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エバーグリーンからのお知らせ

2016.11.02

平成28年度第4回:「新聞をどう読み、活用するか」

概要

 

○講師:水越和幸氏(昭和61年商業学科卒/(株)北海道新聞社 本社編集局編集委員)

 

○題目:「新聞をどう読み、活用するか」

 

○内容:スマホやパソコンで簡単にニュースを見られる時代に、紙の新聞を読む必要があるのだろうか? そう思っている人も少なくないかもしれない。しかし、玉石混淆の膨大な情報が行き交う中で、現場からの一次情報を網羅して編集した新聞とうまく付き合えば、必ずいつかどこかで役に立つだろう。内外とも先の見通しにくい今だからこそ、問題解決のために、活字から得られる情報を積極的に活用する必要がある。新聞社に勤めて30年。道内外の現場での取材、編集、一線記者の指導、社説の執筆など、さまざまな仕事に携わってきた。長年の経験を基にした「情報の読み解き方」を皆さんにお伝えしたい。

 

なぜ新聞が役に立つのか

 

私は15年前にもこのエバーグリーン講座に登壇しました。
そのときは東京支社の記者で、グローバル経済と北海道経済のつながりや、新聞の上手な読み方といった話をしました。新聞を日常的に読んでいる人はどのくらいいますか、と聞いて、たくさんの学生が手をあげてくれたことを覚えています。同じ質問をいま大津先生からレスポン(アプリ)を使ってしてもらいましたが、気になるニュースがあるときに読むという人が3割ほど。毎日必ず読んでいるという人は1割くらいという数字には、予想外ではないにせよ、考えさせられました。就活前の1年生2年生が大部分だという学年構成も影響していると思います。
またネット以外のメディアで何を読んだり見聞きするか、という質問には、テレビと新聞が上げられていましたね。
 
私は1986年に北海道新聞社に入社して、旭川報道部や東京支社政治経済部、本社編集本部、帯広報道部などで仕事をして来ました。第一線の記者からはじめて、やがて記者の原稿に手を入れたり指導するデスクを10年あまり務めました。
3年ほど前からは本社論説委員として主に社説を書く仕事、そして今年の春から編集局編集委員というポストで、比較的長期的なテーマで専門性の高い記事を書いています。論説委員を英語でいうとエディトリアルライター、編集委員はシニアライターです。
シニアというくらいですからベテラン揃いで、全16名のうち50代前半の自分がいちばんの若手です(笑)。最近の仕事をすこし見ていただきます。夕刊で「わたしの中の歴史」という、北海道ゆかりの人々の聞き書きのシリーズがありますが、ここでこの夏、日立製作所の前会長川村隆さんの聞き書きを担当しました。また日曜版の「本と旅する」のコーナーで、9月に村上春樹さんの「羊をめぐる冒険」の舞台(美深町)について書きました。
 
さて冒頭のアンケートの数字はある程度想定内でしたが、生きている経済や商業を学ぶ商大生としてはもっと読んでいてほしいという気持ちがあります。ではなぜ新聞を読んでほしいか、そして読むべきか。そこを説明しましょう。
元外交官で作家の佐藤優さんはある雑誌への寄稿で、「いちばん重要な情報源は新聞だ」と言っています。第一次情報がとても多く載っているからです。一次情報とは、引用や伝聞ではなく、現場で記者が直接仕入れてくる情報のこと。道新はどのメディアよりもあつく道内に支局・支社のネットワークを張りめぐらせているので、この点がすぐれています。伝言ゲームを考えてみればわかるように、情報は源に近ければ近いほど正確になるのです。
皆さんもこの一次情報という情報の種類を意識してみてください。同じ原稿で佐藤さんは、経験から、政治・経済の第一線で活躍している人には熱心な新聞読者が多い、とも書いています。去る10月15日、新聞週間の道新企画紙面には、10代読者と若手記者の座談会が掲載されています。ここで商大2年の方が(この講義に出席していると思いますが)、こういう発言をしています。
「ネットだと関連記事がリンクしていて、いろいろ読みやすい。でも短すぎて、これだけ?と物足りなく思うこともある」、と。新聞もネットも、見出しで事実の確認ができます。でもネットだと、短い上に、自分が読みたいニュースしか見ようとは思わないでしょう。酪農学園大学の学生は、「マンガを読もうとしたら隣の台風のニュースが気になって読んでしまった」と言っています。これが、新聞ならではの一覧性ですね。気になるニュースがあっても読み切れなければ、あとで読めば良いのです。
報道においてもネット無しの社会は考えられませんが、新聞では、少し立ち止まって考えることができます。

