- <担当科目>
- 経営史
- 研究指導(ゼミ)
- 基礎ゼミナール
戴 秋娟 准教授
DAI Qiujuan
企業組織を動かす人の行動、考え方に関する史的研究

「企業は人なり」「経営は人なり」と言われてきたように、経営の本質はいつの時代も「人」にあります。経営における「人の問題」は、まさに永遠のテーマであると言えるでしょう。
私は大学院時代から、企業社会の中で人がどのような役割を果たしているのかに強い関心を持ってきました。これまで取り組んできた主な研究テーマは二つあります。
一つは、計画経済から市場経済へと移行する過程における、中国の労働市場と人的資本の形成についての研究です。
もう一つは、渋沢栄一に代表される近代日本の企業家たちの革新的な企業家活動とその歴史的意義、そして東アジアの経営者のフィロソフィーの探求です。
経営史と経済史は切っても切り離せない関係にありますが、人物や人間、経営者といった「人間的な側面」を扱うことが経営史の特徴です。組織を動かす人の主体的な営みや考え方を、歴史の文脈の中で理解する経営史研究は、現在にも実践的示唆を持つ可能性があると考えています。
歴史を学ぶことは現在に繋げるためである
組織を動かす企業家には、さまざまなタイプが存在します。たとえば、近代における日本の企業家は例外なく国益を考慮し、国産品の製造や輸出を志向していました。また、戦後の高度経済成長期には、ビジネスチャンスを見出し、反骨の精神をもって規制への挑戦を続ける中で、新たなビジネスを見事に開花させた企業家もいました。
革新を遂げた産業や経営環境はそれぞれ異なりますが、多くの企業家は慣行や既成概念にとらわれることなく、より良い製品やサービスを社会に提供するために、常に前向きに、時には非常識と思われるような姿勢で、勇気をもって挑戦してきました。こうしたチャレンジ精神は、企業家と呼ばれるリーダーたちに共通する属性であると言えます。
企業家の経営構想や革新的な活動を検証することによって、彼らが遂げた革新がその時代の企業経営や国民生活にどのようなインパクトをもたらし、その後の展開をどのように方向づけたのかを明らかにし、それを踏まえて今日的な課題の解決策を模索します。
歴史上の人物が残した行動や業績から、その人自身も気づいていなかった真実の一端を洗い出すことは、今日的な意義があると考えています。

地域に根ざした長寿企業で学び
小樽市内には、創業から100年を迎え、現在も稼働している長寿企業が少なくありません。これらの企業は、小樽にとって非常に貴重な存在であり、次の100年に向けた原動力ともなっています。
創業当時から社会や経済の環境は大きく変化してきましたが、そうした変化の中でもこれらの長寿企業を支えている不変の要素が存在します。それは、経営理念と人材戦略であると考えています。
私たちは、小樽商工会議所や市内の長寿企業の皆さまにご協力をいただきながら、ヒアリング調査を実施したり、連携企業の方々に出前講義をお願いしたりしています。こうした取り組みを通じて、学生たちが実際の長寿企業の魅力や抱える課題に気づき、産業界で求められる実践的な能力を身につけてもらうことを目標としています。
本音、本気、本望
私は、学際的かつ国際的な視点を重視した経営史教育に力を入れています。今年4月からは、19名の一期生を迎えた戴ゼミが新たにスタートしました。
ゼミ学習では、ケーススタディの手法を用い、日本国内にとどまらず海外の事例にも目を向けながら、革新的かつ創造的な企業家たちの足跡を比較しています。そして、彼らに共通する要素を整理し、その経営理念が今日においてどのような意義を持つのかを考察しています。
ゼミの運営理念は、以下の三本柱を大切にしています。
① 本音で語り合い、信頼関係を築くこと。
② 本気で挑戦し、真剣にゼミ活動と学習に取り組むこと。
③ 本望を定め、明確な目標を持って歩むこと。
ゼミは、単なる学びの場ではなく、コミュニケーションの場でもあります。ここで学生同士が学び合い、時には意見をぶつけ合い、互いに励まし合いながら共に前進していきます。学生一人ひとりの輝いている点を見つけ、それを伸ばすことが私の使命だと考えています。
座学に加え、フィールドワークや多彩なゼミ活動を通じて、学生の情熱とエネルギーを力に変え、迷わず自信を持って実社会へ羽ばたいていけるようサポートしています。
また、一学期のゼミ活動を振り返るために、ゼミ生が中心となってゼミ雑誌『Essence』を編集しました。ゼミ活動の記録として、今後も末永く残していきたいと考えています。


考え方次第

「経営の神様」とも称された稲盛和夫氏は、「考え方 × 熱意 × 能力」という成功の方程式を提唱していました。この式が「足し算」ではなく「掛け算」であるという点に、大きな意味があると考えています。つまり、どれか一つでもゼロであれば、結果もゼロになりますし、さらに「考え方」がマイナスであれば、他の要素がどれだけ高くても、結果はマイナスになってしまうのです。
少子高齢化が進み、AIなどの人工知能が社会に浸透してきている現代において、若者たちは将来に対する不安を抱え、方向感を見失いがちです。そうした中で、教員はその不安に共感しつつ、自らの姿勢を通して「正しい考え方」を示していくことが求められていると感じています。
「実学・語学・品格」という理念が貫かれている小樽商科大学においては、学生の皆さんに「正しい考え方とは何か」に気づいてもらい、彼らの情熱を引き出し、実社会に適応した能力を最大限に伸ばすことができると信じています。
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