講義テーマ:企業の見方


1.講義内容の要約

 講師である森田氏は公認会計士という立場上、企業の財務諸表監査を行う上で様々な企業と接触する機会が多かった。そして企業のマーケティング・マネジメント、特にナレッジ・マネジメントに興味を持たれ研究されている。
 端的に企業の財務状態や成績を見る指標として財務諸表がある。その情報の信頼性を高めるために会計監査制度があり、その情報を基に投資家は投資活動を行う。しかし財務諸表によって読み取れる情報だけで企業の価値を決めても良いのだろうか。企業はゴーイング・コンサーンつまりは継続した事業経営の主体として捉えられる。財務諸表には計上されない様々な情報がある。企業の価値を評価する上で、それらの情報も評価されなければならないのである。その代表例としてスウェーデンのスカンディヤ社のアプローチを紹介された。それは知的資本の情報公開である。その結果は株価の向上として表れている。株価の変動は貸借対照表の資産と負債・資本の関係から読み取れない知的資本の評価の変動であるということである。知的資本の評価を増大させる方法は企業により様々であるが、森田氏が注目されているのはナレッジ・マネジメントである。ナレッジとは価値のある情報のことであり、知識を組織内で共用し経営・作業の効率化などを図る上でも重要である。
 企業の業績を左右するのは経営者の意思決定であり、それを誤れば企業は倒産の道を歩むこととなる。たとえ経営者が有能であったとしても、従業員が無能または非効率的であったら企業は継続し得ないしその逆も同じである。また企業内の部門間で対立が起きたりすることも非効率的であるといえる。だからこそ人の関係が重要であり、それを強固にするためにも、ナレッジ・マネジメントやエモーショナル・インテリジェンスを取り入れるべきである。


2.問題提起及びコメント

 ナレッジ・マネジメントを企業内に取り入れる上で、ただ知識の提供を求めただけで会社にとって価値のある情報を集めることができるのであろうか。
 日本企業の伝統的制度として終身雇用制度や年功序列などがあったが、この制度の下では進んでナレッジを提供するというインセンティブは起きないであろうし、企業の老年化が起きやすい状態にあった。バブル後の不況により企業の経営自体も変革が行われてきたし会計ビックバンと言われる会計制度の変革も行われてきた。悪い言い方をすれば、企業の老年化が進むと変革に対する反発が強くなってくる。そういった点もナレッジ・マネジメントを行う上での抵抗となりえる。別な視点で見れば個人の成績の評価が業績主義であったとしたら、業績が優秀で独自のノウハウを持っている有能な従業員がそのノウハウを他人に提供しうるのであろうか。企業全体として効率化が進み業績が向上するとしても、個々人の業績が均一化したら自分の評価が下がると考えるのではないだろうか。この点においてエモーショナル・インテリジェンスを効果的に行う必要性があるだろう。またナレッジ・マネジメントを行う上で、ナレッジの提供者には正当な報酬を払わなければならないのではないだろうか。提供と報酬の制度が確立していることがナレッジ・マネジメントを成功させるために大切なことなのである。  


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