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教員インタビュー 土居直史教授

  • <担当科目>
  • 産業組織論、経済学入門

土居直史 教授
DOI Naoshi


人や物の移動をもっとスムーズに

 私は、「産業組織論」という分野で、消費者や企業の行動、市場における政策について研究をしています。特に大切にしているのは、「人や物がよりスムーズに移動できる社会をどう実現するか」という視点です。人や物が自由に動けることは、経済を元気にするだけでなく、地域や国どうしのつながりを深め、平和な社会をつくる土台にもなると考えています。

 これまで特に力を入れてきたのは、人の長距離移動に欠かせない航空産業の研究です。これまでの研究では、たとえばJAL(日本航空)とJAS(日本エアシステム)の合併によって運賃や便数がどう変わったかを分析したり、着陸料などの空港使用料をどのように設定すればよりよい仕組みになるかを探ったりしてきました。

 今後も航空産業を中心に、人や物の移動をより便利で安全にするための研究を続け、対象も少しずつ広げていきたいと考えています。

構造推定という道具で、社会の課題に挑む

 私が経済学に関心を持ったきっかけは、9.11のテロでした。平和な社会を考えるうえで、経済の仕組みをしっかり理解することが大切だと感じ、また、人や物の移動をスムーズにすることで、国や地域どうしの相互理解や利害調整に貢献できるのではないかと考えました。

 その中で出会ったのが、構造推定分析という手法です。これは、消費者や企業の行動をモデル化し、データをもとに推定して、そのモデルを使い政策変更の影響などをシミュレーションする方法です。この手法の面白さは、さまざまな市場や問題に広く応用できる点にあります。

 これまで航空産業の分析のほか、酒税に関する国際紛争などの研究にも取り組んできました。現在は、バングラデシュの専門家と協力して、未成年者の人身売買問題にも取り組んでいます。多くの被害者が性的サービス産業で働かされているため、その市場の需要と供給の仕組みを分析し、人身売買を減らすためにどのような政策が有効かを考えています。

 このように、産業組織論の知識や構造推定の手法は、身近な社会問題から国際的な課題まで、幅広く応用できる点が大きな魅力だと考えています。

ビジネスや政策の現場で活かされる産業組織論

 産業組織論は、消費者行動や企業活動、市場の仕組みを分析する分野です。そのため、近年ではこの分野の研究者がビジネスの現場でも活躍しています。たとえば、アマゾンなどの企業では、産業組織論の知識を持つ研究者が活躍しており、実務にも生かされています(しかも、けっこうな高給で雇われているようです!)。

 また、私は公正取引委員会の非常勤職員(エコノミックアドバイザー)として、大手企業の合併に関する経済分析にも携わった経験があります。その仕事では、産業組織論の理論をもとに課題を整理し、データ分析を活用して合併の審査の参考となる検討を行いました。

 このように、産業組織論は、企業活動や政策の現場と密接につながる分野であり、社会での実践にも大きく役立つ研究分野です。

 

経済学の勉強のために数学はどれほど必要?

 経済学というと、「難しい数学をたくさん使うんじゃないか」と思う人も多いかもしれません。でも実際には、大学で経済学を学ぶときに必要な数学は、意外と基本的なものだけです。理論を学ぶなら関数や方程式、微分・積分の基礎、データ分析なら確率の基本がわかれば十分です。数学が苦手だからといって、経済学をあきらめる必要はまったくありません。

 経済学では、複雑な社会の仕組みを正確に理解するための道具として数学を使います。数学はあくまで「議論を間違えずに進めるための便利な道具」にすぎません。本当に大事なのは、数学を使って得られた結果からどんなメッセージが得られるか、という点です。

 実際、私が担当している経済学入門の授業では、ほとんど四則演算だけしか使わず説明していますが、経済学の本質的な考え方はしっかり学べます。経済学は、社会の動きを読み解き、問題を解決するための強力な視点を与えてくれる学問です。大学卒業後にどのような業界で働くにしても、経済学の知識は大きな武器になるはずです。

経済学と商学の違いは?

 「経済学と商学はどう違うの?」とよく聞かれます。ざっくり言えば、商学や経営学は企業の目線で、どのように運営すると良いかを考える学問です。たとえば、消費者の行動を理解したり、マーケティング戦略を立てたり、会計の知識を使ったりして、「今の社会のルールやテクノロジーの中でどううまくやるか」を研究します。

 一方、経済学はもうすこし広い視点で、どういう仕組みにすれば社会全体がよりよく回るかを考える学問です。今あるルールの中で最適解を探すだけでなく、「そのルール自体をどう改善できるか」まで視野に入れます。

 ただし、分析対象はどちらも経済活動であることに変わりはありません。そのため、分野を明確に区別することは難しいですし、区別する必要もあまりないと考えています。


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