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エバーグリーンからのお知らせ

2025.10.08

令和7年度第1回講義:田野倉 光一さん(H29卒)「ITの最前線からみなさんへ」

講義概要(10月8日)

 

○講師:田野倉光一氏(2017年小樽商科大学商学部商学科[夜間主]早期卒業/グローカルマネジメント副専攻プログラム修了。アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 シニアアカウントエグゼクティブ)

 

○題目:「ITの最前線からみなさんへ」

 

○内容:

高校から最初の大学に進んだとき、私はどうしても当時の大学生活に目標や目的を見いだせなかった。退学を選んでもがくうちに、会計学に学ぶ目的を見いだし、私は小樽暮らしを始めることになる。商大での出会いや刺激が私をグローバルIT企業でのキャリアへと導いてくれた。そんな自分の経験を踏まえて、現職からみたIT業界やデジタルマーケティング、生成AIの世界を解説しながら、後輩諸君の進路へのヒントを提供したい。

 

 

生成AIが動かす時代の波を、どう乗りこなすか

 

田野倉光一氏(2017年小樽商科大学商学部商学科[夜間主]早期卒業/グローカルマネジメント副専攻プログラム修了。アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 シニアアカウントエグゼクティブ)

 

 

 

 

目的が見えないまま進んだ大学と、目的のために選んだ小樽商大

 

今日は皆さんのこれからの進路に、なにかヒントになる話ができれば良いと思っています。私は静岡県の下田で育ちました。高校は地元の県立高校で、そこからまず早稲田大学の人間科学部に進学しました。キャンパスは埼玉県の所沢です。2007年入学で、ご存知かどうかわかりませんが、あのハンカチ王子、斎藤佑樹投手とか卓球の福原愛さんなどが同期になります。
でも実は当時の私には、大学でこれをやりたい、これを学びたい、という目標やテーマがありませんでした。進学校だったので、まわりに合わせて受験勉強をして、ただ早稲田に入りたい、といったふわっとした気持ちでたどり着いた状態だったのです。だから入ったらそれで満足してしまい、全然勉強しませんでした。高校のときからやっていたテニスのサークルに入って、いろんな仲間と遊んで、といった生活です。
そして2年生の終わりころ、学友の中にはすでに就活を熱心に始めている人もいましたが、実家に帰ったときに両親に現状を話したのです。ゼミを選んで学びの針路をはっきりさせる時期でもあり、就活も始まっている。でも自分としてはどうしてもまだ本気になれないんだ、と。そのとき両親は意外にも、せっかく入学して卒業できないのは残念だけど、やりたいことがどうしてもないのなら、いっそ辞めてもいいんじゃないか、と言います。自分の発想にはそれがなかったので、そんな言葉が背中を押してくれました。
2年生の3月、私は早稲田大学を退学しました。

 

それからの4年あまりのフリーター時代は、完全に暗黒期です(笑)。
退学したときは、本当にやりたいことは何なのかを見つけるんだ、と思っていたのですが、オートバイが好きだったので大型バイクを乗り回していました。それなりのお金がかかるので、昼間はバイク関係のECサイトのアルバイト、夜は居酒屋とか、アルバイトのダブルヘッダーで小遣いと生活費を稼いでいました。平日は夕方から夜中すぎまで働いて、帰ってきて寝たらまた昼のバイトへ、という生活が4年間つづきました。それはそれで楽しかったのですが、さすがに24歳ぐらいになると、不安になってきます。このままでずっと生きていけるのかな、と。人生の先行きが見えませんでした。
しかし実は心の中では次第に、学び直したいという気持ちが芽生えていました。ではいったい何を?イメージしていたのは、国際会計の世界です。日本の企業のグローバル化がどんどん進んでいた2013年ころですが、国内の会計基準とグローバルな会計基準の違いから、IFRS(イファース・国際財務報告基準)などのことがよくニュースになっていました。
これからの時代は、国際会計をしっかり学べばどこでも生きていけるんじゃないか—。そう思いました。そのためにもう一度大学でちゃんと学びたい!今度は学びたいことが明確にあります。私は24歳になっていました。
ただ、もう両親に頼ることもできないし、自分で生活費を稼いで、奨学金も使います。そうなると学費の安い国立大学で、高度な国際会計が学べるところ。そしてアルバイトしながらとなると、夜間コースが良い。この3つの条件をクリアしてくれる学びの場は、日本中で小樽商科大学しかありませんでした。それまで小樽には縁もゆかりもなく、行ったこともないまちでしたが、もうここしかない。そんな気持ちで受験して、合格することができました。

