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教員インタビュー 泉貴嗣准教授

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泉 貴嗣准教授
IZUMI Yoshitsugu


ビジネスからサステナブルな社会とその担い手を考える

私はビジネス界に身を置いていた、いわゆる「実務家教員」で、専門はサステナビリティ(持続可能性)経営とビジネス倫理です。企業がESG(社会、環境、ガバナンス)に配慮し、サステナブルな経営ができるよう、サポートを行うためのツールに関する研究をしています。

いま、私たちの社会は経済的利益の追求に偏重し過ぎたあまり、そのサステナビリティが脅かされ、次世代に安全・安心な社会を残せるかどうかの瀬戸際にあります。サステナブルな社会を実現するためには、大企業だけでなく、世の中の企業の99.7%を占める中小企業を含めてESGに配慮した経営をできるようになることが非常に重要です。

一方でビジネスでは未だに「今だけ、カネだけ、自分だけ」という人が少なくありません。今もESGやCSR(企業の社会的責任)を無視した企業の不祥事は後を絶たず、SDGs(持続可能な開発目標)を冷笑する人もいます。

サステナブルな社会の実現のために企業は重要な役割を担っていますが、この役割を果たすためには、企業の中にいるビジネスパーソンの倫理観が不可欠です。そのため、上記の研究と合わせて、企業がビジネス倫理を実践できるためには何が必要なのか?についても研究しています。

思想・哲学からビジネスの世界へ

もともと大学院では経済思想や環境哲学を学んでいました。人間の際限のない欲望とそれを助長する企業、これらに流されたらこの世界はアンサステナブル(持続不可能)になると考えていたのです。そこから企業の行動を批判的に検討するだけではなく、企業がサステナブルなビジネスを可能にするために、自分ができることはないかと考えるようになりました。

その後大学院での研究などを基に、自治体の中小企業政策や中小企業のサステナビリティ経営のコンサルティングを手掛けるようになりました。ビジネスの世界に身を置いて実感したことは、環境や社会にプラスになるビジネスのためには、それにふさわしい組織のガバナンスやマネジメント、つまりESGのG(ガバナンス)の重要性です。企業のGに問題があると、E(環境)とS(社会)を軽視し、企業そのものの事業リスクにもなってしまいます。このGの問題の解決にあたっては、社会性ある-サステナブルな-経営をしよう、というビジネス倫理が密接に関わっています。

企業が変われば社会が変わる

サステナビリティ経営のコンサルタントとして、長く政令指定都市の中小企業政策についてコンサルティングをしていました。10年ほど関わっていたさいたま市では『CSRチェックリスト』、『CSR経営推進マニュアル』など、中小企業のサステナビリティ経営に役立つツールの開発を手がけました。当時これらのツールは同市のサイトで無償公開していたので、さいたま市以外の地域の中小企業や自治体関係者、研究者にも利用されていました。

また、SDGsが登場して以降、SDGsとは何か?を解説する書籍が多く出ている一方で、中小企業が自発的にSDGsを経営に実装するための方法論、特に中小企業経営の実態に即した書籍はほとんどなかったので、経営者、実務者のための方法論をまとめた『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門 ~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』を出版しました。ちなみに同書は2023年の7月に韓国でも『ESG 실행전략 만들기(日本語題:ESG実行戦略の作成)』というタイトルで出版されています。

企業が変われば社会が変わります。いかに企業がサステナビリティ経営に取り組めるか、その担い手がビジネス倫理を実践できるか、そのためのツールや方法論をどう社会に提供するかをテーマに、今後も教育研究に臨みたいと思います。

コンサルタント、上場企業役員から大学教員へ

コンサルタントを経て、大学に着任する直前は関東地方で上場企業の役員をやっていました。その頃の問題意識は1クライアントのサステナビリティ経営のサポートをしても、どうしても限界がある、ということでした。当時、講演やセミナーなど、サステナビリティ経営の重要性を伝える機会も多くありましたが、これらはスポット的な活動なので、できることに限界がありました。そこで確かな倫理観に基づいてサステナビリティ経営を実践できる人材を育成すべく、大学に転身する機会を窺っていました。

