- <担当科目>
- アカウンティングI、アントレプレナーシップII、ケーススタディI
戸 宸 准教授
Chen Hu
研究内容 -事業戦略と財務報告-
ポーターは企業の事業戦略を差別化戦略とコストリーダーシップ戦略の2つに分けており、経営戦略論の本において多用されてきている。これと似たように、他の研究ではでは、事業戦略はイノベーション活動を好む、先行者優位を狙って新規参入を頻繫に行う探索型戦略と、コスト効率性を最も重視する防衛型戦略に分けている。
企業の事業戦略の異なりは、研究開発やマーケティング活動への費用計上の異なりをもたらす。たとえば、防衛型企業はコスト効率を重視しているため、新規参入や新製品開発への投資より、既存製品のコスト削減を重んじる。一方で、探索型企業は新製品による差別化や先行者優位からの高収益性を狙っているため、研究開発費やマーケティング活動費用を計上することが多い。このような違いは、企業の報告利益のバラツキに影響を及ぼすと考えられる。なぜなら、探索型企業は費用計上が多く、新製品開発や新規参入が成功したときから、高い利益が出続けられるため、利益の変動が激しいと予想される。一方で、防衛型企業は事業変動が少なく、利益の変動もあまりないと考えられる。
上述のように、事業戦略は報告利益に一定の影響を及ぼし、利益の質に影響を及ぼすことが考えられる。本研究では、事業戦略が報告利益に与える影響が、財務報告の影響要因である、会計的裁量行動、実体的裁量行動、利益の持続性や利益平準化にどのように影響していくかを明らかにすることを目的としている。
研究を始めたきっかけ

そこで、米国の先行研究にしたがって、企業の事業戦略を会計数値を用いて定量的に測定し、事業戦略と報告利益、または、報告利益に影響を及ぼす行動との関連性の実証的証拠を提示し、経営と会計を結びつけるに貢献できると思っているため、本研究を開始しました。
研究分野と地域・社会とのつながり
企業はそれぞれ異なる戦略を選択し、その結果として財務報告に現れる数値や情報の特徴も多様である。事業戦略と財務報告の関係を分析することは、企業活動の実態を理解する上で重要な手がかりとなる。
地域や社会とのつながりという観点からは、まず企業経営の透明性向上に貢献できる点が挙げられる。財務報告の特性を理解し、戦略との関連を読み解くことは、投資家や取引先にとって適切な意思決定を支える基盤となる。
また、地域企業にとっても、財務情報を通じて自社の戦略や強みを客観的に把握することは、持続的な発展に不可欠である。
さらに、ビジネススクールにおいて研究成果を教育へ還元することで、実務家や社会人学生が自社の経営課題を学問的に再考し、地域経済や社会全体の活性化につなげていくことができる。この意味で、私の研究は学術的探究にとどまらず、地域社会の持続可能な発展に寄与するものであると考えている。
担当授業や学生の印象・雰囲気、商大ならではと感じること
私は現在、他の先生方と共同で「アカウンティングI」と「アントレプレナーシップII」を担当している。いずれの授業においても、理論の理解にとどまらず、実務や現実の経営課題と結びつけて考えることを重視している。
小樽商科大学ビジネススクールの学生は、授業中に積極的に質問を行い、異なる視点から議論を深めていく姿勢が印象的である。また、授業後の課題提出においても、自らの経験や関心を踏まえて丁寧に取り組んでおり、学びを着実に自分のものとして消化している様子がうかがえる。
さらに、商大ならではと感じるのは、学生のバックグラウンドの多様性と、その多様性を尊重しながら互いに学び合う雰囲気である。実務経験を持つ社会人学生と、理論を専門的に学ぶ学生が同じ教室で議論することにより、知識と経験が相互に補完され、非常に活発な学習環境が形成されている点が特色であると考える。
商大を目指す高校生やビジネススクールを目指す方へ

もっとも、本学には会計を専門的に学んだ経験のない新入生も多い。そのため、入学前の段階で、簿記検定の教材や財務会計の基礎的な教科書に触れ、会計の基本的な概念や仕組みに慣れておくことが望ましい。そうした準備をしておくことで、入学後の授業をよりスムーズに理解でき、授業内での議論や応用的な学習にも積極的に取り組むことが可能になると考えている。
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