- <担当授業>社会情報論 情報システム論 システム戦略論
李昕翮 講師
Li Xinhe
地方議会の議事録が語る、対立・危機・そして技術
自然言語処理や政策立場推定の手法を用い、議員の発言から政策ポジションを可視化し、それぞれの発言が政策に対して肯定的か否定的かという態度も分析しています。こ
れにより、各政党の政策的立場や議会内での対立・協調の構図を捉えることが可能になります。
第二に、危機時と平時における地方議会の発言の違いについても研究しています。東日本大震災を事例に、災害発生前後で地方議員の発言内容やトーンがどのように変化したかを分析し、非常時における政治的対応の特徴を明らかにしています。
第三に、地方議会の会議録作成方法の変遷にも注目しています。かつては速記による記録が主流でしたが、現在では音声認識技術により自動的な文字起こしが可能となっています。にもかかわらず、依然として人手による修正・編集が行われています。その背景や、こうした技術的変化が議会の透明性や記録の信頼性に与える影響について検討しています。
伝えることばから、読み解くことばへ
本格的に研究の道へ進むことができたのは、学部研究生から博士課程に至るまで一貫してご指導くださった恩師のおかげです。研究テーマを検討する中で出会ったのが、地方議会の議事録でした。そこには地域の課題や議員の立場、政党間の対立・協調といった地方政治の実態が、日々の「ことば」として蓄積されており、最初は、その膨大なコーパスをひたすら読み続ける日々が続きました。
やがて、「もっと効率的に要点や構造を抽出できないだろうか」と考えるようになり、自然言語処理の分析手法に強く興味を持つようになりました。特に、議員の発言から政策スタンスや対立軸を定量的に読み解ける点に、研究としての面白さを感じました。また、先行研究のコードを実際に動かしながら理解を深める過程で、「ゼロから問いを立てて成果を生み出す」という研究ならではの醍醐味を味わいました。
こうした「正のフィードバック」が原動力となり、一時は分析に夢中になりすぎてパソコンを壊してしまったこともあります。そうしたときには、いつも先生が示してくれた原点に立ち返るようにしています。これからも、地方議会における発言の背景や対立の構図に丁寧に向き合っていきたいと思っています。

情報科学で高める地域社会の透明性
地域社会とのつながりという点では、私の研究は「情報科学で地域の意思決定を見える化する」試みです。議会の会議録を自然言語処理で解析し、政党や議員の立場、発言の賛否の動向を可視化しています。平時と災害時の言葉の違いを分析することで、危機対応の特徴や課題を明らかにし、地域のレジリエンス向上に資する知見を得ています。また、音声認識技術の導入と人手修正の実態を検討し、議会の透明性や信頼性の向上にもつながります。技術は目的そのものではなく、住民参加や政策判断を支えるための手段であり、社会情報学の研究として少しでもその一助になればと考えています。
情報に囲まれ、情報を問い直す
文系の学生にとって一番の難しさは、プログラミングやアルゴリズムを「抽象的で自分には向いていない」と感じてしまうことです。そうした苦手意識が、学びを進めるうえで壁になることがあります。
しかし、情報学やアルゴリズムは私たちの日常生活と切り離せません。短い動画やSNSでは、ユーザーの視聴履歴や好みに基づいてアルゴリズムが情報を選び、次々と提示します。その仕組みを理解すれば、「なぜ自分の画面にこうした情報ばかり届くのか」がわかります。逆に知らなければ、気づかないうちに「情報のフィルターバブル」に陥ったり、フェイクニュースを信じてしまう危険も高まります。
したがって、文系の学生にとっても情報学を学ぶ意義は大きいのです。複雑な情報を整理し、論理的に受け止める力を育てられるだけでなく、AIが生活の隅々に浸透していくこれからの社会では、その仕組みを理解することが政策や法律の研究にとっても不可欠になります。
ことばの背後にある社会を探る
私のゼミでは、テキストデータを使って社会や政治の現象を分析しています。いまの社会では、SNSの投稿やニュース記事、議会の議事録、商品レビューなど、日々膨大な言語情報が生まれていますよね。そこには、人々の意識や社会の構造、政治の動きが色濃く反映されていて、社会科学的にとても価値のある情報源になります。
ゼミの基本的な視点は、「ことばを通じて社会や政治の構造を読み解くこと」です。たとえば地方議会の議事録を分析すれば、災害復興や地域課題に対して議員がどんな姿勢を示しているのかが見えてきますし、SNSの投稿を分析することで、市民が社会問題にどう反応しているかや、話題がどう広がっていくのかも把握できます。
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