
- <担当科目>
- 生物学I、生物学II、環境科学、現代の生物学、基礎ゼミナール、研究指導(ゼミ)
片山昇 教授
KATAYAMA Noboru
ササと両生類で読み解く森林環境
たとえば、春に出るチシマザサのタケノコは山菜として有用な森林資源ですが、ササは樹木の成長を妨げるため、林業施業の一環としてササ自体が伐採されることがあります。これまでの調査の結果、ササが伐採された後の場所ではタケノコの生産性が回復するまでに十数年を要することが明らかになりました。さらに、伐採でストレスを受けたササは葉にフェノールなどの化学物質を多く含むようになりました。この物質は昆虫や微生物の活動を抑える一方で、枯葉の分解を遅らせ、森林の物質循環にも影響を与えうることが知られています。こうしたササの性質の変化は、伐採から数十年にわたって持続することがわかりました。
また、ササの枯葉から溶け出す物質が、水たまりにすむエゾサンショウウオの幼生の成長に与える影響についても実験を行っており、森林施業の履歴が動物に間接的な影響を及ぼす可能性が示唆されました。こうした研究を通じて、森林管理と地域生態系のつながりを科学的に解明し、自然資源の持続可能な活用や保全に貢献することを目指しています。
関係が変わる瞬間を見つめて
私の研究の原点は、生態学における生物同士の関わり合い、特に動物と植物の相互作用への興味にあります。学生時代には、アリによって防衛される植物にアブラムシが寄生することで、アリの行動が変化し、植物にとってのアリの役割が「味方」から「敵」へと変化する過程を研究していました。また、植物と共生する微生物が植物の防衛能力や栄養吸収を変化させ、それが昆虫の摂食や枯葉の分解といったプロセスにまで影響を与えることを明らかにし、生物群集と物質循環のつながりにも関心を広げました。こうした基礎研究を重ねる中で、生態学の知見を社会に役立てたいという思いが芽生えました。
2012年に北海道大学・天塩研究林に着任した際、森林に豊富な山菜資源が有効活用されていない現状に触れ、森林と地域資源の関係に注目するようになりました。チシマザサの収穫実験やササの形質変化、エゾサンショウウオへの影響といった調査を通じて、森林環境の変化を「生き物の応答」から読み解く奥深さと面白さを実感しています。
自然と社会、見えない「つながり」を解き明かす
チシマザサのタケノコをはじめとする山菜は、生産量の時間的・空間的な変動が大きく、その理由は地元の山菜採り名人に聞いても明らかではありません。私の研究の柱の一つは、山菜などの森林資源が地域社会にもたらす価値を科学的に再評価することです。この課題は、「いつどこで山菜がたくさん採れるのか?」という素朴な疑問に答えるものであり、社会的にも意義の大きい取り組みです。加えて、私は環境教育を通じた社会との接点づくりにも力を入れています。
現在、エア・ウォーター北海道株式会社とNPO法人SoELaが企画する地球環境カードゲーム「マイアース北海道版」の監修を担当し、生物や生態系に関する専門知見を提供しています。学生や地域と連携したこの活動を通じて、次世代への環境意識の普及と持続可能な社会づくりに貢献したいと考えています。
好奇心が、研究の第一歩
私が主催する生物学ゼミでは、生態学に関する学術的な問いに対し、学生が自ら仮説を立て、それを実験で検証するプロセスを重視しています。卒業論文ではその成果をまとめるため、仮説の立案から実験デザインの構築、データの収集・整理、結果の解釈に至るまで、丁寧に指導しています。研究テーマは私の複数の主題の中から、学生の関心に応じて選びます。2025年度は5人の学生が所属し、チシマザサのタケノコ、エゾサンショウウオ、外来植物セイタカアワダチソウなどを題材に研究しています。卒論は個人テーマですが、実験や野外調査は研究室のメンバーが協力しながら進めています。
他大学との共同研究もあり、2025年度は北海道大学や龍谷大学とも連携しています。野外調査では課外施設に宿泊することもありますが、費用は研究費でまかなっています。生物や野外での研究に興味のある方は、ぜひ参加をご検討ください。
教養は社会人の必須スキル
小樽商科大学は商学を専門とする大学ですが、教養教育の一環として哲学や社会学、生物学といった人文・社会・自然科学の科目も大切にしています。社会に出てからこそ、教養の力が問われる場面は多くあります。たとえば、気候変動や生物多様性の喪失といった環境問題の解決には、自然や生態系の仕組みを理解することが不可欠です。また、国際情勢や経済の変動を読み解くためには、歴史や社会構造の理解も欠かせません。
教養は「すぐに役立つ」知識ではないかもしれませんが、長期的には物事を深く考え、柔軟に対応する力を養います。本学では、社会人向けの実践型ビジネス教養プログラム「Executive MBA」を通じ、教養教育を実践と結びつける取り組みも進めています。これからの時代をしなやかに生き抜くために、ぜひ教養教育にも目を向けていただきたいと思います。
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