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エバーグリーンからのお知らせ

2014.01.15

平成25年度第12回講義:「私の経済法研究 ~消費者のための真の行政を考える~ 」(2014/1/15)

講義概要

 

・講 師:澁谷 樹氏/平成15年修士卒

・題 目:「私の経済法研究 ~消費者のための真の行政を考える~」

・現 職:(独)農林水産消費安全技術センター仙台センター 業務管理課 専門調査官(平成16年〜)

・内 容:

食品表示は,経済法にかかる研究,とりわけ消費者政策,消費者問題と深い関わりがある。また,「食の安全・安心」を支える基本的な制度の一つでもある。本講義では,食品衛生法及びJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)等を主な素材として,わが国の食品表示法制とその執行体制が抱える構造的問題を考察し,ひいてはそこに見られる官僚制の問題を浮き彫りにしたい。

※推薦図書(消費者問題に興味ある方は読んでみてください)

(1)日本放送出版協会編『日本の消費者運動』日本放送出版協会,1980年

(2)正田彬『新版 消費者の権利』岩波新書 新赤版,2010年

  • 講師紹介

昭和40年山形県酒田市生まれ。昭和59年県立酒田商業高校卒業後、郵政省入省。数度の異動を経て平成10年小樽農林水産消費技術センターに着任。小樽在任中に放送大学教養学部卒業、小樽商科大学大学院商学研究科企業法学コース修了。平成16年から独立行政法人農林水産消費安全技術センター仙台センターに異動。宮城県仙台市在住。

 

学生のうちに今につながる昭和史を知ろう。

 

専門分野は食品表示、博士論文も執筆中

 

澁谷樹さんは独立行政法人農林水産消費安全技術センター仙台センターの専門調査官。公務員独得の異動を繰り返して現職にたどり着いたいきさつが、やはり学生たちの関心を引いたようだ。「事前質問157件中、“今、私がどんな仕事をしているのか?”“郵政省から農林水産省に移ったのはなぜ?”というキャリアパスに関する質問がほぼ3分の1を占めていたので、今日はそれに答えるところから始めたいと思います」。(独)農林水産消費安全技術センター(略称FAMIC:ファミック)は「肥料、農薬、飼料、ペットフード等に関する安全性の検査、食品の表示等に関する検査等の効率的・効果的な推進、食品や農業資材に関する情報の提供など」(公式サイトより抜粋)を行う専門機関。「今話題になっている食品表示の監視体制を例に挙げると、消費者から『食品表示110番』に通報が入った場合、実際に市販品を購入して、表示と内容が一致しているかDNA分析や元素分析などの科学的手法を用いて検査します。その結果を農林水産省に報告し、意図的な意味合いが薄い不適正表示の場合、事業者には文書等による指導を行い、偽装表示の疑いが強いと思われる場合は大臣指示による立入検査等が行われます。以前は私も食品の理化学分析に関わっていましたが、現在の仕事は消費生活センターの職員に対する研修が中心。個人的には近々、東北大学大学院の学位論文として出す予定の食品表示に関する博士論文を執筆中です」

 

小樽に異動後、独禁法の和田先生に師事

 

山形県酒田市で薬局を営み、自営の苦労を知る親の期待に応えて国家公務員初級試験に合格、高卒で郵政省に入省した澁谷さん。中央郵政研修所で英語と仏語を、郵政省電気通信研修所では専門知識を習得し、27歳の若さで本省である郵政省大臣官房国際部に大抜擢。ところが、国会関連の資料作成に忙殺され「仕事への実感が徐々に薄れていった」ときに実家の父が体調を崩したこともあり、東北へのUターンを決意。国家公務員II種試験を受け直し、農林水産省宮城食糧事務所で新たなスタートを切った。小樽にいたのは平成10年から6年間。(独)農林水産消費技術センター小樽センターに異動を命じられた。「省をまたげばキャリアはゼロスタート。まずは大学を出なければ」と宮城県で入学した放送大学を異動の翌年に卒業し、さらに「経済法の勉強をしたい」とネットで調べた小樽商大の和田健夫先生に師事。「当時の研究テーマは郵政省勤務時の経験を踏まえて“郵便事業における競争政策の導入”について。大学の図書館で閉館直前までひたすら資料や本をコピーして札幌の自宅に帰ってからそれを読む。大変でしたが、研鑽を積んだ小樽時代でした」。商学修士を取得した翌年、再び仙台にある事務所に戻り現在に至る。