 

 

新聞の効率的な読み方は

 

新聞を読む習慣のない人に、上手な読み方がありますか、と聞かれることがあります。
新聞は30Pくらいありますから、欲張る必要はありません。どこか自分にひっかかりのある記事から読み始めれば良いのです。あるいは定例の企画やコラムなどで面白い記事があれば、その欄を意識してみるのも良いでしょう。思わぬ発見があるかもしれません。道新では、「ニュース虫めがね」という、時事ネタをわかりやすく解説したコラムもあります。
また作り手から言うと、その日にいちばん伝えたいニュースをギュッと絞って構成される第一面(1頁)は、各紙ともとりわけ腕によりをかけて作っています。報道のプロが濃密な議論を交わして送り出しているものですから、時間があまりなくても一面には目を通していただきたいのです。私は仕事がら毎日5紙6紙に目を通しますが、優先順位をつけて、時間がなくて移動しなければならないときなど、重要だとおもわれる記事を切り取って出先で読みます。
 
もう少し具体的に言いましょう。上から下へただ漫然と記事を追うのではなく、問題意識をもって紙面と向き合いましょう。例えば国会の動きとか、北方領土に関わる動きとか、日本ハムファイターズを追ってみる。そして、自分で先ず問いを立て、仮説から答えまでを考えてみる。そのテーマを追いかけているうちに、自分の仮説が正しかったかどうかがおのずと分かってきます。
例えば日本シリーズでファイターズが初戦を大谷で落としたとしたら、2戦目以降の先発やリリーフはどうなるか、という具合です。こういう読み方は、どんな分野でも応用可能です。仮説は日々変わり、それが日々検証できます。
またネットで新聞やいろいろなニュースを検索する場合、検索力が重要です。北方領土を調べたいとき、これに日ソ共同宣言、などと加えるとずっと効率が良くなる。大学の授業でも就活でも、みなさんはいつも大量の文章をネットで読みます。効果的なキーワードを設定する力も、新聞を読み続けることで自然に身につきます。
 
私が大学生のとき、ジャーナリストの筑紫哲也さんが若手記者たちと語るテレビ番組がありました。いまも覚えているのは、筑紫さんが「新聞は主食なんだ」と強調したこと。
そしてテレビや雑誌はおかずだ、と。30年以上前の話ですが、ネットがさまざまな情報を大量に流し続ける現代であればなおのこと、正しいと思います。私の学生時代は、社説をちゃんと読めとよく言われたものです。論理の組み立て方や要約の技術、ものごとを分析する力が社説に凝縮されているからです。
私はこの春まで社説を書くメンバー15名のうちのひとりでした(札幌に9名、東京に6名います)。毎日昼に翌日の社説のための会議をマイクで行います。社としての主張を込めるわけですから、ひとつの記事に2回の会議を費やします。社説は敷居が高いと思うかもしれません。でも自分の興味をひくことがテーマだったら、ぜひ読んでみてください。私は社説で就活について書いたこともあります。また土曜日の紙面に「学生応援ページ夢サポ」という頁があります。これを担当しているのは私の先輩、つまり皆さんの先輩でもあるので、どうぞ親しみを持って読んでみてください。
 
日本ではいくつくらいの新聞があると思いますか? 一説には1000紙くらい。これは競馬新聞とか、あらゆる新聞を含んだ数字。新聞協会に加盟している新聞は104紙です。104紙を合わせた発行部数は、2005年には5200万部で、10年後の2015年には4400万部くらいに減っています。

このうち金融や交通、農業、工業、流通といった業界紙で構成される日本専門新聞協会があり、87社が加盟しています。皆さんの就職先によっては、専門誌、業界紙を読む機会があるかもしれません。ピラミッドの形であらわせば、北海道新聞や朝日、毎日、読売などの一般誌がいちばん広い裾野で、その上に日本経済新聞や工業新聞、いちばん小さな三角形をなすのは業界ごとの専門紙です。専門紙はその業界のニュースは詳しいですが、専門用語は知っているという前提でつくられています。そのことを頭の片隅に入れておくと良いでしょう。

 

 

30年前、15年前、そして現在

 

新聞社に入社して30年たちました。その間、直接でも間接でも、大きな歴史の瞬間に立ち会うこともありました。
例えば2011年3月の東日本大震災のとき、私は編集本部という、見出しをふって実際に紙面を構成するセクションで現場を率いていました。30年前の1986年と、私が前回エバーグリーン講座に登壇した15年前の2001年、そして現在。この3つの時代を比較すると興味深いと思います。まず仕事の環境。
30年前、私が書くのは手書き原稿でした。それをファックスで送ったり。連絡用に持たされたのは、皆さんは知らない(笑)ポケベルです。どこからでもとにかく電話をかけろ、というメッセージとして音が鳴るツールです。やがてワープロ専用機が出てきて、20世紀の末くらいからはパソコンの時代。そしていまインターネットやスマホが日常道具です。
 