 

 

ITと世界への意識を拡張してくれた小樽生活

 

小樽での学生生活は、本当に楽しくて充実していました。三角市場の近くに部屋を借りて、東京時代からの延長で、昼間は自分の部屋できるECサイトのバイトなどを続けながら学費や生活費を稼ぎ、5時くらいから大学に入ります。
とても厳しい(?)英語の授業(ホルスト先生の授業)を取ってしまい、そこで大変苦労したことが、英語と海外への意識が変わるひとつのきっかけになりました。これは英語力を何とかつけなければ何も始まらない、と。そしてたまたま学外で知り合ったオーストラリアの若者とランゲージ・エクスチェンジ(互いに母語を教え合う)をして、英語力を鍛えました。
学内での良い仲間との出会いもありました。最初の大学体験とはまるで違って、一般教養を含めて、面白くてやりがいのある授業ばかりです。24才の私は小樽で、学ぶことの意義をようやく実感できたのです。
2年生になるとき(2015年)、「グローカルマネジメント副専攻プログラム」が始まり、ぜひ挑戦したい、と思いました。そこで出会った先生や学友たちが、自分の世界をさらに広げてくれました。学ぶことが本当にどんどん楽しくなっていく実感がありました。3年生のときはバイトに当てる時間もなくなるほど大学のことで忙しくて、一日中キャンパスにいる感じでした。図書館の住人のようになっていました。とくに経営学やマーケティングの文献が揃った一角があって、会計の分野に加えて、そこをすべて読破しました。
そして我々の大先輩に、1980年代に日本オラクル(株)を立ち上げた佐野力さんがいらっしゃいます。佐野さんが母校の後輩たちを支援するために尽力した海外留学制度を使って、2年生のときにマレーシアのマラヤ大学、3年ではオーストリアのウィーン経済大学に短期留学することができました。ウィーンでは、ソーシャルメディアのマーケティングで、夏休みに2単位取ってくる、という学びでした。異文化と交わる環境に身を置くことで、なんとなく自分の将来のイメージが見えてきた気がしました。つまり、外資系のIT企業で働いてみたい、と。
商大でお聞きした佐野さんの講演は、私の心に火を付けました。そして、当時日本オラクル社の副社長だった石積尚幸さんの特別講義をたぶんこの教室で聞いて、大きな刺激を受けたこともありました。石積さんも我々の大先輩であり、私の人生を切り拓いてくれた大切な恩人です。
遅れて始めた2回目の大学生活ですが、気がつけば3年間での早期卒業が認められ、同時にグローカル副専攻も修了することができました。

 

 

 

 

グローバルIT企業での挑戦

 

卒業後は、日本オラクルに入りました。
最初の仕事は、国内の中小企業やスタートアップ企業へのクラウドサービスのセールスです。3年ほど務めたあと、グーグル・クラウド・ジャパンという、グーグルのクラウドビジネスを動かす会社に転職しました。そこに5年間、この5月までいたのです。グーグル・クラウドでも、中堅企業やスタートアップ企業の支援という仕事は共通していました。そして6月からは、現在のアドビ(株)デジタル・エクスペリエンス事業本部というところで仕事をしています。ここではシニアアカウントエグゼクティブとして、皆さんが知っているような大企業をお客さまとする営業をしています。

 

自己紹介にずいぶん時間を取ってしまいました。
今日はどんな話をしようかな、と考えて、例えば「オレのようになるな」、という話もあるだろうし、現代の営業職とは?というようなテーマもあるかな、と思いました。皆さんが商大で学んでいく経営学やマーケティングはもちろんビジネスにおいて重要ですが、実際に企業でお金を稼いでくるのは営業という仕事ですからね。営業とは、マーケティングのその先にあるプロセスです。
ただ、今日は私が自分の大学時代に佐野さんや石積さんの講義からいただいた刺激や夢につながるような話をしたいと思います。

 

まずは「私の現職からみたIT業界、マーケティング領域の現在地と今後」について話します。私が今いる会社は、とくにデジタルマーケティング領域に力を入れて企業のお客様を支援しています。

 

