講義テーマ:アイヌの人たちから学ぶもの
                         
1.講義内容の要約

 「人との出会いを大切にしていって欲しい」と大西教文さんは言う。あるアイヌの女性との出会いが、大西さんの生き方や人生観を変えた。「アイヌは野蛮で劣った人たち」という偏見や差別の中で、長い苦難の歴史をたどりながらも、彼らは高い精神文化を持ち、自然としっかり共生して生活してきた。彼らの中には現在もアイヌとしてのアイデンティティを持ってアイヌ文化を継承している人たちもいて、大西さんは一人でも多くの人たちにアイヌの人たちの文化や歴史を正しく理解してもらいたいと考えている。「イラムカラプテ」−これは「こんにちは」の意味のアイヌ語である。直訳すると「あなたの心にそっと触れさせてください」。大西さんはこのアイヌ語に優しさを感じ、非常に感動したという。北海道の市町村名のうち、約8割がアイヌ語に由来していることからもわかるように、アイヌは先住民である。本州が奈良・平安時代の頃、北海道は擦文時代であり、本州が鎌倉・室町時代の頃、北海道ではアイヌ文化が成立していた。そして、擦文文化とオホーツク文化が融合されてアイヌ文化が形成されていったのである。さて、アイヌの人たちは多神教である。アイヌ(人間)とカムイ(神)との間には密接な関係があり、カムイとは人間が素手で立ち向かえないもの、(熊などの大型の動物や伝染病、雷など)や人間の生活になくてはならないもの(火、水、家、船など)のことを指す。アイヌの人たちは安定した平和な生活を願って神々へ供物を捧げ、祈り、礼拝を行う。神々は捧げられた供物を持って神の国へ帰ることができるかわりに、必ず人間の願いを聞いてやらなくてはならない。つまりアイヌの人たちと神との間には、「持ちつ持たれつ」の関係が成立しているのである。また、アイヌの人たちは多くの他者の中に自分を置いた。彼らは自分を中心に置くという現代社会に多く見られる考え方とは逆の考えを持っている。


2.問題提起及びコメント等

 私が初めてアイヌの文化に興味を持ったのは、高校2年生の頃であった。部活動でラジオドキュメントを製作することになり、当時話題を呼んでいた知里幸恵さんの展示を見に行くことになったのだ。館内に流れるアイヌ語の歌や知里さんの書いた文の一節を読ませていただきながら、私も大西さん同様、アイヌ語のやわらかい音の響きに感動した。後にアイヌの文化を継承していこうとしている団体があることを聞き、その場にお邪魔して一緒に踊り、「スチョチョイ」という歌を教わった。北海道にはまだこのような活動をしている団体が少なからず残っていると聞き嬉しかった。偏見や差別の対象となりがちなアイヌの人たち。彼らは文字を持ってはいないが、素晴らしい文化と考え方を持っている。「人間は人間らしく」「必要以上のものをとらない」「多くの人たちの助けがあるからこそ今の自分が存在する」当たり前のようで現代人が全くといっていいほどできていないこの考え方を、アイヌの人たちは非常に大切にしている。アイヌの人を「野蛮で劣った人」とみなす人も一度、一緒に踊ったり歌ったりしてみるといい。彼らがいかに失うには惜しい文化を持ち、現代に必要な考え方をしているかわかってくるはずだ。この講義をしてくれた人に感謝したい。

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