日本の政治では、30年前は中曽根康弘政権で、15年前は小泉純一郎政権、いまは第二次安倍晋三政権。前後にいろいろな動きがあったものの、みな比較的長期政権となっていますね。国際情勢はどうでしょう。30年前は、米ソが対立した冷戦時代。私は国際法のゼミで国連でのこの2国間の緊張を調べたことがありました(冷戦が何かわからなければぜひ自分で調べてください)。15年前にはアメリカで同時多発テロがありました。9.11ですね。ではいまの国際情勢はどう俯瞰できるか。各地で起こるテロやシリア内戦、中国の成長など、「世界は渾沌である」としか言えないかもしれません。
 
経済で見れば、30年前の日経平均株価は18,000円くらいで、それから3年後の1989年の年末には39,000円に迫る史上最高値がありました。15年前、小泉政権発足時には1万円くらいで、2009年には7,000円ちょっとの最安値をつけます。いまは17,000円ほど。30年前とそれほど違いません。デフレといわれて久しいものがありますが、30年前の札幌市営地下鉄の初乗り料金は140円で、30年たったいまは200円。ものの値段がそれほど上がっていないことを実感します。
 
プロスポーツはどうでしょう。30年前にはJリーグもありませんでした(1993年発足)。15年前は、コンサドーレ札幌(現・北海道コンサドーレ札幌)が、前年に獲得したJ1の座を見事守りました。そして今年、コンサドーレはふたたびJ1の座をつかみそうな勢いです。プロ野球を見ると、30年前の北海道は大多数が巨人ファンでした。2004年に北海道に移転した北海道日本ハムファイターズは札幌ドームを拠点に着実にファンを増やし、現在では北海道の野球ファンの多くはファイターズファンになっています。今日は2006年の日本一のときの号外を見ていただきます。広島との日本シリーズを制して先日ふたたび日本一の座をつかみましたが、その日の夜、優勝の号外を求める人たちが道新本社に500人の行列をつくりました。
号外という特別な紙面も新聞ならではのもので、非日常的な伝達手法です。
一方高校野球では、30年前に北海道の高校が全国制覇するとは考えられなかったでしょう。駒大苫小牧高校が夏の甲子園連覇をなしとげたのが2004年と2005年です。
 
アイドルグループでは、30年前はおニャン子クラブがいました。プロデューサーは、いまはAKB48などをプロデュースしている秋元康さん。彼女たちが出る「夕やけニャンニャン」というバラエティ番組があり、これを見たいがために最後の講義に出ないというとんでもない友人がいたことを思い出します(笑)。
どんなことでも、時代の流れの中に位置づけてみると、より深く広い構図で見すえることができます。

 

 

新聞を読み比べる意味

 

ひとつの新聞記事でも、大きくふたつのパーツに分けることができます。
まず、客観的なファクト。そしてそれを解釈したり評価する文章がつづきます。
例えば10月22日の北海道新聞に、金融庁の行政方針が転換されたという経済記事が載りました。不良債権処理を優先して進めてきた従来の姿勢を転換して、地域経済の活性化を重視する方針を明確にしたのです。地方銀行などによる地域貢献への取り組みを客観的に評価する新たな指標を作ったので、将来性がある中小企業へ融資を拡大していってほしいという、中央官庁からのメッセージです。
方針の転換というファクトを告げた後で道新の記事では、リスクをできるだけ避けようとする金融機関の慎重な取引慣行は根強く、新方針の浸透には時間がかかりそうだ、と続いています。ここが記者の解釈ですね。おなじファクトをめぐっても、各紙には立ち位置や解釈にちがいが見られて、おもしろいと思います。道新や朝日新聞は中小企業側に立った見出しをつけていますが、読売新聞は金融手数料の透明化のことに焦点を当てています。
 
さらに日本経済新聞はと見ると、「融資は将来性へ」という調子で、あくまで金融業界全体の構図を捉えようとしています。1980年代後半。私が商大を卒業して3年ほどたつと、日本経済は絶好調の登り坂にありました。13の都市銀行を中心に大手行は20行といわれました。それらにはたくさんの学友が就職しました。しかしバブル経済が破綻して各銀行は不良債権処理に苦しみ、それまでなら到底考えられなかった統廃合が繰り返されていきます。いま、日本は3大メガバンクの時代です。
 