いまのIT業界のトレンドを概説しましょう。
皆さんはいわゆるZ世代、物心ついたときからインターネットが社会のインフラとしてあった、デジタルネイティブですね。私はY世代で、携帯電話やインターネットの普及期が青春時代と重なる世代です。iPhoneが日本で本格的に普及していったのは2010年くらいです。
モバイルが高性能化したことでソーシャルメディアが普及して、Twitter (現在のX) やFacebook、Instagram、TikTokなどが登場しました。インターネットの普及で大量のデータが生まれると、そこからAIが登場しました。さらに今年2025年は、生成AI元年と言われています。
何かの商品やサービスを選ぶとき、少し前であればググる(Googleの検索エンジンで調べる)という行為が一般的でした。しかしアメリカでは今はもう60%近いコンシューマーがChatGPTやGeminiなどの生成AIを使って検索していると言われています。2022年にChatGPTが出てたった3年で、もうこれだけの数の人たちが生成AIを使うようになっている。この動きはさらに加速しています。リテール業界、トラベル業界、金融業界、メディア…、AIはあらゆる産業の領域で爆発的に成長を続けています。日本では検索エンジンがまだ支配的ですが、近いうちに生成AIに取って代わられるでしょう。

 

生成AIが普及してきたことによって、ユーザー体験が劇的に変わってきています。少し前までのネット環境は、ユーザーが検索エンジンにキーワードを入れて調べたい情報を取りに行く、人間が情報を探しにいくモデルでした。
次にスマホが普及してくると、ユーザーの嗜好や行動を分析してさまざまなレコメンデーションを持ちかけてくるようになりました。そして近年、生成AIが登場してこれがどんどん進化していくと、近い将来、AI自体がエージェントとしてもっと自律的に働くようになると言われています。エージェントとはつまり、AIが自律的に行動する存在になることです。そしてそこでは、人間が介在せずにエージェント同士がコミュニケーションを取り始めて、AIが仕事を回すようになります。世の中のあらゆる産業がこの方向にシフトしていくでしょう。

 

 

生成AIが変えていくマーケティングの世界へ

 

皆さんが、小売とかECサイトを運営している事業者だとして考えてみてください。こういう時代の波の上で、マーケティングをどう対応させていかなければならないか。
かつての検索時代は、SEO(Search Engine Optimization・検索エンジン最適化)の質が問われました。そこではユーザーである人間だけにフォーカスを当てればよかったのです。情報を集めるのは人間でしたから。しかしこれからは生成AIに対する最適化も同時に考えなければなりません。この話は後ほどもう少し深掘りしたいと思います。

 

今のマーケティングの考え方のひとつとして、かつてのマスマーケティングに対して、より高度化したパーソナライズドマーケティングとかワン・トゥ・ワンマーケティングと呼ばれものがあります。マスマーケティングの時代には考えられなかった高い精度でひとりひとりのお客さまに焦点を当てながら、適切なメッセージを届ける。それによってお客様の購買行動を促します。
私の所属しているアドビという会社はもともとクリエイティブに強い会社なので、こういったデジタルマーケティングの文脈で、企業のお客様が使われるコンテンツを生み出すためのお手伝いをしてきました。コンテンツからは、ユーザーが実際にいつどのようにECサイトでその商品を買ったか、といった情報がオンラインでどんどん蓄積されます。ユーザーにまつわるさまざまなデータがコンテンツから得られるのです。
データを見てそのコンテンツが良かったのか、良かったのならどこが良かったか。それをもとに次にまたどういうコンテンツを作れば再度買ってもらえるか。マーケター視点のPDCAサイクルの仕組みを生み出して、企業のお客様のマーケティング成果を最大化していくことがアドビの価値です。

 

さて先ほど、いまはほしい商品の情報を多くの人が生成AIで得るようになっている、という話をしました。これからのマーケティングを考える上で、これは無視できない状況だと言われています。その話をします。
ユーザーはいま、こういう情報を知りたい、と、ChatGPTやGeminiに文章でリクエストを出して、質問形式でやりとりしながら情報を得ていきます。生成AIはユーザーの意図を汲み取りながら、ユーザーの求める情報をインターネットの世界からかき集め、ユーザーに返していきます。
ではもう一度、みなさんが小売業を営んでいる事業者だとして考えてみてください。お客様の欲しいものはこちらでも扱っているのに、生成AIがうちの情報には目もくれず、競合の情報ばかりをユーザーに返してしまっていたら、どうなりますか?お客様は競合の方にどんどん取られてしまいますね?
こんな状況をなんとかしなければいけない、と取り組んでいるのが、SEO(検索エンジン最適化)ではなく、GEO(Generative Engine Optimization・生成エンジン最適化)とかAIO(AI Optimization・AI最適化)という領域です。デジタルマーケティングの世界ではいま、ユーザーに対してだけでなく、生成AIに対する最適化というのも重要なテーマのひとつとなっているのです。これはまだ出てきたばかりのテーマで最適解は見つかっていないのが現状だと思います。相手にする生成AIのモデルはたくさんあるし、向こうもどんどんアップグレードしていきます。この分野の人材は、世界的にこれから大いに注目されていくでしょう。

