Tim's Day
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| ―10月21日(月)― |
| この日はまるまるTim's dayであった。オーストラリアのナショナルコーチにしてチャーリーいわく“The
best coach in the world”であるTim Mclarlen氏とモーターに乗せてもらう。フォア2杯でHead
of the Charlesに出たが、この日はそれをくっつけて8+、リギング等もあって11:00くらいに出艇。初めはBillとTimと私の3人だったが何故か途中でBillが降りて私とTimと二人きりになる。8+の整調はシドニーオリンピックの銅メダリスト。確かに安定して上手い。ストロークペアはキャッチ前ツイストしているのに上半身の重心がボートのセンターライン近くにあって良い。あまりサイドに寄り過ぎるとドライブ前半の強さに影響してしまう。 3番のアウトハンドの肩がキャッチ前下に向かってしまう。サイドチェンジしたばかりとのこと。何やらインサイドの肩を引いてツイストしやすくしているように見えた。アウトの肩のラインを一直線上に、ギュッと力むようなキャッチをするなとも言っていた。 レートはずっとステディ、とにかく技術練習を多発。その中のいくつかはオリジナルだそうだ。1時間ちょっとの練習でワンハンド、ノンストラップ、ワイドグリップ、ナロウグリップ、4分の1〜2分の1スライド、そしてスラップドリルと言ってフェザーした状態のままフォワードしていってスクエアにしないでそのままブレードの背面を水面にたたきつけてバンと音を立てるドリルである。たたきつけたらブレードを水面に置いた状態からスクエアにしてブレードを水中に入れて後は普通に漕ぐ。ハードにたたきつけて大きな音であればあるほど効果的である。キャッチのgood feelingとtimingの練習。 夜はハーバード艇庫の2FトレーニングルームでTimのレクチャー。クラブコーチなど10数名が聴講する。One movement動きを止めないでつなげる事を最初に話す。題材にするのは2日前に何気なくモーターから撮っていたあの他チームのスカラーなどである。自分の理論をまず披露しそれのサンプルとしてそのビデオを流し問題点を指摘、ディスカッションのネタとして撮っていたのだ。聴講者の中にたまたま自分が漕いでいる所を撮られた人がいて笑いが起こる。てっきりボストンに来た記念に手当たり次第に撮っていたのかと思っていたが大間違いであった。ボートを漕ぐ人間がいる限り水上にはあらゆるヒントがある。コーチだって好奇心を失ったら退歩するのみだ。自分の浅はかさを恥じる。レクチャーはもちろん英語なので全部理解した訳ではないが、印象に残ったのはフィニッシュの引き方やキャッチの振り込み方を説明された時にハンドルの握りやヒジの角度などがいかに漕ぎに影響するかという視点を持たれていた事だ。 誤解を恐れずに言えば簡潔で分かり易い。しかしこの分かり易さに至るまでの彼の漕手として、又コーチとしての研究の奥深さが根底にある。あらゆるケースを想定し、あらゆるrowingを観察し、考え抜き、物理学、人体工学、運動生理学等の広範かつ深遠な研究を下敷きにして、いかにボートを速く進めるかという絡まった糸のような複雑な命題を一つ一つ解きほぐして我々の目の前で並べて見せてくれているかのようだ。誰でもわかるような言葉で非常に重みのある語りである。実はこれが最も難しい事なのである。自分が日本に帰ってから商大の選手に伝えなければならないのは、Timの一つ一つの具体的な表現だけでなく彼が体現しているrowingの本質である(どの程度理解したかはあやしいものだが)。 あくまでも自分なりにまとめてみると、rowingを考える上で最も重要なことはスタートからゴールまでボートを速く進めることである。水面に浮かべたボートを動かす上で「物理学」の原則を無視してはならない。摩擦、抵抗、てこの原理を介して加えられる推進力と艇上での漕手の前後運動によってもたらされる加速と減速。そのボートに推進力を与え、ボートの動きを支配するのが人間である。座った状態から水面と水平方向に最大に近いパワーを発揮しなければならないという極めて特異な競技上の特質の中でまず考えなければならないのは、その状況下でいかにすれば人体がその構造を最も有利に働かせてより高強度のパワーをアウトプット出来るかという「人体工学」biomechanismの原則である。脚、上体、腕を中心とした筋力の発揮とそのコネクション、オールを介して自分の体と艇と水を一つにつなげるための微妙なテクニックを司るハンドルの握り方。ボートが車のボディだとすれば人体はいわばエンジンである。そのエンジンの出力を上げるためにその動きを作り出してる筋肉とエネルギーを生み出し利用する能力を開発していかなければならない。そのために行うトレーニングは「運動生理学」の原則に従っていなければならない。ボートという競技の特質に合わせてチューンアップさせるのだ。ガソリンは当然食物、「栄養学」の出番である。そしてそれらの条件を最大限に発揮させるためにアクセルを踏み込む。それが選手一人一人の精神、意識となる。 Timのレクチャーは20分程ビデオに撮れたが、聞いていてわかったのは頭のポジションはボディワークに影響するということ。フィニッシュでアゴが上がっていればリカバリーを急がなくて済む(というかフィニッシュをしっかり引き付けようとするから相対的にリカバリーは急がなくなる)。尻逃げする選手もキャッチであごを上げろ。ドリルではフィニッシュを引かない状態から徐々に腕引きをつけていくものを紹介していた。シート浅くリカバリー深いスタイルよりもリカバリー浅くシートを深くの方が水平に漕ぐベクトルが大きくなるのでベターとのこと。シートを深く入れろということは、自分にとってはエントリーでブレードの下端が水面に当たってから水中に一枚の深さまでフルにカバーされるまでの「遊び」の部分に対応するためという視点から勧めていた事である。良く考えれば最もな事だ。一番簡単そうで実は極めて重要だと思ったのはハンドルの握り方だ。指の付け根のラインをハンドルの真上に置き、自然にくるみ込むように握る。フィニッシュでヒジの角度は45度(スカルの場合)、スイープの場合も似たような感じ。ただスイープでそうするためにはアウトハンドの握りは解放してずらさなければならない。ハンドルを握る両手の間隔はその人の肩幅によるそうだ。狭すぎるとフィニッシュでハンドルをコントロールする余地(enough room)が無い。広すぎると引きつけられない。そして一番知りたかったフェザーの返し方。自分は今まで「手首を下に落とせ」と言ってきた。もちろん肩やヒジの回転運動を加えずにクリアにフェザーする目的である。彼はArm&Fingersのコネクションと表現した。スクエアのまま水中からブレードを抜いてそれからフェザーする。そのとき手首を落としてハンドルを90°回すのと同時に指を使ってハンドルを転がすように(親指を伸ばしそれ以外の指は内側に曲げる感じで)フェザーする。ハンズアウェイを完了した後は指・手の甲・手首・前腕をここでリラックスしてフラットにする。スクエアにする際は「前にいる人をパンチするように」最初の握り方に戻す。この表現が面白い。 とにかく人間の体の作りから言って一番自然な形を追求している感じである。漕ぎの上手な人をも見ていて簡単そうに見えてしまうのはこのためであろうか。 |