FDコラム
授業改善の基盤としての教育心理学(1) 完全習得学習
教育開発センター 辻 義人

 FD活動とは,シンプルに意訳すれば「教育の質の向上を意図した活動」であるといえます。しかし,その活動内容は極めて多岐にわたるため全体像の把握は容易ではありません。個々の「教育の質の向上を意図した活動」は,どのように位置づけられるのでしょうか。
 ここで,その規模を観点とすることにより,比較的容易にFD活動の位置づけを確認することができます。以下に,規模から捉えたFD活動の3つのレベルを示します。

1.個人レベル…教員個人個人の教育能力の向上
2.組織レベル…組織全体でのカリキュラム編成
3.全学レベル…大学を挙げての設備の充実

 ここでは,これまで教育心理学において得られた知見から,個人レベルのFD活動において活用する方法について紹介します。

 まず,皆さんは「評価」という単語からどのような場面が思い出されるでしょうか。やはり,中間試験や期末試験などのテストの結果や,成績通知書などを思い出されることが多いかもしれません。しかし,教育心理学ではもっと広い概念で「評価」という単語を用いています。そして,ある研究者は「評価」を有効に活用することによって,内容を完全に理解させる授業が可能になると主張しています。

 ブルームは,完全習得学習(マスタリーラーニング)理論を提唱しました。完全習得学習理論では,指導と評価が一体的に捉えられており,評価は指導のための手がかりを得る手段とされています。診断的評価,形成的評価,総括的評価の3つの評価を通して,ほぼ全ての学習者に一定水準以上の学力を保証することが目的となっています。

 診断的評価とは,前もって学習者の実態を把握し,それに合わせた指導計画を立てるための評価です。例として,家庭教師を依頼された場面を想像してください。まず相手は何年生なのか,どの程度の成績なのか,非常に気になるものと思います。これは,相手の状態を知らずに,効果的な教育活動を行うことは不可能であることを示しています。

 形成的評価とは,教授活動を通して学習者がどの程度理解したかを確認するための評価です。これまでに教育活動で扱った内容について,どの程度理解しているか確認することによって,学習者は自分自身の理解の度合いを確認することができます。そして,教授者はその結果から指導方針の軌道修正が可能となります。

 総括的評価とは,従来から行われてきた中間・期末試験による評価を指します。その意義として,学習者は自分自身の努力の結果を知ることができることが挙げられます。また,教授者も次の教育活動に対する改善点などの情報を得ることができます。

 ブルームは,特に形成的評価の役割を重視しました。そして,この理論を活用することによって95%の学生が目標水準を達成できると主張しています。その数値の真偽はともかくとしても,教育活動において学習者の理解を確認する重要性については,納得していただけるのではないでしょうか。

《参考資料》
北尾倫彦・杉村 健・山内弘継・梶田正巳(1977),教育心理学[新版],有斐閣新書

 
  
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