 

 

 

 

時代の大きな流れを意識しよう

 

ここからは、私の個人的な目線から皆さんにメッセージを贈りたいと思います。
私は今年(20025年)の6月に転職したのですが、新しい会社に行く前に早めの夏休みを取って、2週間くらい北欧を旅しました。ノルウェーとアイスランドです。
アイスランドの温泉の写真をご覧に入れていますが、ブルーラグーンというところで、セレブがお忍びで訪れるような、人生で一度は行ってみたい観光地、のようなところです。ここが素晴らしかった、という話をしたいのではなくて(もちろん素晴らしいのですが)、料金がとてつもなく高かったのです。入場料だけで、円にするとふたりで10万円くらい。静岡の私の故郷には地元の人が500円で入れる温泉がありますが、恐ろしいことにその百倍です(笑)。ずっと円が安くて、国内の物価は上がる一方です。
コンビニでいつも買う商品が突然値上がりして驚くことがありますね。かつて1億円以上のマンションは億ションといって夢の暮らしの象徴のような位置づけでしたが、いま東京都心では2億ションや3億ションじゃないと高級マンションとは呼べません。ありとあらゆる物価が上がっている。これからビジネス社会に出て行く皆さんにとっては、とても大変な世の中かもしれません。
さらに、今日ずっとお話してきた生成AIの驚くべき進歩があります。今日の生成AIはすでに、東大の理三でも受かってしまうレベルです。真面目に受験勉強していた私たちには、なんだかバカバカしくなる話です。そしていま話してきたように、私のようなビジネスパーソンにも、とてつもない影響を及ぼし始めています。AIに取って代わられる仕事の領域はしばしばメデイアで取り上げられますが、とある調査によれば、私のような営業職もAIに代替される可能性があると言われています。

 

じゃあ一体どうしたらいいの?という話です。皆さんの不安を煽るのが私の意図ではありません。私の考えを述べれば、当たり前といえば当たり前の話なのですが、これからの時代に私たちは、もっともっと自分自身のことを見つめて、自分のキャリアを考えなければいけません。そういう時代なんだ、と意識してください。
そのために何をどうするか?
まず自分自身、あなたらしさというブランドをこの学生時代に作り始めておくことが大切です。AIが何でもできてしまう世の中ですから、単に知識吸収型の勉強で試験を突破する、といったことでは進路は開けません。
一方で生成AIは、端末の中では生きていけますが、触覚もなければ、味覚も嗅覚も持ちません。見ることや聴くことは若干できますけれど、人間のように複雑な五感を持つことができないのです。ここがやっぱり、人間のアドバンテージです。

 

コロナ禍を経て、大学に登校することが当たり前じゃないかもしれない。家でできることももちろんあります。効率を考えたら、それがベストだっていうこともあるのですが、ただやっぱり五感を刺激するには、どんどんどん外に出て行って、友達と交わってほしい。いろんな大人たちとも関わりを持ちながら、五感を刺激してほしいのです。
そしてアルバイトでお小遣いを稼いで、そのお金を自分に投資するという視点を持ってみませんか。自分が知らない海外の土地を経験してみたり、食べたことのない食事、びっくりするほど美味しいレストランに行ってみる。あとは、留学をするのもとても有効です。もしそのチャンスを掴めるのならぜひチャンレンジしてください。そういった経験を積んで、自分自身の五感をとにかく刺激し続ける。そうすると、皆さんの人間性は、どんどん豊かになっていくはずです。

 

新卒者対象ではありませんが、私はグーグルで採用活動にも関わっていました。グーグルの人材採用にはいくつかの評価指標があるのですが、面接で問われることで大切なのは、What(回答そのもの)ではなく、その候補者が「なぜそう考えたか」、「どのようにして回答に辿り着いたか」というWhyやHowであり、そこが採用活動の中では特に重点を置かれるポイントだったと思います。Whatは、AIに簡単に取って代わられる、単なる知識にすぎません。
このあたりについて参考までに、TED財団が運営する、TEDの中でも特に有名な講演のひとつに「人を動かすリーダーシップの本質」(サイモン・シネック)があります。興味を持った人は、そこで言われているゴールデンサークル理論を調べてみてください。

