筆者の講義では4年前から「シャトルカード」を使用して平常点の採点を行っています。これは三重大学・織田揮準教授による「大福帖」を単純にしたもので、A4大の用紙に6回分の小レポート課題(または授業改善点についての質問)の記入欄とそれに対する教員の回答を並べてレイアウトしたものです。学生側のレポート記入と教員側の確認・添削を通して、学生−教員の間を行き来するという意味で、スペースシャトルになぞらえてシャトルカードと呼んでいます。平成12年に本学で行った織田先生のFD講演会「学生からのフィードバック情報をとりいれた授業改善−大福帖効果について−」を受け、自分の講義(160や210といった大教室で行うことが多い)に何とか学生とのインタラクションを持ち込めないかと考えて開始しました。
この方法の最大の長所は、学生一人一人にフィードバックを与えることができるという点です。基礎科目はレポートの書き方に慣れていない1年次学生の受講が多いため、レポートの回答にも話し言葉や流行語が平気で使用されていることが少なくありません。以前もそうした回答には次の回の冒頭で注意を促したりしていたのですが、大教室講義で全体に向けて注意をしても自分のことが言われているとは思いにくいようで、あまり改善の効果がありませんでした。その点、シャトルカードでのフィードバックは直接的なので非常に効果的です。教員のフィードバックへの疑問や反対意見が書かれて戻ってくることもありますが、そのような場合には互いが納得できるまで意見の交換を続けるようにしています。
さらに、副次的な長所として、代返の防止や小レポート回答の蓄積による動機づけ効果をあげることができます。まず前者は、一人の学生が一枚のカードに継続して記入していきますので、字をみれば代返をチェックすることができるということですが、ただ、これは代返を暴くというよりも、学生に代返をする気を失わせる効果となっているようです。実際、通常の(学生→教員という片道の)小レポートを行っていたときよりも学生の出席率はかなり上昇しているように感じています。後者については、自分のシャトルカードを眺めることによって学習の達成状況を把握することができるということによる効果です。学生の話を聴いたりアンケートの自由記述を見ていますと、成績についての達成状況が明確で取り組むべき目標が明確である(試験で何点くらい取れば合格、試験で何点くらいとれば優ということがわかる)ことは、そうした見通しがつかない場合に比べ、統制感を高めて試験勉強への動機づけを高める効果を持っているようです。
このように4年の使用を通してみて、筆者はシャトルカードの使用に一定の効果を感じています。ただ、小人数の授業であれば、直接、学生に注意やアドバイスをしたほうがより効果的でしょうから、この方法はそうした直接的なフィードバックの不可能な場合に限定される方法といえるかもしれません。また、この手法の短所としては、やはり添削に時間と労力がかかる点があげられます。200人超の受講生ですと半日以上は添削と出席チェックにかかりきりとなってしまうというのが現実です。ただ、こうした学生との(ささやかな)インタラクションは、どうやら教員側にとっても講義へのコミットメントと動機づけを高める効果があるようで、今後もしばらく継続していこうと考えています。
(一般教育・心理学 杉山 成)
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