私が東京支社で経済の一線を飛び回っていたのは、まさにこの不良債権処理の現場でした。小泉内閣の竹中平蔵さんが経済財政政策担当大臣と金融担当大臣を兼任して、強者を軸にしたハードランディングを志向していました。しかし2002年の秋に出された金融再生プログラムでは、当初、地方銀行はこの枠組みとは異なる位置づけがされていたのです。
地域経済に根ざしたリレーションシップバンキングという概念が使われていました。ところが金融庁が地方にも厳しい目を向け、地銀への立ち入り検査などを積極的に行うようになります。時代が下って2015年に就任した森信親長官は、ふたたびリレーションシップバンキングの理念を掲げ、グローバル経済の中でこれを戦略的に実践すべきだと発言しています。
2002年に大蔵省の銀行局などから分離発足した金融庁は、10数年たって役所としての存在感を増していると言えるでしょう。このあたりのことをもっと深く知りたい方は、『ドキュメント銀行 金融再編の20年史/前田裕之』(ディスカバー・トゥエンティワン)、あるいは『捨てられる銀行/橋本卓典』(講談社現代新書)といった本を読んでみてください。
 
最後にインターネットについてひとこと。私がインターネットはほんとうに便利だなと思うのは、たくさんの新聞記者が集めてくるホットな一次情報の、さらにその元にアクセスできることです。金融庁をはじめ行政機関が出している統計情報は、いま誰でも簡単に見ることができます。何かの記者発表があった日の夕方には、元情報がサイトにアップされている時代です。官房長官が毎日行う会見も、首相官邸のサイトで動画で見られます。
これだけの大量の情報をどう受けとめて、勘違いすることなくどう活かしていくか。まさにその意識や技術が求められています。社会に出ると、上司や先輩は、大学の先生のようにはていねいに教えてくれません。ものごとを自力でどん欲に学んでいける力をつけてください。そのためには、いろんな人に会い、本を読み、判断力や解釈力を鍛えてください。学生時代はそのためにある時間です。北海道新聞は来年で創刊130年を迎えます。新聞も大きな変化のうねりの中にありますが、若い皆さんの役に立てるよう、これからもがんばっていきたいと思います。

 

 

〈水越さんとの質疑〉

 

Q(担当教員)ご自身が学生時代に読んで印象に残っている本にはどんなものがありますか?

A ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』ですね。1800頁くらいもあるとても長く難しい小説ですが、人間のあらゆることについて深くいろいろ考えさせられます。実は今年の夏に再読したのですが、あらためてすごい文学だと思いました。一度挑戦してみることをおすすめします。ネットの情報でまずあらすじの大枠をつかんだり、いまだからできる読み方もあると思います。

 

Q 新聞の15年後、30年後を予想していただけますか?

 

A メディアに限らないあらゆる分野と同様に、インターネットとの融合がいっそう進んでいきます。それによって新聞の形態も変わっていくでしょう。ただ、ニュースがパッと一覧できる紙としての新聞は残っていると思います。ネットの良さと紙の良さがさらに高い次元で融合しているのではないでしょうか。

 

Q(学生) 就活で新聞社を志望したいきさつはどのようなものでしたか? そして、学生時代に熱中したことはありますか?

 

A 高校生のころから新聞が好きで、自分も新聞をつくる仕事につきたいと思っていました。本多勝一さんのルポルタージュなどを熱心に読んでいました。まわりにマスコミ志望者は全然いなかったのですが、商大に入ったときから進路は新聞社に決めていました。学生時代にいちばん一生懸命取り組んだのは、ゼミです。中村恵先生の国際法。原書講読で英語がずいぶん鍛えられましたし、物事をマクロの目線で論理的にとらえることが身についたと思います。先生は残念ながら2016年春に亡くなられましたが、その教えはいまも生きています。

 

Q 同じニュースでも新聞社によってとらえ方がちがいます。どのように受けとめれば良いでしょうか?

 

A 講義でもふれましたが、新聞報道にはファクトと解釈・評価があります。新聞社によってちがうのは、解釈・評価の部分ですね。ファクトはみな同じですから。ネット社会の特徴で、皆さんには読みたいものしか読まない、という傾向があるのではないでしょうか。しかし社会のどんな見解にも反対意見があります。そこも意識してみてください。私は社説を書いていたとき、自分の論説に対する反対意見をつねに念頭に置いていました。そこを最初からふまえて自分の論を展開していました。

 

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