 

リーダーシップについても大切なのでふれておきます。
リーダーシップとは、責任感、仕事(物事)に対するオーナーシップだと私は考えています。これは私が仕事をする上で一番大切にしている矜持です。自分がなぜその仕事しているか。どんな責任を担っているのか。それをどう全うするのか。皆さんもゼミやサークルや部活の中でいろんな他者と関わるでしょう。その経験の中で、自分が果たすべき責任範囲を明確に把握して、それを完遂させる、という経験を積んでください。

 

 

学生時代にこそ、自分のキャンバスを大きく作ろう

 

最後に。
先に言った旅で私はノルウェーのムンク美術館に行きました。そして私が大好きな言葉を残している心理学者のことを想起しました。皆さん、アドラー心理学という言葉を聞いたことがあるかもしれません。アルフレッド・アドラー(1870-1937)というオーストリア人で、彼は「人間は自分の人生を描く画家である」と言っています。深い言葉だなあ、と思います。画家はキャンバスに向かって、たくさんのプロセスを重ねていきます。間違ってしまったり気にくわなければ、何度でも上書きしていきます。言葉にすれば月並みですが、人生もそういうものだと思います。つまずきや後悔も、最終的に皆さんが自分の人生という絵を描き切るために、絶対必要なピースなのです。だから今やっていること、やろうとしていることに自信をもって前を向き続けましょう。
私はムンクの「太陽」という大作に感銘を受けました。そこには、あの有名な「叫び」のような陰鬱さはなくて、明るい力強さが満ちています。そしてこの絵のすごさは、大きさにもあります(7m×5m)。
それに寄せて言えば、皆さんに学生時代にやってほしいのは、まず自分のキャンバスをうんと大きく作ること。別にいま何かを描き始めなくても良いのです。描き始めるのは卒業してからでも十分です。でもこの学生時代に、何か自分だけの絵を描くためのキャンバスを、うんと大きくこしらえておきましょう。キャンバス=自分の可能性ですね。キャンバスを広げられる機会と時間こそが、学生時代なのだと思います。

 

 

 

 

<田野倉光一さんへの質問>教員より

 

Q)今日のお話では、どんなに失敗してもそれが自分の人生に織り重なっていくと糧になるというとても弾力のあるメッセージもありました。学生諸君には失敗談に興味をもつ志向もあるので恐縮ですが、あのときはしんどかったなといったちょっと苦めのご経験を、お話しいただける範囲で聞かせていただけますか?

 

A)一番はやはり早稲田大学を辞めて少し経ったあたりですね。それについて実はまだ、自分の中で解消しきれてない感情もあります。当時同期はストレートで大企業に就職していって、あるときFacebookでそんな友人のひとりから、「大学から姿を消して、お前なにやってんだ?お前が中途半端なことをやってるうちに俺たちは、社会の一線で着々とキャリアを積んでいるんだぞ」、というようなメッセージをもらいました。楽しく遊んでいた友人のそんなひと言がショックでした。そして、今に見てろ!という気持ちも湧いたことを覚えていますが、でもそれほど単純な心理ではなく、言葉にならない複雑な感情が湧きました。学び直しや国際会計への興味が湧いったのは、その辺りからですね。

 

 

<田野倉光一さんへの質問>学生より

 

Q)田野倉さんはマレーシアのマラヤ大学とオーストリアのウィーン経済大学に短期留学をしましたが、留学の経験でどんなことを得ましたか?

