学生も国際交流科目を履修することができるようになりました。

 私の担当科目は「日本的経営入門」、「世界の中の日本企業」、「グローカルマネジメント入門」などですが、いずれの科目でも海外からの交換留学生と本学のローカル学生が活発に議論できるように授業設計をしています。ローカル学生から「まるで留学しているかのような授業」という感想をもらうことも多々あり、長期留学前の準備としても活用してもらっています。

 本学では北米、ヨーロッパやアジアなどの多様な地域から留学生を受け入れており、日本と海外の企業文化や戦略、顧客趣向の違いを議論する際には、それぞれの地域での実体験を直接共有してもらっています。こうしたクラス内での活発な対話により、英語を学ぶだけではなく、英語を使って自身の意見を発信したり、議論したりする力を自然に身に着けていくことができます。

グローカル人材を育てる

 本学はグローカル人材の育成を目指しています。グローカル人材とはグローバルな視点から地域に貢献できる人材を指すこととしており、つまり「Think globally, act locally」を体現する人材ということになります。学生にはグローバルな視野を身につける意味でも、世界に飛び出て欲しいと思います。

 留学は長期に渡って海外に滞在することができ、語学力だけでなく、異文化適応力や批判的思考力を養うことができます。人間は老いていくほど身体も考え方も硬直化しやすくなります。若い時ほど、海外で挑戦し、失敗し、失敗から学ぶことで成長して欲しいと思います。

 日本の教育は概して失敗することを否とする傾向がありますが、ナイキ広告の多くを手掛ける広告代理店であるワイデン+ケネディは「Fail harder」というスローガンで知られています。大きな失敗を恐れず挑戦するからこそ、失敗したときに大きな学びがあります。誰でも失敗すれば落ち込みますが、その経験を成功の糧にできるかどうかは考え方次第です。グローカル人材とは海外でも地域でも新しいことにどんどん挑戦できる人なのではないかと思います。


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