 

 

消費者も行政も混乱?食品表示問題

 

澁谷さんが事前に必読とした課題資料は「統一食品表示法制定の阻害要因に関する一考察」と題した自身の論文と、消費者庁・農林水産省発行の「知っておきたい食品の表示〈平成25年1月版〉」、正田彬著『消費者の権利』(岩波新書)の一部抜粋。「正田先生のご本にある通り、食品の問題、特に食品表示問題は1960年代から存在していたこと、食品による深刻な健康被害があったことを皆さんの頭の片隅に留めておいてください」と訴えた。そして話はいよいよ本題へ。「現在、食品表示を規定する主な法律にはJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)と食品衛生法、景品表示法があります。前の二つは各法律の目的に則り、表示を義務付ける食品や食品添加物の項目を規定していますが、景品表示法は食品に限らず全ての商品やサービスが対象。内容を著しく良く思わせるような“不当な表示”を規制するものです」。この三法が網羅する規定範囲を図式化すると重なる領域(名称、賞味期限、保存方法等)が多いことが一目で分かり、「食品表示に関する法律の重複・乱立に消費者だけでなく行政や事業者までもが混乱している」と指摘した。

 

法律は第一条と附則の声に耳を傾けろ

 

「ここにいる皆さんは企業法学科以外の方も今後色々な法律に触れる機会があると思いますが、どんな法律も第一条が非常に重要です。その法律の目的が明確に記されているので、これから第一条を引用するときは出来る限り制定時の原文にあたる習慣をつけてください。そしてそれと同じくらい大事なのが、法令の最後に書かれた附則。その法律が既存の法律を受け継いだものである場合、正確な経緯を読み取ることができます」。その附則によると食品衛生法は明治時代に既に存在した飲食物取締法を土台にして昭和22年に制定されたことがわかり、「戦後に生まれた新法ではない」ことを澁谷さんは強調。

 

 

研究のヒントをもらった本として歴史学者ジョン・ダワーの著作『昭和――戦争と平和の日本』を取り上げ、中の一節「私たち西洋人は、(中略)「戦前」と「戦後」というふうに時代をとらえる傾向がある。これは合理的な発想だが、誤解を招くおそれもある。(中略)戦前、戦中、戦後の経験のあいだにあるダイナミックな連続性をあいまいにしがちだからである」を引用し、分断されがちな思考の落とし穴に警鐘を鳴らした。他方、昭和25年制定のJAS法については昭和45年と平成21年に行われた二度の改正を丁寧にひもとき、「JAS法が法目的を改正のたびに拡大してきたのは農水省職員の雇用維持と無関係ではありません」と自説を展開。JAS法の規制対象の拡大や権限強化と日本独自の官僚制度との関わりをより深く掘り下げた論文の一部を駆け足で紹介した。

 

食品表示に社会的なアジェンダが集中

 

講義中に触れられなかった事前質問「食品偽装についてどう思うか?」について、控え室に場所を移した澁谷さんに訊ねた。「“偽装表示は詐欺と同じだ”という指摘もありますが、確かに偽装表示も詐欺も意図的に不当な金銭を巻き上げるという意味では同じ。ただ、そこで思考を止める前に例えば、警察庁で犯罪統計を見てみると詐欺は年間3万件以上発生するのに対して果たして食品の偽装表示はどれほど悪質なのか、冷静に考えてみる必要があると思います。おそらく詐欺よりもはるかに少ない件数にも関わらず、食品問題を取り扱うニュースボリュームは過剰に大きい。少し専門的に言うと、食品表示について社会的なアジェンダが過度に集中しすぎている傾向がある、と感じています」“学生時代に読むべき本”は前述のジョン・ダワーを含め「昭和史に関する本は時間がたっぷりある学生のうちにぜひ読んでほしい。就活で必要な企業研究、業界研究にもなりますし、とりわけ戦後に日本がどう動いたかを知ると現代社会を見る目も変わってきます」と回答した。

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