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教員インタビュー 王力勇教授

  • <担当科目>
  • 学部:観光マーケティング、アジア太平洋におけるマーケティング戦略、グローカルフィールドワークI・II、グローカルセミナーIII・IV、研究論文I・II
  • 大学院(現代商学専攻):国際市場戦略I・II、観光マーケティング特論

王力勇 教授
WANG liyong


観光マーケティングで「行きたい・良かった・また行きたい」をつなぐ

 観光マーケティングは、旅に出る「前・最中・後」の全ての場面で、人々がどのような情報や体験に触れると「行きたい」「満足した」「また行きたい」と感じるのかを考え、その仕組みを地域や企業の活動に生かしていく分野です。観光は“体験”そのものが商品です。だからこそ、体験の設計や情報の伝え方を工夫できれば、満足や再訪、そして口コミの広がりにつながります。逆にそこを誤ると、せっかくの魅力が伝わりません。

 これまで私は、企業側の視点から、宿泊施設・旅行会社・オンライン旅行予約サイト(OTA)などの流通チャネルの関係性に着目し、チャネルメンバー間の信頼やコミットメント(関係を続ける意思)が販売や協働、顧客満足にどのように影響するのかを研究してきました。一方で、顧客側の視点からは観光経験を扱い、観光地では観光客がサービス提供者や地元住民、他の観光客とさまざまな場面で関わり合う(インタラクションする)ことに注目してきました。こうしたインタラクションは、良い体験を生むこともあれば、望ましくない体験につながることもあります。そこで、「何が良かったのか/何が足りなかったのか」を明らかにし、体験の改善へとつなげる研究を続けています。

 現在は、スマート観光の文脈で観光経験(体験の質)をいかに高められるかに焦点を当てています。ICTの進化に加え、生成AIの存在感も大きく、旅の前には好みに合わせた行程提案や翻訳・要約による時短、旅の最中には多言語ガイドの補助や即時Q&A、混雑回避の提案、旅の後には体験記の整理や発信のサポートなど、旅の一連のプロセスをよりスムーズにします。そこで私は、こうした技術が観光客の行動をどのように変え、その結果として観光経験にどのような影響を与えるのかを、定性・定量データに基づいて調査・検証しています。

人×技術×場所――観光の今を解く学問

 観光マーケティングの魅力は、「なぜ人はその旅を選び、どこで心が動くのか」を“データ”と“物語”の両方で読み解き、すぐ現場の行動に結びつけられるところです。心理学や商学、経営、経済、デザイン、情報科学、地理・文化人類学までが交わり、調査方法もインタビューからアンケート、実験やレビューのテキスト分析まで幅広いです。学術と実務が地続きなので、発見をそのまま地域や企業の改善に活かせます。

 ICTやAIの進化も、この分野を一段と面白くします。予約や支払いのオンライン化は当たり前になり、ライブ配信やAR/VRで“その場にいる感覚”を作れます。色んなデジタル技術により、オフラインとオンラインが自然に溶け合っています。技術が行動をどう変え、新しい体験価値やビジネスをどう生むのか——ここを追いかける手応えがあります。
 そして何より“おもしろい”のは、研究の過程で多様な人と物語に出会えることですね。現地調査では観光客だけではなく地元の住民やサービス提供者と語り合い、笑いあり学びありのストーリーや思わぬハプニングに遭遇します。異文化の価値観やふるまいを体感し、「なぜそう感じたのか?」を仮説にして検証し、結果をすぐ現場で試せます。

研究×現場で、旅の満足と暮らしの幸せを、両立させる観光へ

 北海道、とくに小樽は、四季で表情を変える海と山、歴史ある街並み、旬の食の魅力がぎゅっと詰まった地域です。国内外の人気も高く、観光は雇用と地域経済を動かす大きなエンジンになっています。だからこそ、体験の質を高め、魅力を正しく伝えることが地域活性化の鍵になります。

 私は観光マーケティング研究者の立場から、自治体や事業者のみなさんと一緒に、課題の見える化と改善に取り組んできました。たとえば、中央バス観光開発株式会社からのご依頼で、小樽天狗山に関する中国のSNS投稿を2019年度の一年間収集・分析し、訪問の動機付けや満足度、どんな情報が響き、どこに誤解や不安があるのかを整理して報告書にまとめました。提案内容は、現場の情報発信や受け入れ体制の見直しに活用いただきました。

 研究は“人づくり”にもつながります。学生のフィールドワークでは、小樽天狗山さんや高級旅館の小樽宏楽園さんに毎年ご協力いただき、施設の見学・体験や経営者との議論を通じて、サービスの現場を肌で学んでいます。現地での学びは、そのまま学生の成長とサービスの改善提案につながります。

 また、自治体の観光客誘致戦略委員会や小樽観光協会のDMO形成連絡会議には委員として参画し、事業者・住民・行政など多様な関係者と議論を重ねてきました。現場で生まれた気づきを研究で確かめ、成果をまた現場へ返す――この循環を大切にしながら、訪れる人の満足と、暮らす人の幸せが両立する観光をめざして、これからも地域と協力しながら研究を進めていきたいと思います。

多文化協働型のグローカルセミナー

 私は一般的な二年間一貫型のゼミではなく、グローカルコースのゼミを担当しています。グローカルコースは「グローカルセミナーⅢ・Ⅳ」と「研究論文Ⅰ・Ⅱ」で構成されています。

 グローカルセミナーⅢ・Ⅳでは、グローカルコースの学生と交換留学生が一緒に学びます。毎学期、全員で議論を重ねたうえでグループに分かれ、各グループが関心のあるプロジェクトやイベントに取り組みます。教室だけで完結せず、現場にも足を運んで実地で学ぶことを大切にしています。これまでには、グローカルカースをプロモートするためコースの魅力をInstagramで発信したり、学生の視点で小樽の観光案内を制作したりと、挑戦してきました。学生主導なので、雰囲気はとてもフラットです。

 研究論文Ⅰ・Ⅱでは、主に観光マーケティングやグローバルマーケティングの分野で、学生が自分の関心からテーマを設定します。テーマ設定→調査設計→データ収集→分析→報告まで、教員が個別に伴走して研究方法を身につけます。過去の題材には、日本の緑茶のドイツ市場参入、インバウンド観光客の人的交流に関する口コミ分析などがあり、実データに基づく実証的な研究が中心です。

 グローカルセミナーで大切なのは、主体性と積極的なエンゲージメントです。交換留学生とのチームワークや多文化環境でのコミュニケーションが日常的に求められるため、議論力・発表力・実践力が自然と鍛えられるゼミを目指しています。

商大での学びについて

 学部では、私の担当科目の多くがグローカルコース生と交換留学生を対象にしています。受講生は日本人と留学生がほぼ半々で、互いに学び合う場です。授業は英語でのレクチャーに加え、少人数のグループワークと英語プレゼンが基本。日本人学生にとっては“学内留学”のような環境で、実践の中で自然と英語運用力が伸びます。文化背景の異なるメンバーと相互に教え合いながら、課題に取り組みます。

 一方で、文化的背景や社会的な慣習の影響もあって、慎重さが先に立ち「まず試す」より「正解を探す」に時間をかけてしまう学生もいます。しかし世界はめまぐるしく変化しています。国際情勢、デジタル技術、生成AI——昨日の正解は、今日は出発点。だからこそ、学び続けて考えを柔軟に更新する力と、異なる考えを受け止めるオープンマインドを、一緒に鍛えていきましょう。


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