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社会情報学科の阿部孝太郎先生から、お奨めの本を紹介してもらったよ!



昭和陸海軍の失敗 : 彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか / 半藤一利 [ほか] 著 -- 文藝春秋, 2007.12, 231p. -- (文春新書 ; 610)


 ここのところ、研究上、戦争関連の文献を読むことが多いので手に取ってみました。


 新書で、なおかつ大人数の対談ということで、あまり期待しないで読み始めましたが、結論から言って、とても刺激を受けました。帯にもある通り、ここに出ている症状(「派閥抗争が改革をつぶした」「良識派は出世できない」「凡庸なリーダーと下克上の論理」「『空気』に支配された集団」「成功体験の驕りと呪縛」)は、典型的な、日本の腐敗した組織のものだと思います。


 私は、今まで、戸部良一ほか『失敗の本質』(中公文庫)をはじめ、福田和也(対談者の一人)『地ひらく』、黒野耐『参謀本部と陸軍大学校』(講談社現代新書)、松本健一『日本の失敗』等、多くの戦争(特に第二次大戦)関連の文献を読んできましたが、それでも、この薄い新書に新たに教えられることが多くありました。


 特に気になったのは、陸海軍共に、凡庸で無責任なリーダーが出世して上層部に立ってしまったことです。陸軍の方は、相次ぐ派閥抗争や永田鉄山惨殺事件、石原莞爾の追放などで、本来リーダーとして優れた資質を持った人がいなくなったという知識はありま


したが、海軍の方は、ある種の仲良しクラブで、緊急時でも年功序列のシステムから抜け出せなかったということは迂闊にも知りませんでした。この意味では、むしろ海軍の方が、現在の日本組織の典型と言ってよいかもしれません。


 戸部氏は「上の人に能力を発揮されると困るから、能力のない人を上に持っていくのではないですか」と問題提起しています。


「グズ元」、または「便所のドア」(「どちらでも開く」ので)と呼ばれた杉山元陸軍大臣(盧溝橋事件ぐらい~敗戦まで)は、「近頃の若いやつはみんなよく勉強しているから、俺たちは出なくていいんだ」と開き直っていたそうです(半藤氏)。さらに、杉山に関して「『ボンクラなのに大臣になった』のではなく、『ボンクラだから大臣になれた』のでしょう」と秦氏はコメントしています。


 「今村(均)、本間、栗林(映画「硫黄島からの手紙」の栗林中将)らのように、中学生時代に世間の空気に触れたり、海外へ留学して違う世界を肌で感じたことがあるひとが出世することができるシステム」にならず、「難局に限って、無難な選択のつもりで無能なリーダーを選んでしま」ったのは、本当に日本の悲劇でした。いや、冒頭で書いたように、今も続く日本の悲劇です。


※上の文は、私(阿部)のブログから転載したものです。


<推奨文献>


阿部孝太郎 「日本的集団浅慮の研究・要約版」…集団浅慮という、頭が良い人が集まっても愚かな意志決定をしてしまうことがあります。この論文は、その集団浅慮について、90年代における大失敗事例を考察した論文(全体の要約)です。商大のデータベース(グーグル等でタイトルを検索すれば出てきます)で読むことができます。


山本七平『「空気」の研究』(文春文庫)…「空気」によって何となく意志決定してしまう日本の悲劇を最初に描いた傑作評論です。なぜか日本の組織論者はとりあげませんが、日本の組織を考える上で最も重要な著作の一つであると私は思います。


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