コンサルタント時代から上述の企業の非常勤の社外監査役を兼務していたのですが、そこで子会社に端を発する不正を発見して調査しました。その結果、親会社の社長、専務、常勤監査役が不正に関与していたことが判明し、当時の常勤監査役が引責辞任しました。そして、調査を手掛けた私が常勤監査役に就任し、同社のガバナンスの再建に当たっていました。本学のビジネススクール(大学院)の教員公募を知ったのはその頃です。そこで赴任までに再建の道筋がつくことを見越し、以前から考えていた大学への転身を実現すべくチャレンジしました。

ビジネススクールは先行き不透明な時代の「サバイバル能力」を身に付ける場所

小樽商科大学ビジネススクール(OBS)は、北海道で唯一MBA(経営管理修士)が取得できる大学院…ってこれは大学の公式ウェブサイトでも言っているので、いまさら説明は不要ですね。本学でMBAの学びをするメリットとは、先行き不透明な時代をサバイバルするために不可欠な能力を、バランスよく身に付けられることです。

ビジネスとはサステナブルな社会の実現と自社の価値創造のための「総力戦」です。だからこそ、組織を構成するメンバーの能力を高める必要があります。この能力とは専門的な知識やスキルだけでなく、より多くの人々の共感を呼ぶような倫理観を含みます。前者がビジネスの「やり方」だとすれば、後者はビジネスの「あり方」です。価値あるビジネスにとって両者は一体不可分の関係にあり、これらを同時に学ぶことが極めて重要です。

私の担当科目「アントレプレナーシップⅠ(エシカル・アントレプレナーシップ)」はOBSの全員が受講する科目です。ここでは全てのビジネスパーソンに必須のサステナビリティ経営とビジネス倫理の基本的な知識と考え方、いわば「あり方」の講義をしています。これらは具体的イメージを持ちにくいので、オリジナルイラストを多用して、分かりやすい講義を心がけています。

高校生と社会人の方へ -学びに終わりなし、学びには問題意識が不可欠-

これから大学に進学する高校生のみなさんには、学びは「大学で終わり」ではないことをお伝えしたいと思います。社会は絶えず変化していますが、気候変動やAIの発展など、いまは未曽有の大変動期にあります。私たちはその状況の変化に適切に対応し、未来を切り拓く必要があります。みなさんが学業を終え、社会に出てしばらくすると、その変化に直接対峙する時が来るでしょう。その時にビジネススクールで再び学び直すことは、必ずみなさんの人生に役立つでしょう。

そして、これからビジネススクールを目指す社会人の方には、MBAはキャリアの「一里塚」に過ぎない、新たなキャリアの始まりであることをお伝えしたいと思います。MBAという学位はゴールでも目的でもありません。MBAでの学びを現実のビジネスにどう活かすか、ビジネスで社会にどのように貢献するか、そして有意義な人生とビジネスをどのように両立させるか、という問題意識を持って学ぶことが重要です。それができなければ折角のMBA学位もM(マヌケ)、B(バカ)、A(アホ)に堕してしまいます。ぜひこれまでのキャリアで育んだ問題意識を基に、MBAコースで知識とスキルに更なる磨きをかけ、有意義な2年間を過ごしてください。

社会全体で人的資本に積極的に投資すべき時代が来ている

近年のビジネスでは人材について、化石燃料のように使用すると減少する「資源」から価値を生み出す「資本」へと捉え方を変え、「人的資本経営」という考え方が広まりつつあります。現代社会は「これまでの常識」が通じない社会であり、過去の延長線上で未来が拓ける保障はありません。現に、気候変動リスクやAIの普及などは私たちの古い常識を打ち砕き、私たちには新たな対応策が求められています。

この状況は、これまでの知識や技能が通じないことを意味します。そこで私たちは考え方を変え、新たな状況に適合して価値を創造するために、新たな知識や技能を学び直し、人的資本の価値を高めることが欠かせません。私たちの社会がサステナブルになるためには、社会全体で人的資本へ「投資」することが必要なのです。そのためには企業・地域・家庭のそれぞれが、学び直しの意欲を持った人々を歓迎し、支援することが重要になります。みなさんの周りに学び直しの意欲を持った人がいたら、ぜひ温かい支援の手を差し伸べてください。


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