 

A)端的に言って、ダイバーシティの感覚ですね。現代の企業経営では「Diversity(多様性)」「Equity(公平性・公正性)」、「Inclusion(包括性・包摂性)」の三要素、「DEI」が重視しされますが、そのダイバーシティ。
とにかく毎日いろんな生い立ちや考え方の人たちと学んだり何かに取り組むことが、とても新鮮でした。ウィーン経済大学ではソーシャルメディアを使ったマーケティングの授業で、毎日アサインメントが出るのですが、これをチームでGoogleスライド上で同時編集しながら企画を練って、先生や級友の前でプレゼンします。それまで全く知らなかった人同士が、ひとつの目的に向かって知恵や意見を出し合うことにとても刺激を受けました。また、その作業のスピード感にも面くらった印象が残っています。
多様性とは単に国籍の話ではありません。会社に入って仕事をするとわかりますが、どんな人でも仕事はひとりだけでは絶対にできません。例えば営業職でも、ひとりが売上げ数字を作るわけではなく、いろんなステークホルダーをいかに指揮者のようにコンダクトできるかが問われます。そして日本人の中でも実にいろんな人がいます。いろんな価値観をぶつけ合うことで仕事は成立するのです。留学で体験したことが、とても糧になっていると思います。

 

Q) 大学の授業以外の活動ではどんなことが思い出に残っていますか?私たちが在学中に取り組んだり意識しておくべきことについて、アドバイスをいただきたいと思います。

 

A)僕の暗黒期で唯一役に立ったのは、自分で稼いだお金を自分の好きなものに浪費した経験が、今となっては自分の引き出しの数を増やしてくれたことだと思います。今の仕事の営業の場面でも、やっぱり話の引き出しだしがたくさんあると、コミュニケーションが深まります。自分という人間の奥行きみたいなものを作っていけるのは、学生時代のいろんな時間の過ごし方によりますね。コスパやタイパもそれなりに大切でしょうが、学生時代だからこそできる自分への投資があると思います。

 

 

Q) 小樽商大を卒業されて、田野倉さんは現在3社目の外資系大手企業にお勤めですが、事業内容もカルチャーもちがう会社へ転職されるとき、どんなことを重視して行動されたのでしょうか?またこれからのキャリアをどうお考えですか?

 

A)皆さんが30歳ぐらいになった時に参考になれば良いな、と思って言います。私はキャリアプランニングという言葉が好きではありません。むしろ嫌いなんです。皆さんにはそんなことに縛られてほしくない。なぜかというと、キャリアというものは、思った通りにいかないものです。だから私の場合、何年経験を積んだら次はこういうステップに上がろう、と前もって考えていたわけでは全くありません。大きな仕事に区切りがついたときに、また新しい世界が自然に見えてきます。その時々の仕事の中で、いろんな出会いや機会や刺激があり、仕事の面白さややりがいは変わっていきます。そんな流れの中で、私はいまのようなキャリアを積んできました。職種でいえば営業職ですが、中小企業に対する営業から、現在は大企業がクライアントでと、中身は変わってきています。皆さんがもしキャリアプランを立てるにしても、変更することを前提に、ちゃんと定期的に見返してください。そうしながら進んでください。
私のこれからですが、明確なプランは立てていません(笑)。ただ、何兆円という売上げの企業を相手に扱うアカウントの規模を大きくしていく方向とか、会社の外のパートーナー企業の人たちを積極的に巻き込んで何かを成し遂げていく方向とか、あるいはピープルマネージャーという分野もあります。これは今の私のような営業職を育てながら、いっしょに売上げを広げていくような領域です。方向としてはいずれかになるだろうとイメージしています。

 

 

教員より

 

Q)最後に田野倉さんは、自分の人生のオーナーシップを自分でしっかりもとう、という深い意味のあることをおっしゃいました。そのためにはどうすれば良いのか、今日からでも何ができるのか?後輩諸君にメッセージをお願いします。

 

A)やっぱり自分のキャンバスを、言い換えれば、今は見えない自分の可能性の余白をどこまで広げられるか。そこだと思います。そのためにぜひ時間を使ってほしいです。来週以降、皆さんはまたいろんな先輩の話を聞くでしょう。刺激やヒントを受けて、自分もそうなりたい、と思うことがあると思います。でも、そのためにすぐ明日からこうしようとか、あの資格を取ろうとか、そういう単純な発想に収まってはつまらないと思います。さっきも言った通り、キャリアの針路って、本当にタイミングとか状況によってあっちこっちに行ったりするものです。思いがけない出会いもあるでしょう。要は、大切な出会いやチャンスがあったとき、それをものにできるかどうかは、それまでに自分がいかに自らの可能性を広げていたかに掛かっていると思います。そのための準備は、自分自身で重ねていくしかありません。
皆さんに言いたいのは、その可能性を広げるために、やっぱり学生の時にやりたいと思うこと、学生でしか得られない機会を積極的に見つけて行動してください。もし思い当たることがあって、でもまだ着手できてないんだったら、今すぐに始めてください。それが私からのメッセージです。

 

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