- <担当科目>
- 心理学I、心理学II、研究指導(ゼミナール)
杉山 成 教授
SUGIYAMA Shigeru
未来の目標のために生きるか、今ここに目をむけるか

かつては、未来という時間次元に抱く目標の内容や希望という感情を時間意識の中核ととらえ、「どのようにして目標・希望が作られるのか」という問題意識に基づいた研究を進めていました。そして、パーソナルコントロール(自身の行為と成果の結びつきに関する信念)を軸にして未来へのパースペクティブが生み出され、それに沿って個人の時間意識が体制化されていくというモデルを構築し、実証的データによる検証を行ってきました。
ところが近年になって、自身の研究の立ち位置に大きな転回が起こっているのを感じています。目標を描けないことで無気力になってしまったり、未来のために現在の自然な感情を犠牲にしてしまったりといった、目標や希望の持つ負の部分に目が向くようになってきたのです。そして、状況によっては、未来にとらわれずに「今ここ」の現実のみに心を向けることが適応的であると考えるようになってきました。これは学生の心理臨床にかかわるなかで徐々に自分の中で重要性を増してきた観点でもありますし、また、私自身が人生の後半を生きるようになったこととも深いかかわりを持っていると推測しています。
現在は時間意識の心理的意味が時代・文化や世代といったコンテクストによって異なるという前提に立ち、幸福感との関連性という枠組みで捉えなおして、ハイデッガーや禅仏教の時間研究も取り入れつつ、より広範なモデルへと改訂の作業を進めています。
身近な疑問を研究できる面白さ
心理学という学問の面白さとして、自分の生活上の疑問や問題意識をそのまま研究テーマにして、調査や実験を用いて検証し、答えを見つけることができるということがあるでしょう。
上で説明した時間意識の研究はその一つです。また、私の研究指導(ゼミナール)では、これまで卒業研究として「学習意欲のメカニズム」、「キャリア意識の発達とアルバイト経験/平等志向性/地元志向性との関連」「アクティブラーニングの学習効果」「大学生の幸福感の規定要因」といったテーマについて、ゼミ生とともに研究を行ってきました。たとえば、大学生の幸福感と推し活について行った調査からは、推しの対象を持ち、推し活をしていることは幸福感の高さと関連しているものの、推し活継続のためのコストが一定の範囲を超えると、その関係がみられなくなることがわかりました。こうした研究は学生にとって、とても身近なテーマであるため、研究で得られた知見に関する意見交換も自ずと活発なものとなり、そうした議論が次の研究へとつながっていきます。
また、私は大学に所属するサイコロジスト(心理学徒)として、心理学の授業のほか、公認心理師として学生何でも相談室のカウンセラーや、特別修学支援室という部署で障がいのある学生の支援を担当していますが、そこでの学生とのリアルなかかわりにおいても、多くのことを学ばせていただいています。

地域の障がいのある方への支援
これまで大学教員として、小樽市の教育委員会や保健所の仕事をいくつか担当させていただいてきました。現在は、北海道庁の後志圏域・障がい者の暮らしやすい地域づくり委員会に地域づくり推進員として参画しています。
2024年に障害者差別解消法が改正され、すべての事業者には、障がいのある方への合理的配慮(障害者の活動を制限するような社会的バリアを取り除くための必要かつ合理的対応)の提供が法的に義務づけられるようになりましたが、実際にはまだ対応が追いついていない状況です。特に後志のような人口減少のみられる地域では、支援の担い手不足や福祉施設の老朽化といった深刻な課題を抱えています。
私が大学で担当しているのは、障がいのある学生のために合理的配慮を調整するということであって、その目的は学ぶ権利の保障にあり、地域の課題とは異なる面も多くあります。ただ、他の委員は福祉の専門家や当事者代表の方々でいらっしゃいますので、異分野の人間がいることも多様な観点からの検討という面に寄与できると考え、地域の現状を勉強させていただきつつ、課題解決に向けて協議を重ねています。
ピアサポートによる心理学の実践

私の担当する研究指導(ゼミナール)では、対人関係や集団過程の心理を対象とする社会心理学、心の健康・不健康の理解と支援を目的とする臨床心理学についての学習、そして、それに基づいたピアサポートの実践をゼミの両輪として進めています。
ピアサポートとは学生が学生に対して行う種々な支援活動のことであり、近年になって多くの大学で取り入れられるようになってきました。カウンセラーという専門職が担当する学生相談室が「支援-被支援」という一方向的な関係であるのに対し、ピアサポートは、ピア(同輩)として同じ目線に立ち、「支えあう」関係のなかで問題解決を目指すという点に特徴があります。具体的な活動として、大学の授業や生活に関する相談会、レポート作成講習会、学科選択相談会などの相談会・講習会を定期的に開催しています。コロナ禍によって大学の授業が急遽、すべてオンラインになったときには、一人暮らしを始めたばかりの新入生に対する声がけや、さまざまな生活情報の提供といった活動も行いました。
普段のゼミナールの時間では、ピアサポートを支える理論として各種の心理学文献を輪読するとともに、グループワークやペアワークによるカウンセリングスキルのトレーニングを行っています。これらとピアサポートの実践を連携させることによって、他者や社会との望ましい関係のあり方に関してより深く考え、理解していくことを目指しています。
商学とリベラルアーツ
小樽商科大学は商科系の単科大学ですが、伝統的に専門科目だけでなく教養科目も重視してきました。「商」が人と人の間で行われる営みである以上、その本質を理解するには「人間性」への根源的な理解が必要であると考えてきたからです。それは人類がたどってきた歴史や文化、社会制度、人間のあり方に関する哲学や宗教、社会や政治のダイナミズム、国際関係、そして、人間をとりまく自然環境を正しく理解するということであり、こうした教養は「リベラルアーツ」とよばれ、現代社会の諸問題を解決する鍵になることが期待されています。
私の担当する心理学の授業においては、人間の感覚・知覚、記憶や思考の特徴と落とし穴、対人コミュニケーション、メンタルヘルスの課題といった人間心理に関するさまざまなテーマについて共に考えていきます。履修者のなかには当初、「自分の目で見たものだけを信じる」といった考えを持っている学生も少なくありませんが、授業を通して、人間が「自分の見たいものだけを、見たいように見ている」存在であるという現実を理解すれば、偏見・ステレオタイプやヒューマンエラーなど、そこから来るさまざまな誤謬を退けることができるようになります。また、人がしばしば非合理的な考えを用いて自らを不幸にしていることを理解することによって、自分をより自由にするマインドセットを身に着けることができるようになります。
こうした学びを通じ、人間というきわめて不完全で、しかし興味深い存在への関心と理解を深め、専攻する領域の学習・研究やキャリアデザインに活かしてほしいと考えています。

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