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教員インタビュー 籏本智之教授

  • <担当授業>
  • アカウンティングI、アントレプレナー・ファイナンス、ビジネスシミュレーション、ビジネスワークショップ、経営と会計

籏本 智之教授
HATAMOTO Satoshi


会計の可視化向上

 原価計算では、複数、それも結構な数の勘定の関係を理解しないと、何をしようとしているのか分からず、相当な練習を必要とします。このことは教育上効率的ではなく、断念する初学者を生み出しています。
 筑波大学の岡田先生の研究を発展させて、資産、負債、資本、費用、収益の各勘定の借方と貸方を列とし、時間を行とする行列を考えることで、原価計算の勘定記入を一覧することを考えました。表計算ソフトで行列を使うことで、勘定記入から合計試算表や残高試算表を演算で計算することができます。もちろん行列は巨大な物になるので、紙媒体では示すことは困難ですが、コンピュータでは問題ありません。試算表は期末までの勘定記入を合計するという形での圧縮であり、各勘定は資産、負債、資本、費用、収益のいずれか一つに類別されるので、各勘定はこれらの5つの要素に圧縮できます。圧縮を行列の積で実現するので、勘定記入を財務諸表に圧縮する様子を表計算ソフトの中で可視化されるというわけです。
 もう一つの可視化はすでに実際に教育に取り入れており、戦略MG®というボードゲームを使う授業で取引の繰り返しを体験してもらっています。取引を繰り返すことで、資産がどのように変化して、収益に結びつき、また、増加した現金で仕入を行っていく、といった再生産が行われていく様子を体験できます。体験は座学よりも効果的であり、強烈に可視化されているようです。
 戦略MG®は株式会社戦略MG研究所の登録商標です。

『原価計算基準』に隅から隅で接することで

 学部生の時、大学の授業を受けながら、予備校でCPA受験の学習をしていました。いわゆるダブルスクール時代でした。両者の授業の違いに驚きながら、素直に受験生になれば良かったものの、大学の授業担当者の専門書にまで手を出してしまい、簿記、会計、原価計算の沼に落ちました。沼からの脱出は、大学院への進学、研究者志望という形で成功したかに思いました。ところが、教壇に立つようになってからは、何をどう教えるかという一層深い沼に落ちました。再度の沼脱出は公認会計士の試験委員という形で成功したように感じています。
 試験委員ですので、問題を作らなければならず、多くの文献に接しました。その中でわが国の『原価計算基準』は覚えるぐらい読んでいます。昭和37年に大蔵省企業会計審議会から中間報告として公表された『原価計算基準』は、なるほどよく出来ています。読めば読むほどそう感じています。もちろん、現代の会計環境とは齟齬があるし、原則と例外が逆になっているように読める、古風な表現が多いなど多々議論は尽きません。しかし、この基準がなければ、試験問題は作れないほどに標準化されています。他の会計基準とは異なり、改定される見込はなく、安定して学ぶことが出来る点は学習者のみならず、試験委員としても助かっています。

業種や規模に関わらずすべての組織が原価計算を実践して欲しい

 原価計算は物作りの企業が行うものでしょう、とよく言われます。しかし、費用について形態別分類を基礎にして、機能別分類に加味する、という考え方は製造業特有のものではありません。費用を直接費と間接費に分けることも経営管理の視点からはすべての組織が取り組むべきではないでしょうか。部門別計算という過程は工場内では極めて重要ですが、製造業以外でも業績評価の視点からも注目すべきではないでしょうか。あらゆる組織が原価計算的な会計の手続きを取り込んで欲しいです。
 最近、前述の戦略MG®は本学のUU構想との関係で研修会を行っています。このゲームは製造業の創業からの経営を1人で行い、競合と自己資本を競うゲームです。初日は圧倒的な作業量に戸惑う人も二日目になると、目の色が変わって製品の製造・販売に夢中になっています。ルールを早く学べた人は企業規模を大きくすることができ、所属企業や組織の成長に向けて自己効力感を高めてくれているようです。良い学びの機会ですので、研修会でお目にかかるのを楽しみにしています。

勉強は嘘をつかない

 商学科で原価計算を教えていた頃、期末試験で机間を巡回していたら、総合原価計算の問題を小学校で習う比を使って解答しようとしている学生がいました。材料費と加工費では完成品換算量が異なるし、先入先出法では期首仕掛品原価と当期製造費用の原単位に対する比が異なるので、これらを無視した比はナンセンスなのですが、こんなところで小学校で教わったことを使おうとしている姿に驚きました。学んだことを応用しようとしていた姿勢が目に焼き付いています。残念ながら大学での応用には歯が立たなかったでしょう。
 大学の授業は一度聞いたぐらいでは、理解できないことも多くあります。理解できていないことは試験や実践に応用しようとしても無理でしょう。失敗など、いやな経験をする中で、努力を重ねると、理解が進み、応用できるようになっていきます。原価計算は費目別計算、部門別計算、製品別計算の過程を単独ではなく、連鎖的に実行していくので、全体像を理解するのに時間がかかります。目的が何であれ、せっかく履修したのであれば、途中で投げ出さず、地道に努力を重ねてください。必ず理解できるようになります。

「会計がわからんで経営ができるか」

 この言葉は一代でグローバル企業とした京セラの創業者稲盛和夫のものです。正確には『稲盛和夫の実学:経営と会計』の帯に付いていた文言です。小樽商科大学商学部商学科では、経営も会計もたくさん学ぶことができます。ビジネススクールでももちろん、経営と会計を学ぶことができます。どちらか一方ではなく、経営と会計を結びつけて学んで欲しいです。商学科でもビジネススクールでもそれが出来ます。
 今は亡き稲盛和夫氏は、会計の専門雑誌である『企業会計』2023年2月号で「稲盛和夫を継ぐもの」と特集が組まれています。前述の著書は日経ビジネス人文庫として刊行されていましたが、今年の10月には新装版が出版されます。『企業会計』は本学図書館にすべて揃っていますので、手軽に読むことができます。これらを読んでから、商学科やビジネススクールを目指しても良いし、入学してから読んでも良いでしょう。経営は知的格闘技であると、稲盛氏は言っています。小樽商科大学で知的格闘技に慣れてもらってから卒業・修了して、社会での知的格闘技を楽しんでください。

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