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2018/02/18 「読書の冬」と草森紳一さんについて

「読書三余」(どくしょさんよ)って言葉を知ってるかな?これは、読書をするのに好都合な三つの余暇のことなんだ。本来は「董遇三餘」(とうぐうさんよ)といい、中国の三国時代(A.D.220-280)、魏の財務大臣で学者でもあった董遇が弟子たちを諭した故事から来ている。

 

教えを乞う者たちに向かって、董遇は「まず書物を百回繰り返して読みなさい。百回読めば自ずと理解できるようになる(読書百遍而義自見)」と教えたんだ。すると一人が「私には書物を百回も読む暇がありません」と言った。董遇は「暇がないなんてことがあるものか。三余があるではないか」とたしなめた。「三余とは何ですか」という問いに、董遇は「冬という一年の余り、夜という一日の余り、雨という時間の余りである(冬者歳之余、夜者日之余、陰雨者時之余也)」と答えたんだって。(『三国志』魏志・王肅伝・注・董遇)

 

これを受けて、草森紳一さんが、「読書の冬」という随筆の中で、こう言っている。「読書は、「三餘を以てすべし」の発想は、農耕文化のものだということである。冬、夜、雨の「三餘」は、農業にとって、お手上げの時である。「読書の秋」は、虚業中心の「都市文化」、それに連なる「レジャー文化」の産物なのである。(中略)「イメージ」の時代、季節感を失った二〇世紀近代文明にふさわしいスローガンである。「三餘」の成句が、生き残りきれず、死語になるだけの理由は、十分すぎるほどある…」(草森紳一『本の読み方:墓場の書斎に閉じこもる』河出書房新社所収)

 

なるほど。「読書の秋」ってのは現代の話で、昔は「読書の冬」だったってことか?!

ところで、この草森紳一さんだけど、1938年生まれで惜しくも2008年に亡くなった北海道音更町出身の文筆家なんだ。

 

大学時代に中国文学を研究し、卒業後は出版社に勤務、その後大学非常勤講師などを経て「もの書き」になった。缶ピースとサブカルチャーをこよなく愛し、マンガ、美術、写真、音楽、デザイン、ファッション、建築、都市、テレビ、広告、歴史、文学、スポーツ、書、芸能、麻雀、本、旅など、超ジャンル、この世の森羅万象を、独自の視点と軽さを伴った華麗な文体で書きまくった。1973年には、著書『江戸のデザイン』(駸々堂)で毎日出版文化賞を受賞している。

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≪草森紳一さんのポートレイトと著作の一部(草森紳一記念資料室)。ポートレイトの撮影は大倉舜二さん≫

 

草森さんは、莫大な数の本を所蔵していたことでも知られていて、住んでいた東京の2DKマンションは3万2千冊の蔵書で埋まっていたんだって。それに加えて、当面仕事で使わない本については、音更の実家の庭に高さ10メートルの白い書庫「任梟盧」(にんきょうろ)を建て、そこに3万冊の本を保管していた。

 

この「任梟盧」がすごいんだ!商大図書館の職員さんがそこを訪ねたことがあるそうなので、その時撮った写真を借りてきたよ。

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≪任梟盧。1977年に完成。設計は山下和正さん≫

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≪任梟盧の玄関を入ってすぐ上の嵌め込みガラス。「草森」をデザインしている≫

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≪任梟盧の内部≫

 

「任梟盧」(にんきょうろ)という名前は、弟の草森英二さんによると、草森紳一さんが愛した中唐の詩人李賀(りが、A.D.791-817)の詩の一節からとって命名したものだそうだ。「任」はまかせること、「梟盧」はサイコロの目のことなので、「賽の目任せ」、「なるようにしかならぬ」、「勝手にしやがれ」といった意味らしい。

 

内壁はすべて本棚で、吹き抜けにはスキップフロアを設え、それを直線状の螺旋階段で結び、階段が天井の方まで続いている。まるでバベルの図書館!本に対するすさまじい思いと、建築へのこだわりが伝わってくるよね。およそ断捨離とは縁のない、知の仙人の隠れ家といったところか。

 

草森さんは、設計者に向かって、「内臓の内部のような空間にしてほしい」、そして「子どもたちが不思議がるような変わった建物にしたい」という希望を出したそうだ。

近年、松原隆一郎さん(社会学者/経済学者)が、堀部安嗣さんの設計による書庫を築造して話題になったけど、草森さんの任梟盧は、ひとつの先がけと言えるだろうね。

 

※残念ながら、現在、任梟盧は公開されていない。でも、Youtubeにその様子がアップされているよ。

https://www.youtube.com/watch?v=CcLprH0z6gM

 

東京のマンションにあった草森さんの蔵書は、遺族から北海道の帯広大谷短期大学に寄贈され、その多くは廃校になった東中音更小学校に保管されている。そして、帯広大谷短期大学図書館長の吉田真弓さんやボランティアのみなさんが、草森紳一蔵書整理プロジェクトとして整理作業を進めているんだ。

 

同大学には、2010年に草森紳一記念資料室もオープンし、研究や顕彰の動きも盛んになってきている。

また、未刊行の草森さんの原稿も大量に遺されており、この1月には、没後、何と18冊目の著作が共著の形で上梓された(草森紳一・嵩文彦『『明日の王』 詩と評論』未知谷

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≪草森紳一記念資料室。居心地のよい空間に、草森さんの蔵書が、一定期間ごとの入れ替えで、ところ狭しと並べられている。ほかに、年表、自筆原稿、遺品等を展示。資料検索用のパソコンも設置され、自由に閲覧することができる≫

 

※草森紳一記念資料室:

http://www.oojc.ac.jp/?page_id=6063

 

草森さんの本を読んでいると、該博な知見に驚かされるとともに、ユニークな着想や切り口にハッとさせられ、目から鱗が落ちるような瞬間がたびたびある。

今は冬の真っ盛り。「読書の冬」に、今年没後10年になる草森さんの言葉を思いながら、気になる本を手に取ってみてはいかが?

 

<参考>

※ブログ「その先は永代橋: 草森紳一をめぐるあれこれ」(草森さんについての関連ニュース):

http://d.hatena.ne.jp/s-kusamori/

 

※草森さんの本は、商大図書館も何冊か所蔵しているよ。WebOPACで探してみてね:

http://webopac.ih.otaru-uc.ac.jp/?page_id=13

    

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