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教員インタビュー 高橋優季教授

  • <担当科目>
  • 英文学史(Ⅰ、Ⅱ)、言語・文学特別講義(英文学Ⅰ)など

高橋優季 教授
TAKAHASHI Yuki


W.B.イェイツ、アイルランド、妖精、アーツ・アンド・クラフツ運動

 大学で文学を研究する私たちは、たいてい個々人の作家を「専門」とよんでいます。
 たとえば、タカハシさんの専門はなに?」というような聞き方をよくされ、それに対して私は「W.B.イェイツです!」と答える…
 こんなやり取りによって、私たちはお互いの専門分野を知っていきます。そして、その作家の文芸作品はもちろん、またその人生について、時代的な背景や社会事情などを広く深く掘り下げていきます。

 では、そのW.B.イェイツについて、この人物は20世紀(高校生の皆さんにとってはかなり昔のように聞こえるかもしれませんが)のアイルランドを代表する国民的作家として知られています。
 彼が生きた時代、この小さな島国は隣の大きな島国イギリスから長年受けてきた植民地支配からの独立を求めて激しく抵抗しました。そんななかイェイツは、アイルランドで語り継がれてきた神話、数々の妖精やお化けが登場する民話や伝説を世に広め、さらにそれらをベースに新しい詩や物語、演劇を次々と作り出し、武力よりも文芸によって、他のどの国にもまけない母国独自のアイデンティティを証明してみせました。その功績が称えられて、彼は1923年にノーベル文学賞を授与されています。
 このような動きは、じつは文学だけでなく絵画や彫刻、各種工芸美術においても「アーツ・アンド・クラフツ運動」として盛んになっており、イェイツはこの活動にも深く関わっていました。

 では、彼を取り巻く文芸とアーツ・アンド・クラフツの交流はいかなるものだったのか?…というのが、私の現在の主な研究です。

W.B.イェイツ、アイルランド、妖精、アーツ・アンド・クラフツ運動

 ひとりの作家を「専門」としていると、文学研究ってなんだか狭苦しい感じがしますが、実際はむしろその逆なんです。アイルランドの文学とアーツ・アンド・クラフツ運動のあいだにイェイツをおいて見ると、彼の周囲に多くの家族や友人、知人たちが関わりあっていたことがわかり、当時の文人やアーティストどうしの文化的な交流史が相関図のように浮かびあがります。
 たとえばイェイツには年下の3人の姉弟がいました。長女リリィは刺繍師で、次女ロリィは書籍印刷のプロフェッショナル兼イラストレーターでした。そして末っ子のジャックはペン画も油彩もこなす画家として、兄の著作にイラストを提供したり、自らも物語を書き、それを子供向けの愉快な人形劇に仕立てたりもしました。このようにイェイツ兄妹はそれぞれに、これもまた「専門」をもってアイルランドのアーツ・アンド・クラフツ運動を大いに盛り上げました。
 そうしたなかで、イェイツのような文芸家たちが美しく魅惑的な妖精物語を緻密な言葉によって書き上げて、工芸家や美術家たちが言葉では表現しきれない視覚的な鮮やかさを作り出し、文学とアートがお互いを補いあっていくのがわかってきます。複数の芸術表現が重なり合っていくダイナミズムを感じられるのは、とてもわくわくする研究だなと思っています。

アーツ・アンド・クラフツ運動、ステンドグラス

 アーツ・アンド・クラフツ運動における数多くの工芸ジャンルのなかで、私が特に好きなのが色鮮やかなステンドグラスです。20世紀前半、アイルランドではステンドグラスが飛躍的に発展しました。そのきっかけを与えたのが、じつは政治的には対立関係にあったイギリスの技術者でした。そうした背景もふまえつつ、これまで幾度もステンドグラスの美しさに魅せられてアイルランド・イギリスを旅してまわりました。

色んな文学を読み親しんで、楽しく生きよう!

 授業では、自分の研究分野に限定せず、学生が興味を持ってくれそうな作家や作品を取りあげるようにしています。ですので、もちろんイェイツの授業を行うときには「イェイツの恋愛詩」とか「イェイツの妖精ワールド」とったテーマに該当する詩作品をみんなで読んでみたりしたことがあります。となると、なぜか「恋バナ」談義に転じたり、絵心のある学生さんが素敵な妖精のイラストを描いてくれることもありました。
 ゼミ(2024年9月から1年間のサバティカルに伴い2025年現在は非開講)では『ハリー・ポッター』シリーズや『ライラの冒険』など新しいファンタジー小説を輪読していくこともありました。また、英文学史や特別講義などでは、『指輪物語』、『ナルニア国物語』といった現代ファンタジー小説の金字塔的な作品を、映画の視聴も交えながら取り上げたりもしました。今年度2025年後期は、『くまのプーさん』精読とその生みの親A.A.ミルンの絶対的平和主義について論じていく授業を実施しています。

 他校に勤務した経験と比べてみても、商大生はおとなしく控えめ、引っ込み思案な印象さえ受けます。授業中に自ら発言や質問をする学生は、私が担当する授業においてはまずいません。ですが授業のコメントやレポートを求めると、話をよく聞いていてくれたんだなと安心させられます。ユーモア溢れるコメントには大爆笑、深くよく考え抜いたコメントからは教員もまた学生から学ばされていることに気付かされたり。彼らの授業への反応は、こちらを飽きさせることがありません(笑)。

文学を勉強して本当に徳になる?

 商科大学という特質もあり、本学には企業やマーケティングを志す学生が多く来られます。いっぽうで、将来かなえたい夢を探す途中にある学生も同じくらいか、それ以上おられます。そのすべての学生に伝えたいこと。

 物質的な豊かさを求めるならば経済や商学をガッツリ勉強してください。そして精神的な豊かさを得るために文学をしっかり学んでください。

 両者は一見無関係に見えるかもしれませんが、じつはちゃんとつながっています。人やモノ、そしてお金が社会を流れ回りゆくなかで私たちの経済活動は豊かさと幸福を追求します。そのシステムを動かすのは、わたしたちそれぞれの思考や価値観、願望なわけですよね。自分たちがどんな社会を求め、どのように生きていきたいのか。そういった探索の積み重ねが、心の豊かさとなっていきます。たくさんの物語や文芸作品を読んで自分の知らない時代や国、人々について知り、時には異世界の冒険に心を遊ばせてみる経験が、このようにすぐには答えの得られない、いや一生続くような探索の道しるべとなっていきます。


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